サイエンス

謎多きロケットエンジン「EMドライブ」と「マッハ効果スラスター」の実用化に向けた「スペースドライブ・プロジェクト」が始動


「電力さえあれば推進剤は必要ない」という、ロケットにとっては夢のような推進装置「EMドライブ」および「マッハ効果スラスター」の原理の解明と実用化を目指すプロジェクト「スペースドライブ・プロジェクト」が始動しています。プロジェクトではこれらの装置の実際の動作を確実に測定するための研究インフラを整えることを目標に定めており、実際に装置を駆動させて発生する力の測定も始められています。

The SpaceDrive Project - First Results on... (PDF Download Available)
https://www.researchgate.net/publication/325177082_The_SpaceDrive_Project_-_First_Results_on_EMDrive_and_Mach-Effect_Thrusters

地上でいつでも給油ができる飛行機などとは違い、宇宙を飛ぶロケットにとっては推進剤を確保する方法が極めて重要です。特に地球から遠く離れた惑星を目指す深宇宙探査の場合、目的の場所までたどり着くための多量の燃料をあらかじめ搭載しておくことが必要ですが、これは容易なことではありません。

また、搭載しておける燃料には限界があります。深宇宙を目指すロケットの場合は常にエンジンを噴射する必要はなく、一度加速すればしばらくの間は慣性によってほぼ変わらないスピードで飛び続けることができますが、それでもやはり長い航行のためには相当量の推進剤が欠かせません。しかし、推進剤そのものが重量物なので、多量の推進剤を搭載したロケットを動かすためにさらに多くの推進剤が必要になり、ロケットの大きさが飛躍的に増すという結果に結び付きます。

By Official SpaceX Photos

そんな問題やジレンマを解消できそうな推進器として、EMドライブとマッハ効果スラスターが研究されています。

EMドライブは、両方が閉じられた円錐台形状の容器の中でマイクロ波を発するとなぜか力が生まれるという装置です。これまでのロケットエンジンは、高温高圧のガスを噴射してその反作用で推進力を得るというニュートンの第3法則で説明ができるものでしたが、EMドライブは「なぜ力が発生しているのかわからない」という、現代の科学を超越した謎の推進器とされています。

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このEMドライブにはNASAも関心を寄せており、実際に研究室レベルでの検証も行われていたことが明らかになっています。

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一方のマッハ効果スラスターも概念が難解で、プロジェクトによって発表された論文には「…concept is believed to generate mass fluctuations in a piezo-crystal stack that creates non-zero time-averaged thrusts.」(ゼロでなく時間平均で推力を生むピエゾ結晶スタックにおける質量変動の生成)と記されています。論文には以下のような回路図(左)と検証中の実物(中)、有限要素法で解析するためのANSYSモデル(右)が掲載されています。


チームでは、これらの装置の動作を計測するための装置を開発することを主な目標にしています。計測は真空の環境で実施される必要があるので、外からの影響を受けにくいようにコンクリートブロックの上に直径0.9メートル・全長1.5メートルの真空容器をセット(左)。内部には、生じた力で「ねじれ」を発生させ、それと釣り合う力を計測するトーションバランス式の計測装置(右)が据え付けられています。


この装置でEMドライブの推力を計測したところ、プラスマイナスの方向に2μN(マイクロニュートン)から6μNの力が発生していることがわかっています。


同様にマッハ効果スラスターでも計測したところ、こちらは最大で約0.8μNの力が発生していた模様です。


今回の実験でもEMドライブとマッハ効果スラスターが実際に動作することが確認されたわけですが、研究チームの目的はむしろ、より信頼性の高い計測機器の開発にあるとのこと。計測で検出される力は微細なものであるために、計測器に使用されているツイストペアケーブルや増幅器、地球磁場などとの磁気的な相互作用により計測結果が影響を受けることがあり、チームではこの影響を排除し、将来的には規模を大きくスケールアップした計測器の開発を行って性能を向上させることを狙っているとのことです。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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