Valve創設者がPCゲームをいつでもどこでも遊べる携帯ゲーミングマシン「Steam Deck」について語る
by Dota 2 The International
「Half-Life」シリーズや「Dota」シリーズなどを開発したゲーム企業で、オンラインゲーム販売プラットフォーム・Steamの運営元でもあるValveが、携帯型PCゲーム機である「Steam Deck」を2022年2月25日に発売しました。このSteam Deckの発売直後に、Valveの創設者であるゲイブ・ニューウェル氏が、ゲーム関連ニュースサイトであるRock Paper ShotgunやPC Gamersのインタビューに答えています。
Gabe Newell talks Steam Deck, crypto risks and why the PC industry “won’t tolerate” closed platforms | Rock Paper Shotgun
https://www.rockpapershotgun.com/gabe-newell-interview-steam-deck-crypto
Valve has no plans for a 'Steam Pass,' but would help Microsoft put Game Pass on Steam | PC Gamer
https://www.pcgamer.com/valve-has-no-plans-for-a-steam-pass-but-would-help-microsoft-put-game-pass-on-steam/
Q:
Steam Deckは、Valveがずっと作りたかった携帯ゲーム機なのでしょうか?また、その出来栄えにはどれぐらい満足していますか?
ゲイブ・ニューウェル氏(以下、ニューウェル氏):
非常に満足しています。私がPCゲームをプレイしだしたような最初期から、PCゲームのプレイ体験を携帯機にうまく反映できそうに思っていました。そして、ついに電力1W辺りのMIPSは実現可能なレベルに到達しました。
これはBlackBerryとiOSの変遷のようなものです。BlackBerryは基本的に1つのアプリケーションをそつなくこなしていましたが、iOSの登場以降はもっと汎用的なモバイルコンピューティングデバイスが充実するようになりました。入力方式、優れたディスプレイ、十分なバッテリー駆動時間、GPUやCPUのパフォーマンスなどが向上し、399ドル(約4万6000円)の価格で携帯PCゲーム機が実現できるようになったという感じです。ですから、この結果には非常に満足していますし、今後の展開にも大いに期待しています。将来的にPC業界がすでに予想している価格当たりの性能や電力効率の上昇カーブに乗ることができれば、さらに満足の行くものとなることでしょう
As part of the Steam Deck launch, we've updated Steam with a "Great On Deck" page, added Steam Deck verification status on game store pages, and launched a site to check your own library for Deck compatibility: https://t.co/7img87j6Do pic.twitter.com/zvaJXDIYgg
— Steam Deck (@OnDeck) February 25, 2022
Q:
Valveの提供するValve IndexはハイエンドなVRヘッドセットです。Steam Deckも同様にハイエンドをうたいながらも、PCよりもずっと安い価格設定になっています。どのようにしてこの価格帯になったのでしょうか。
ニューウェル氏:
VRを考える上で課題になることは、最も魅力的な体験を構築することだと考えています。実際、人間工学や視覚的な再現度、トラッキングの質など、VRには根本的に改善すべき部分があると考えています。一方、携帯型ゲーム機はもともと価格に敏感なカテゴリーでした。重要なのは、PCゲームの定義を抜本的に変えることではなく、価格効率の高い方法で、モバイルユーザーにゲーム体験を提供することです。
Valve IndexとSteam Deckで目指しているものが違うというのはその通りです。今にして思えば、Steam Deckの価格帯を抑えることはそれほど重要ではなかったと思います。私たちは低価格に強くこだわっていましたが、私たちの予想をはるかに超えて一番高価なSKUの予約注文がありました。私は、販売台数の大半は安価なSKUになると思っていましたが、実際はその逆でした。つまり、メモリ・ストレージ・性能の面で「十分ではない」「もっと高くてもいい」というのがお客様の声なのです。これは興味深いことです。今後は状況は変化して、いずれはSteam DeckのSKUも増えていくでしょう。
Q:
Steam Deckで楽しく遊べるゲームの中で特にお勧めのタイトルはありますか?
ニューウェル氏:
「ファイナルファンタジーXIV」をやっています!(笑) 「World of Warcraft」は本当に長い間、脳が壊れるまでプレイしていましたが、ついに引退してしまいました。テレビゲームで「もうダメだ、やってられない」というような経験はありませんか?
