他社のクラウドサービスからシェアを奪うためのCloudflareの戦略は囲碁に似ているという分析
Cloudflareは2010年9月27日に設立された企業で、近年は毎年のようにこの設立日付近で新たなサービスを発表してきています。それぞれのサービスの内容から、CloudflareがAWSやAzure、GCPという名だたるクラウド企業へどのように挑戦しようとしているのかという分析を、エンジニア兼エンジェル投資家のショーン・ワンさんが行っています。
Eating the Cloud from Outside In
https://www.swyx.io/cloudflare-go/
Cloudflareは2017年に「Cloudflare Workers」をリリースして以来、下記の通りWorkersの機能を強化するリリースを行ってきました。
2017年:サーバーレスコンピューティング「Cloudflare Workers」
2018年:結果整合性のあるデータストア
2019年:ウェブサイトホスティング
2020年:強一貫性のあるデータストア
そして2021年に発表されたのはR2というストレージサービスで、同時にCloudflareは4番目の主要クラウドサービスを目指すと発言しています。スタートアップが新たなサービスを開発する際には、クラウド業界の勝者といえるAWSと対抗するサービスでは無く、AWSと共存できるサービスを選択することが多いなか、Amazon・Microsoft・Googleといった時価総額100兆円オーバー企業に対して時価総額4兆円のCloudflareがシェアの確保に挑むのは非常に大胆な挑戦と言えます。
既存の大企業に新興企業が取って代わる現象は「破壊的イノベーション」としてクレイトン・クリステンセンが理論化しています。クリステンセンの理論をもとに、ワンさんはCloudflareが「ローエンド型」の破壊的イノベーションを起こしていると述べました。
CloudflareはCDNサービスとして事業をスタートしており、品質の高いサービスを無料で提供することで80%以上の市場シェアを獲得するまでに成長しています。AWSにも同等の機能を提供するCDNサービス「CloudFront」が存在していますが、あまり利用されているとは言えません。CloudflareはCDNサービスを足掛かりにセキュリティサービスを構築し、固定費は高いものの限界費用がほとんどゼロというビジネスモデルで付加価値を拡大しています。
ワンさんは、2021年に発表されたストレージサービスのR2について、AWSのS3を直接置き換える戦略ではなく、S3の地位を「取り巻く」という戦略をとっていると分析しています。ワンさんはこれを囲碁に例えて、CloudflareがAPIの互換性を確保することで、S3の「ダメ」を詰めに行っており、「アタリ」の状態にしたと表現。R2がS3の上位互換だと市場でみなされるようになると、Cloudflareは最後の石を置いて「クラウドストレージ」の領域を確保できるというわけです。
さらにワンさんは、Cloudflareによる囲碁のような戦略は、APIのコピーが著作権違反か否かが争われたGoogle対Oracleの裁判結果で「APIのコピーは合法」という判決が下ったことで法律による保護も確保できていると指摘しています。
また、ワンさんは「Cloudflareは、既存企業とは全く異なるゲームをプレイしています」と表現しています。例えば、AWSが「260個を超えるエッジロケーション」をアピールポイントとしている一方で、Cloudflareは「ISPやクラウドプロバイダー、企業などのネットワークと合計1万件以上も接続していること」をアピールしています。加えてワンさんはクラウド業界の市場が拡大し続けていることを挙げ、「成長のないゼロサム市場では企業がチェスのようにポジションを競い合いますが、急成長を遂げる市場では囲碁のようにネットワークや領域を伸ばし、敵を囲う戦略が適しています」と述べています。
Cloudflareの戦略をMicrosoftの3E戦略になぞらえて、ワンさんは次のように3つのEで表現し、記事を終えています。
・Establish(確立):既存企業が気にしていない部分に足場を確立する
・Envelop(包囲):既存企業のサービスが不十分な部分のアクセスを中継して補完するサービスを展開する
・Expand(拡大):既存企業よりも多くの顧客を獲得するまで他の製品やサービスを組み合わせて売る
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