3200℃まで加熱されるロケットエンジンはどうやって高温に耐えているのか?
宇宙船に用いられるロケットエンジンの燃焼室(チャンバー)では、ガスが約3200℃まで加熱されることがあります。エンジンが正しく機能するためにはこの高温が必要であり、多くの材料の融点を超えるこの高温に耐えるにあたっては、いろいろな工夫が取り入れられています。
Engine Cooling - Why Rocket Engines Don't Melt | Everyday Astronaut
https://everydayastronaut.com/engine-cooling-methodes/
ロケットエンジンのチャンバー上部にはインジェクターがあり、燃料と酸化剤を高圧でチャンバー内に送り込んでいます。チャンバーに送り込まれた燃料と酸化剤は混合して発火、燃焼し、膨大なエネルギーを生み出します。しかし、何の工夫もしなければ、金属製のチャンバーの壁面は溶けてしまいます。
◆1:ヒートシンク
選択肢の1つは、チャンバーの壁を厚くすることです。厚い壁はヒートシンクとして機能し、高温のガスが金属の層を溶かす前に、全体の温度を下げます。ただし、ロケットを作るにあたっては軽量化が重要となってくるため、重い金属製の壁をどこまでも分厚くすることはできません。また、すべての金属の融点を迎えると溶けてしまうため、そこまで長い時間の使用には向きません。
このため、ヒートシンクは、短時間だけ動作する操縦用スラスターであれば利用可能ですが、数分にわたり動き続ける主推進エンジンには不向きです。
◆2:燃料と酸化剤の比率
別の選択肢は、燃料と酸化剤の比率を調整して、排気温度を下げることです。燃料と酸化剤の全量が完全に反応する比率だと、可能な限り最大限の熱が放出されることになり、最大出力を求める場合には素晴らしい結果といえますが、熱を抑えたい場合には向きません。
◆3:アブレーティブ冷却
簡単で効率的な冷却法として知られるのは「アブレーティブ冷却」です。これは大気圏に再突入する宇宙船が用いる遮熱板と同じ、気化熱を利用する方法です。高い融点を持つ炭素複合材料を用いた遮熱板は、高温になると層が溶けて熱を奪い、宇宙船内部まで高熱が浸透するのを防ぎます。ロケットエンジンの場合、チャンバーとノズルの壁の内側に炭素複合材料の層が設けられています。
ただし、この方法で冷却されたエンジンは再利用できないなどの問題が知られています。有名なところでは、アポロ計画で宇宙飛行士を地球に連れ戻すためのエンジンは、月面で実際に利用されるまでテストができなかったとのことです。
◆4:再生冷却
液体燃料ロケットエンジンの場合には、「再生冷却」という方法が用いられます。これは、推進剤をチャンバーとノズルの壁面内部を通してからインジェクター経由でチャンバーに送り込むもので、ロケットエンジンに関する大きなブレイクスルーになったとのこと。
「再生冷却」の課題の1つは、壁の内側の圧力をチャンバー内の圧力より高くする必要があること。しかし、狭い壁の内側を高圧にすると漏れが発生する恐れがあります。
◆5:フィルム冷却
「再生冷却」に次ぐ方法としては、チャンバーとノズルの内部と壁との間に流体を注入して、高温ガスと壁との間に境界を作る「フィルム冷却」が知られています。最も簡単な方法は、インジェクター外周の燃料または酸化剤の濃度を高くすることで、チャンバー内は燃料が豊富なので、一般には燃料が用いられるとのこと。この方法だと、反応に必要な量の酸化剤を得られない燃料が外周を流れ、液体から気体に相変化することで熱を吸収するとのこと。
◆6:放射冷却
このほか、SpaceXが使用している「マーリン」エンジンやRocket Labの「ラザフォード」エンジンは、金属部分から熱を宇宙に放射しています。これは、太陽が真空を介して熱を伝えているのと同様の方法です。「マーリン」や「ラザフォード」のノズルエクステンションは通常、ニオブ合金など高い熱負荷に耐える、非常に薄い金属でできています。
ただし、非常に薄いことから壊れやすいという欠点があります。また、ニオブは酸素との反応性が高いため、このようなエンジンは現実的には真空環境下でしか作動せず、製造の際にも複雑な作業が必要になるとのことです。
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