Q:
あります、あります。
ニューウェル氏:
息子の1人がファイナルファンタジーにハマっていて、私にプレイさせろとせがむんです。彼はいつも夢中で装備をいじっていて……ある時に息子が何かの装備にマテリア装着をやってたら、10回連続で装備が壊れたらしく、それで私に文句を言いに来たんです。僕は「何を言ってるのかわからないよ」と返すんです。で、僕も遊んでみるとこれが結構良いゲームで、コントローラーのサポートなども充実しているものだから、そのまま遊んでいるという感じです。
Q:
Valve IndexやSteam Machine(Steam Box)など、Valveの過去のハードウェアから学んだことで、Steam Deckを作る際に意識したことはありますか?
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ニューウェル氏:
Steam Machineの経験から、サードパーティー頼りではなく自分たちで製品を提供する必要性を強く感じました。核となるコンセプトを箱に入れてお客様に届けるまでには、さまざまなトレードオフや決断が必要です。サポートやパッケージの問題、箱から出した後のプレイ体験、価格設定など、すべてを自分たちで行うことに大きな価値があることを学びました。お客様に価値を提供するためのフレームワークを与えても、自分と同じような一連の選択をさせることはできません。ただ、そのような選択をするように仕向けるのです。
そして、それが実現すれば、 「ファイナルファンタジーXIV」 のようなゲームを携帯機で動作させるために必要なソフトウェアや入力の問題をすべて解決できると期待できます。お客様の成功がどのようなものになるかを示す実証済みのモデルができたので、ランダムな微調整は行いません。
Q:
Steamは最近、NFTや仮想通貨を組み込んだゲームを禁止しましたが、業界全体では逆の方向に動いているようです。これらのブロックチェーン技術は、ゲームにおいて何らかの役割を果たすと考えていますか?
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ニューウェル氏:
基盤となる技術と、その技術を利用する者を分けて考える必要があります。例えばあなたが化学者で、ニトロセルロース(火薬の材料)を初めて見たら、「これを使えば本当に面白いことができる」と考えるでしょう。でも、みんなが銃を買って人を撃ったら、「化学ってすごいけど、悪い結果も生み出すんだな」と考えるわけです。
by Pierre Lecourt
NFTと人を撃つことを同列に扱うわけではありません。ブロックチェーンの基礎技術、デジタル所有権の概念、メタバース、これらはすべて非常に合理的なものだと思います。しかし、NFTや仮想通貨に関わる人々は、多くの犯罪行為や怪しげな行動に関与している傾向があります。つまり、基盤技術や理論的根拠よりも、使う側がはるかに重要なのです。
Steamは一時期、仮想通貨での支払いを認めていましたが、その結果お客様をひどく怒らせてしまったことがありました。仮想通貨は相場に連動して価格が変動するのが問題なのです。実際に日々買い物をするときに、ものすごい変動があることを知りたくはないでしょう。例えば、『ある日は497ドル(約5万5000円)も使ってゲームを買ったのに、次の日は47セント(約50円)しか使っていない、どうなっているんだ!』と。価値の変動性は、交換手段には不適です。仮想通貨を使うという選択肢よりも、価値の変動性の高さがお客様に苦痛を与えていたことが、ひとつの問題点でした。
もうひとつの問題点は、仮想通貨やNFTに関する取引の大半が何らかの理由で取引をなかったことにしたり、違法な資金源を使ったりする不正なものだったということです。これはもう、どうしようもないことですし、NFTの分野で活躍している企業はどうしても取引したい相手ではありません。これは、基盤となっている技術を批判しているのではなく、仮想通貨やNFTを「お客様からお金をむしり取ったり、マネーロンダリングを行ったりするためのもの」と捉えている人たちを問題視しているに過ぎません。
Q:
ValveはSteam Deckを含め、Linuxゲームに積極的な企業の1つでした。ValveはLinuxやオープンソースゲームの実現性を高めることに成功したと考えていますか?
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ニューウェル氏:
もちろん。私たちがやりたいことを実現するためには膨大な労力が必要で、これまでにない柔軟性が必要でした。Linuxで操作しているゲーマーがLinuxを使っていることに気づかないようなシステム、つまり、OSが透明であるような体験を実現することが、ここ数年で私たちが達成した重要なことの一つです。
Q:
Steam DeckのOSアンインストールや再インストールに関して言えば、もっと制限されたものにする計画はなかったのでしょうか?それとも、最初からオープンである必要があったのでしょうか?
