サイエンス

ナルシシストの性格特性は陰謀論者に通じるものがあり陰謀論を信じやすいという研究


自身を過大評価し、過剰に愛するナルシシストは、共感能力に欠けて尊大な自尊心を持つと見られている一方で、実は自身の不安を隠すためにナルシシスト的な行動を取っている可能性があるなどの研究結果も報告されています。先行研究によりナルシシストは陰謀論に引き込まれやすいことが分かっていたのですが、新たな研究で「なぜ引き込まれやすいのか」が明らかになりました。

Why do narcissists find conspiracy theories so appealing? - ScienceDirect
https://doi.org/10.1016/j.copsyc.2022.101386

Narcissists Seem Drawn to Conspiracy Theories, But Why? : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/narcissists-seem-drawn-to-conspiracy-theories-but-why

以前の研究では、ナルシシストがいくつかの種類に分けられることが明らかになっており、特に2つの戦略によって規定される「尊大なナルシシズム」についての研究が最も盛んです。


この種のナルシシストは独自の感覚や魅力、空想を通じて自我を高めることによって賞賛を得ようと努力する「行為主体的外向性(agentic extraversion)」と、自己に対するあらゆる脅威を制御しようと他者を切り捨てたり、攻撃性や優越性を追求したりして他者に対抗しようとする「自己愛的敵対性(narcissistic antagonism)」を持ちます。また、この敵対性は心理学者の間で「脆弱(ぜいじゃく)型の自己愛」と呼ばれる気質につながり、これが行為主体的外向性の代わりに否定的な感情や自己意識に起因する「自己愛神経症」的な傾向を示すとのこと。

ケント大学のAleksandra Cichocka氏らは、これら外向的、敵対的、神経症的傾向という3つの側面はさらに4つの心理的特性に関連していると主張しています。4つの特性とは、「パラノイア」「支配と管理の欲求」「独自性の欲求」「だまされやすさ」というもので、Cichocka氏らはこれらの特性に関する既存の研究を要約し、ナルシシストはなぜ陰謀論に傾倒してしまうのかを分析しました。

◆パラノイア
パラノイアは偏執病とも呼ばれる精神障害の一種で、不安や恐怖といった感情から特定の妄想を抱いてしまうというものです。Cichocka氏らいわく、ナルシシストは「他人は悪意を持っており、自分を捕まえようとしている」と信じる傾向にあり、陰謀論者が抱きがちな「権力者から脅威を受けている」という認識に通じるものがあるとのこと。

Cichocka氏らの先行研究では、ナルシシズムのうち脆弱な側面と陰謀論的信念はどちらもパラノイアに関連付けられることが明らかになっています。また、サリー大学のErica Hepper氏らが行った研究でも、ナルシシストの脆弱・敵対的な側面がパラノイアに関連していることが分かっているそうです。Cichocka氏らは「パラノイアを陰謀論的信念とは明確に区別して扱う研究者もいるが、他者が自己を脅かしているというパラノイアが、より広く社会が脅かされているという陰謀論的信念に波及する可能性があるというのはもっともなことである」と記しています。


◆支配と管理の欲求
Cichocka氏らによると、陰謀論者は自分の失敗や不幸を他人のせいにし、他人を「スケープゴート(いけにえ)」として扱う傾向にあり、その際に陰謀論を引用することもあるそうです。ナルシシストが持つ自己愛的敵対性や、他人を信用せず、他人を支配したいという欲求も、陰謀論的信念に通じるものがあるとのことです。

◆独自性の欲求
独自性を追求して称賛を得ようとするナルシシストは、特権的な情報にアクセスして特別な存在になったと感じさせる陰謀論に関連している可能性が高いと見られています。オレゴン大学のCameron Kay氏が行った研究では、脆弱なナルシシストはパラノイアに苦しむ故に陰謀論を信じているのに対し、尊大なナルシシストは「特別になりたい」という思いから陰謀論を信じている傾向にあるという証拠が確認されたとのこと。

◆だまされやすさ
ナルシシストは一般的に自分の能力や判断、知性を過信しているものの、世間知らずである傾向にあり、自らを省みることを怠る可能性が高いとされています。これにより、ナルシシストは陰謀論を懐疑的に見ることができず、影響を受けやすい可能性が示唆されています。アラバマ大学のWilliam Hart氏らが行った研究では、自己愛的な敵対心が高い人はだまされやすく、情報が信頼に値しないことを示す手がかりに気づきにくいことが分かっています。新型コロナウイルス感染症の陰謀論を信じた人とナルシシズムとの関連性を調べた中国・厦門(あもい)大学のAshraf Sadat Ahadzadeh氏らの研究では、そもそもソーシャルメディアの投稿に対して懐疑的でなかった人に、陰謀論的信念とナルシシズム的特性の強い関連が見られたそうです。


以上の結果から、Cichocka氏らは「ナルシシズムの様々な側面と陰謀論的信念を結びつける強固な証拠は、重要な意味を持つ」と述べました。また、この結果はさまざまな物の見方に応用できるそうで、例えば一般人よりもナルシシズム傾向が高い政治家は、陰謀論に陥りやすい危険性があるということだと記されています。

Cichocka氏らは「陰謀論に傾倒する自己愛的欲求をより良く理解することは陰謀論とナルシシズムとの関連性を断ち切るために不可欠であり、その心理的欲求を制御するか、別の方法で満たすことによって支えられる」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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