Amazonマーケットプレイスを汚染する中国企業の恐るべき戦略とは?
個人や中小企業がAmazon上にストアページを構えることができるAmazonマーケットプレイスは2000年にスタートしました。しかし、誰でも自由に商品を出品できるAmazonマーケットプレイスには、品質が悪い商品やサービスを提供する業者も多く、まさに玉石混交となっています。アメリカの経済紙であるウォール・ストリート・ジャーナルが「中国の業者があまりにも増えすぎたために、Amazonマーケットプレイスの機能が低下している」と指摘しています。
The Surprising Reason Your Amazon Searches Are Returning More Confusing Results than Ever - WSJ
https://www.wsj.com/articles/the-surprising-reason-your-amazon-searches-are-returning-more-confusing-results-than-ever-11656129643
Amazonマーケットプレイスはスタート当初、メーカーや中間業者、安売り業者、そしてAmazonが自由に競争する場となり、その結果価格引き下げを生み、消費者にとって有益となりました。ウォール・ストリート・ジャーナルは「Amazonにとっての目的は在庫にかかる費用を増やすことなく品ぞろえを豊富にすることであり、外部業者に在庫管理を任せることで、Amazonマーケットプレイスは新しいビジネスモデルとなりました」と述べています。
しかし、Amazonが2010年代半ばに、多くの商品を低価格で提供する狙いで中国のメーカーや販売業者に働きかけた結果、Amazonマーケットプレイスの出品者で中国の業者が占める割合は急増しました。調査会社・Marketplase Pulseのデータによれば、Amazonの出品者上位1万人のうちで中国に拠点を置く業者の割合は2016年で約20%だったのが、2020年末ではほぼ50%にまで増えたとのこと。
そして、中国の販売業者は「有名ブランドを安く売る」ことではなく、「Amazonの総合ランキングで上位に商品を表示して売る」方針で事業を展開しました。検索アルゴリズムに最適化することで、他の出品者と同じ商品を取り扱っていても、上位の出品者は検索ランキングの上位に表示され、「その商品を扱う出品者」として知名度が上がるわけです。また、Amazonのレビューや星評価によるシステム、「Amazonおすすめ」のタグによって、「まったく無名のブランドや商品であっても一定以上の品質は保証されているようなイメージを消費者に与える戦略」も取られました。
しかし実際は、中国の出品者が提供する商品には偽造ブランドのものや消費者保護基準を守らないものが多かったことがわかりました。もちろんアメリカに拠点を置く出品者にも同様の問題を抱える者も多く、品質やサービスのよさで評価されている中国系ブランドも存在します。それでも、「Amazonに出品している中国業者は商品の品質やサービスの質が悪い」ということは広く知れ渡ることとなります。
ウォール・ストリート・ジャーナルは「Amazonが中国の業者にAmazonマーケットプレイスを解放したことで起こった問題は、近年になってより明らかになってきています」と指摘。2019年にウォール・ストリート・ジャーナルの記者がAmazonで、取扱いが禁止されている商品や安全性が低い商品、誤解を招く表示がされた商品などを数千個以上もAmazonで発見したそうですが、そのほとんどが中国の出品者によって販売されていたとのこと。また、Amazonの検索結果で自分の商品をできるだけ上位に表示させるために、出品者がAmazon社員を買収する事件も起こっています。
2021年5月には、Amazonで商品に偽のレビューの書き込みを依頼する業者とその顧客である偽レビュアーの存在が、20万件以上の個人情報を含むデータベースの漏えいから明らかになりました。
Amazonの偽レビュー組織が20万件以上の個人情報を含むデータベース漏えいで明らかに - GIGAZINE
また、Amazonでブランドを確立するためには、Amazonが本拠地を構えるアメリカで商標を登録する必要があることから、アメリカ特許商標庁には新しい商標が大量に登録申請されているとのこと。
もちろんAmazon側も手をこまねいているわけではなく、1万2000人と9億ドル(約1200億円)を費やし、250万件以上の不正な出品者アカウントをBANしたと、Amazonの広報担当者は述べています。また、2021年9月にはやらせレビューや偽レビューが多い中国ブランドのアカウントを600以上も削除したことが報じられました。
Amazonが偽レビューまみれの中国ブランド600超を追放したと発表 - GIGAZINE
Amazonで商品の販売を行う業者を対象としたコンサルティング企業・Avenue7Mediaのジェイソン・ボイスCEOは「Amazonマーケットプレイス側も対策を取ってきていますが、禁じられた卑怯な戦術を使う業者とのいたちごっこが延々と続いていることは明らかです」とコメントしています。
さらにウォール・ストリート・ジャーナルによると、Amazonに出品する小規模な中国業者を吸収して拡大する「アグリゲーター」が登場しているとのこと。中国の業者がAmazonで販売事業を続けるためには、Amazonでのブランディング・広告出稿・商品管理に対応できるだけの資金とスタッフが必要になるため、小規模な販売業者は販売事業を持続できなくなってしまいます。そこで、アグリゲーターが小規模な出品者から販売事業を買収しているというわけです。
Amazonは「特定の国に拠点を持つ業者を取り締まっているわけではない」と述べていますが、ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、追放された業者の多くは中国に拠点を構えているとのこと。それでもAmazonへの出品をあきらめない中国の業者が存在するのは、Amazonがアメリカやヨーロッパで主流のeコマースプラットフォームであるからだとウォール・ストリート・ジャーナルは主張。実際にAnkerは製品の販売プラットフォームをほぼAmazonのみに絞ることで、2021年時点で10億ドル(約1300億円)の売り上げをAmazonで叩き出しており、Amazonをきっかけとしてグローバルに飛躍した中国企業の例といえます。中国の投資家であるルイ・マー氏は「中国に拠点を置く企業が欧米での消費者を獲得したいのであれば、単純な事実としてAmazonを利用しなければいけないのです」とコメントしています。
ウォール・ストリート・ジャーナルは「さらに広く見れば、Amazonは、拡大し続けるプラットフォームで顧客に価値を提供する方法を根本的に考え直す必要があるかもしれません。消費者には選択肢が多すぎて、私たちをだまそうとする無名ブランドがいるように思います。ジェフ・ベゾスが『顧客を第一に』と言っていましたが、そういった無名ブランドがそんなことを考えているとは思えません」と述べました。
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