「人は魅力的な食べ物の誘惑から逃れるためならいくらまで支払うのか?」を調べる実験が行われる
目の前にあるおいしそうな食べ物の誘惑に勝てず、つい食べてしまった経験がある人は多いはず。甘いお菓子が子どもの自制心をテストするマシュマロ実験に用いられるように、食べ物への欲求と自制心の間には深い関係があります。そんな自制心と食べ物の関係を調べた研究により、「人は食べ物を我慢することをどのくらいのコストと考えるのか?」が確かめられました。
Quantifying the subjective cost of self-control in humans | PNAS
https://www.pnas.org/content/118/35/e2018726118
What's the cost of self-control? New study tabulates the bill
https://medicalxpress.com/news/2021-08-self-control-bill.html
以前から、心理学の分野では「自制心を働かせるには多大な心理的努力が必要であり、誘惑に負けるのは自制心を働かせることのコストが我慢し続けるメリットを上回ったと認知されたから」という説が支持されてきました。しかし、この説は直感的な説明が論拠になっているケースがほとんどで、我慢をする上で負担となる精神的コストを定量化して実証するような手法はこれまでなかったとのこと。そのため、自制心や努力に関する研究の成果が健康政策に生かされないのが課題となっていました。
そこで、ニューヨーク大学グロスマン医学部精神科のキャンディス・ライオ助教授らの研究チームは、ダイエットをしている人を集めてさまざまな状況に置き、その上で「魅力的な食べ物の誘惑から逃れるためにいくらの費用を支払うか」を測定する実験を行いました。実験は、「自制心のコスト」を定量化する手法を確立することを目指して実施されたとのこと。
実験の結果、被験者からは「チョコレートブラウニーなどの魅力的な食べ物を30分間目の前にして我慢するくらいなら、10ドル(約1100円)を払う」との報告が得られました。また、被験者がストレスを感じている時や、魅力的な食べ物を食べないようにするための動機付けが与えられている時には、自制心のコストが増大することも分かりました。
全体として、被験者が自制心を試されることを避けるために支払うお金は、目の前の食べ物が被験者にとって魅力的であればあるほど高くなる傾向が見られたとのこと。研究チームは、自制心のコストの増大には、魅力に抵抗することへの拒否感が反映されているのではないかと考えています。
今回の研究結果について、ライオ氏は「自制心の欠如は私たち人間が日々直面している問題ですが、その背景にある認知プロセスや、我慢を回避するためにどのような行動を取るかについては、ほとんど解明されていませんでした。今回の研究では、人々が自制心の試練から逃れるために支払える金額はいくらかを測定するとともに、その決定が誘惑の強さや動機付け、ストレスなどによってどのような影響を受けるかを測定することができました」と話しました。
また、論文の共著者であるニューヨーク大学のポール・グリムチャー氏は、この研究の意義について「今回のアプローチにより、その時々で変動する『自制心のコスト』を指標にして、心理学・経済学・医療政策の研究に役立てることができるようになります」と述べました。
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