過食をやめるための「セルフコントロール」を身に付けるには意味のない「儀式」でも効果がある
増え続ける体重を抑制するためのダイエットや、定年後のことを考えてお金を使わずに貯金しておくことは「やらなきゃ」と思っていても長続きさせるのは極めて難しいもの。これらの多くは「セルフコントロール(自制心)」が不足するために起こるものなのですが、誘惑に負けずに自分の行動を制御するためには「儀式」を取り入れることが有効であるという研究結果が発表されています。
Enacting rituals to improve self-control. - PubMed - NCBI
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29771567
Need More Self-Control? Try a Simple Ritual - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/need-more-self-control-try-a-simple-ritual/
セルフコントロールの問題は、心理学者や行動科学の研究者を長年にわたって悩ませてきたテーマです。多くの研究がこの分野で行われており、人々がどのような場合において自分をコントロールできるのかについて発見が行われてきました。(PDF)ある研究では、「アルツハイマー病の研究」のような誰かの役に立つような目標が目の前にある時、人は長期間にわたって自制心を持って取り組むことができるということがわかっています。
また、セルフコントロールをテーマにしたさまざまな商品やサービスが登場しているという事実も、いかに自分を制御することが難しいテーマであるかを物語っています。長期の目標をかなえるために必要な心構えを説いた本は書店の自己啓発コーナーの定番商品であるほか、目標にコミットすることをサポートするstickK.comのようなウェブサービスも登場しています。stickK.comは「行動契約」という概念を取り入れたサービスで、あらかじめ「200ドル(約2万円)」などの金額を入金すると同時に、達成したい目標を設定しておきます。もしその目標が達成できなかった時はお金は戻ってこず、「友人に支払う」や「チャリティー団体に寄付する」などあらかじめ決めておいた行き先に強制的に送金されてしまいます。
stickK
http://www.stickk.com/
この分野をテーマに研究を行っている、ハーバード・ビジネススクールの行動科学者であるフランチェスカ・ジーノ教授は、セルフコントロールを確実なものにするためには「儀式」を行動に取り入れることが有効であるという研究結果を発表しています。
「儀式」とはいっても、これは大げさなセレモニーを行うなど大それたものではなく、何かの行動を行う前に所定の手順を組み込むというもの。例えば、野球選手のイチローがバッティングに入る前に必ず一連の動作を行ったり、あるF1ドライバーがコックピットに乗り込む時に「必ず左足から入る」など、「これから戦いに挑んで集中力を発揮させる時に決まった行動を取ることで、自分の意識を高める」という行為がこれにあたります。
By Ted Kerwin
ジーノ教授の研究チームは、食べ物を食べる時に「儀式」を行うことで、人々の行動がどのように変化するのかを調査しました。被験者を探すために研究チームは大学のジムを訪れ、すでに「体重を落とす」という目標を掲げていた女子学生を集めました。そしてその半数の学生に対しては5日間にわたって食べ物の消費について意識を向けるように指示し、残りの半分には食事を取る前に必ず3ステップの「儀式」を行うように指示しました。儀式の手順は以下のようなもので、被験者に対しては「食べる量を減らす」ということを求めたり、手順の中で食べる量を減らすような仕組みは取り入れられていません。
・ステップ1:食べる前に食べ物を切り分ける。
・ステップ2:切り分けた食べ物を並び替え、お皿の上で完全に左右対称になるように配置する。
・ステップ3:最後に、配置した食べ物の上に食器(フォークなど)を3回押し付ける。
被験者は、実験期間の中で食べた食べ物を正確に記録するために、カロリーカウンターアプリのMyFitnessPalをスマートフォンにインストールし、全ての食事を記録するように指示されました。
実験の結果、食前の儀式を行った被験者は1日に平均して1424kcalの食事を採ったのに対し、儀式を行わずに気をつけただけの被験者は平均して1648kcalの食事を採ったことが判明しました。また、儀式を取り入れた人は脂肪や糖分の摂取が低かったことも明らかになっています。
By Phillip Ingham
この結果から、被験者は儀式を取り入れることで「体重を落とす」という目標に対してセルフコントロール力を発揮し、摂取カロリーを減らすことにつながったという結果が見いだされています。また、興味深いのは、儀式を行った被験者のほとんどは儀式がそれほど役に立たず、今後も継続する可能性は低いと考えていた所にあるとジーノ教授は述べています。
また別の研究では、「人は健康的でない食べ物の誘惑がある時に、別の健康的な食べ物を選択することができるのか」という点が調査されています。実験に参加した大学生には、ニンジンとチョコレートの味覚テストを行うように指示しました。被験者は4つの包みを受け取るのですが、最初の3つはベビーキャロットが、そして最後の1つにはリンツ製のチョコレートトリュフが入れられています。
この実験では、被験者を3つのグループ、すなわち「儀式を行う人」「ランダムに対応する人」「ニンジンを食べる人」に分けられ、儀式を行うグループには次の手順が与えられました。
・ステップ1:右手で拳を作り、テーブルを2回ノックする。
・ステップ2:次に、バッグを手に取り、自分の前に置く。
・ステップ3:右手で再びテーブルを2回ノックする
・ステップ4:最後に深呼吸をして、2秒間目を閉じる
「儀式グループ」の被験者は3つ目のニンジンを食べる前に、3つ目のニンジンを食べることについての2つの質問に答え、そして最後にニンジンを選ぶか、チョコレートを選ぶかの選択を求められます。
「ランダム対応」のグループには儀式グループとは別の手順が与えられ、最後には同様の「ニンジン(健康的)」か「チョコレート(不健康・誘惑的)」のどちらかを選ぶ選択を求めました。
残る「ニンジンを食べるグループ」では、被験者は他と同様に2つのニンジンを食べ、同じ2つの質問に答えます。そして最後にはこちらも同様に「ニンジンorチョコレート」の選択を求めるのですが、このグループには儀式的な手順が与えられていませんでした。
実験の結果、各グループでニンジンを選んだのは、「儀式グループ」で58%、「ランダム対応グループ」が46%、そして「ニンジンを食べるグループ」は35%だったという結果が明らかになり、儀式の手順を踏んでいるほど健康的・抑制的な選択を行ったということがわかりました。また、この際に与えられていた手順は特に意味があるものではなく、奇妙な内容だったのですが、それでもなお一定の手順をもつ儀式を取り入れることで、人の行動には変化が現れるということが明らかにされています。
今回の実験で用いられた儀式を取り入れるという手法は、他のさまざまなケースにおいても同じような効果をもたらす可能性があるとジーノ教授は述べています。行動が心理にもたらす影響は少なからずあり、ホームレスのためにお金を寄付するという行為は自分がケアをする人であると思わせ、お年寄りに電車の座席を譲るという行為によって自分は礼儀正しい人物である、と思わせることにつながります。今回の結果で取り入れられたような「儀式」はそれ自体に意味があるものではなく、その手順をきちんと踏むことにより「自分はセルフコントロールができる人物である」ということを自分自身に意識付けることで、誘惑に負けずに長期的な目標の実現のための選択を行うマインドを形作るという効果があると研究者はみています。
By oscartian547
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