ニューウェル氏:
私は、PCのオープン性というのは愛すべきものだと思っています。そうでしょう?私たちは何も制限したくはありません。人々を何かにつなぎ止めることに価値を見いだせないのです。オープンであることが良いのか悪いのかを後付けで理解するのではなく、オープンな状態から始めて構築していくというのが戦略の核となる部分です。ユーザーやサードパーティによって生み出されることで、何が本当にパワフルな機能になるのか、それはわかりません。ただ、遅かれ早かれ、そういうことが起こるだろうとは思います。Steam DeckのCADファイルを公開したのも、そういった理由からです。
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もし明らかに素晴らしいものがあれば、私たちはそれを採用します。もしくは誰も思いつかないような驚くほどクールなものを誰かが発案すれば、それがSteam Deckやそれに類する製品をより魅力的なものにするのだと思います。どこから出てくるかはわかりませんが、遅かれ早かれ登場します。それがオープンな世界に関わるパワーの一部なのです。
これは、堅苦しい中央集権的なものではなく、コミュニティの一員であろうとするコラボレーションやモチベーションについて、かなり楽観的な見方だと思います。これは、ブロックチェーンに対する私の考え方と相反するものです。すべては完全に分散されています。中央集権化された台帳では中央集権はまったく必要ありません!(笑)
Q:
Microsoftは、WindowsとXboxの両方で数百万人の加入者を持つまでに成長した有料サブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」を展開しており、これらのゲームはSteamではなく、独自のアプリから実行されます。ValveもXbox Game Passのような独自のサブスクリプションサービスを考えているのでしょうか?あるいはXbox Game PassのゲームがSteamで実行できるようになる予定はあるのでしょうか?
ニューウェル氏:
今のところは、サブスクリプションサービスの構築は必要だと思ってはいません。しかし、お客様にとって明らかに人気のあるオプションです。SteamからXbox Game Passのゲームを遊べるようになるためにMicrosoftと協力することができるのであれば、うれしいことですね。
Q:
ニューウェル氏は「Half-Life」シリーズの制作に携わり、さらに(記事作成時点で)最新作の「Half-Life Alyx」の開発にも関わったことで、Valve内でもっとひとり用のゲームをやろうという機運が高まったとおっしゃっていましたね。Steam DeckもValve内に影響を与えましたか?
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by Niranjan
ニューウェル氏:
Steam Deckには非常に期待しています。今回のバージョンは言いようのないモバイルゲーム体験、つまりSteamライブラリがそのまま携帯機上で動くという体験を提供できたと思います。そして、ソフトウェア開発者が新しいゲーム体験を実現するための機会を提供するような機能について、これから考えていくことに興味を持っています。
今のところはPC版もモバイル版もすべて同じ機能ですが、今後はモバイル向けにしかない機能にも目を向けたいですね。例えば「ポケモンGO」はモバイルゲームの可能性について考える人々にもっと大きな影響を与えてもおかしくありませんでしたが、実際はそうではありませんでした。Valveもモバイルゲームの可能性を広げるために非常に重要なコンポーネットのセットを構築しました。そして、研究開発モードに入っています。
今後数年間のCPUとGPUのロードマップを見るとコストパフォーマンスは着実に向上していて、とてもエキサイティングです。しかし、モバイルゲームの体験を拡張できるような新しいアイデアをいくつかプロトタイプ化するソフトウェア面の進化も、非常にエキサイティングなことなのです。ソフトウェア開発者のところに行って、「くだらない」とか「なかなかいいじゃないか」と言われることもあります。ハードウェアのプロトタイプと合わせて、ソフトウェアのプロトタイプを一緒に作って実際に試してみて、単に何かが可能になっただけではなく、それで何ができるかをオープンにできるようになるととても興奮します。だから、私たちはかなり気合が入っています。私たちは、これからも革新的であろうとする意欲に満ちています。
Q:
それはファームウェアのアップデートや機能の更新でしょうか?それともSteam Deckというハードウェアの次世代バージョンのことでしょうか?
ニューウェル氏:
ソフトウェアが更新されることも、ハードウェア側の多くの機能が改善され続けるということもいいことだと思います。例えば、消費電力の少ない部品や少し軽くなった部品など、「カーテンの裏側」のようなアップデートです。こうしたアップデートはすべて、お客様に対して高い透明性を保って行うつもりです。
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