NBA中継の臨場感を支える「コートに仕込まれたマイク」の仕組みを現場のプロが解説

バスケットボール中継ではボールがネットを通過する「スウィッシュ」という音やシューズが床をこする音、ボールがリムに当たる音、観客席のどよめきなどのさまざまな音が試合の臨場感を作り出しています。アメリカの放送局・NBCが放送するテレビスポーツ番組「NBA on NBC」でシニア・オーディオエンジニアを務めるベン・マイチャクザク氏が、NBA中継のためにコート上へどのようにマイクを仕込み、放送用にミックスしているのかをYouTubeで明かしています。
Where the NBA hides its mics - YouTube

この動画は、音に関するストーリーを扱うポッドキャスト「Twenty Thousand Hertz」を制作するサウンドデザイナーのダラス・テイラー氏が自らのチャンネルで公開したものです。動画では、NBA中継の音響を担当するマイチャクザク氏がリング周辺やバックボード裏、実況席などを回りながら、実際のマイク配置やミックスの考え方を説明しています。
マイチャクザク氏が最初に示したのは、リング周辺に取り付けられたラベリアマイクです。これはシュートがネットを通過する「スウィッシュ」という音を拾うための重要なマイクで、DPAの「4060」が使われています。

DPAの「4060」は無指向性マイクなので、正面だけでなく周囲の音を広く拾います。そのため、ネットの音だけでなくボールがリムやバックボードに当たる音や選手の声、叫び声も拾うことが可能。マイチャクザク氏は自身のミックスについて「かなり攻めた作り」と表現しており、コート上で起きている音をできるだけはっきり聞かせる方針だと言います。

バックボードの裏側には、AKGのコンタクトマイク「C411」が設置されています。これは空気中の音よりも振動を拾うタイプのマイクで、ボールがバックボードに当たる「ドン」という音や、ダンクの衝撃、リムに当たった時の響きを収録するために使われます。

「C411」は左右に1つずつ取り付けられています。

コート上の音を拾うには多くのマイクが必要ですが、試合の邪魔にならず、視聴者にも目立たない形で設置する必要があるとのこと。ケーブルは中継映像に映り込みにくいようバックボードの構造に沿わせるようにして隠され、最終的に音声機材へ接続されます。

リング上部にはゼンハイザーの「MKH 416」が設置されています。これは選手がリングへ向かって走り込む時の足音、ボールのバウンド音、シューズが床をこする音などを拾うためのマイクです。

マイチャクザク氏によると、試合中の70%~80%はリング周辺のエリアで展開されるため、リング付近のラベリアマイク、バックボード裏のコンタクトマイク、上部のショットガンマイクを組み合わせることで、テレビ中継で聞こえるコート上の音の大部分をカバーできるそうです。
また、リングの正面下部にはオーディオテクニカの「ATND971a」も設置されています。これは床付近に置かれるタイプのマイクで、リング正面で起きるプレーの音を拾います。

マイチャクザク氏は、ゼンハイザーの「MKH 416」とオーディオテクニカの「ATND971a」を組み合わせることで、バスケットボールで重要なキーエリアの広い範囲をカバーできると説明しています。ただし、コート上の音だけをきれいに拾うのは難しく、会場では場内アナウンスや音楽が常に鳴っているのに加えてボールが空中を飛んでいる間はバウンド音が発生しないため、マイクを増やしてもすべての音を拾えるわけではないとのこと。
こうした取りこぼしを補うため、手持ちカメラにもオーディオテクニカのロングステレオショットガンマイクが取り付けられています。このカメラは常にボールを追っているため、固定マイクでは拾いにくい場所の音を補完できるそうです。

会場には観客の声を拾うためのマイクも複数設置されています。各バスケットの裏側には低い位置から観客席の音を拾うためにオーディオテクニカの「AT4050」があります。

会場の高い位置にあるカメラにもステレオマイクが取り付けられており、低い位置・中間・高い位置の観客音を組み合わせることで会場全体の広がりを作っているとのこと。

コートの反対側、つまりテレビ中継のメインカメラから見て奥側にあたる「ファーサイド」にはカメラやマイクを置ける場所が少なく、従来の中継ではドリブル音などを拾うのが難しい場所だったそうです。そんなファーサイドでマイクの設置が許可されたのがここ。

ソニーの「ECM-77B」が3本設置されています。1本目。

2本目

3本目。これらのマイクはベンチの音を拾うためではなく、ボールがファーサイドを通った時のドリブル音や選手の動きを拾うために使われます。各マイクからの入力を左・中央・右の3チャンネルとしてまとめ、選手がコートを進む様子をステレオ感のある音として収録しているとのこと。

一方、メインカメラに近い「ニアサイド」にも複数のマイクが設置されています。ニアサイドにはボールを追うカメラがあり、そのカメラに付いたロングショットガンマイクは試合で起こるアクションに近づいて収録できるため非常に有用なマイクだとマイチャクザク氏は説明しています。

さらに、ニアサイドの床付近にはオーディオテクニカの「ATND971a」が2台配置されています。マイクをコートに極端に近づけることはできないため、ボールが近くに来た時のバウンド音や足音を拾うために、床付近のマイクも組み合わせているとのこと。1台目。

2台目。

実況席ではゼンハイザーのヘッドセット「HMD 27」が使われています。

実況席の音声システムにはネットワーク経由で音声をやり取りする仕組み「Dante」が使われており、マイク音声やトークバック、番組音声などのボックスから耳に届く情報は全て1本のイーサネットケーブルでやり取りされます。

これらは1つの大きなネットワークに接続されており、マイチャクザク氏によると「番組全体では中継トラック内の機器とコート上の機器を合わせて120台以上のデバイスがある」とのこと。

マイチャクザク氏が試合中に操作するのは床のマイクや上部の「MKH 416」、ネット用マイクなどに対応するフェーダーで、ボールの位置に応じて操作するフェーダーを切り替えつつそれぞれの音量を調整していきます。なお、ネット用のマイクについてはシュートが放たれるまでは閉じておき、シュートの瞬間に開くようにしているとのこと。アナウンサーの音量は適切な位置に置いて安定させ、その後はボールのバウンド音やシューズのきしむ音、ネットの音といったコート上の音に集中するのが基本方針だとマイチャクザク氏は言います。

「NBA on NBC」の中継は5.1サラウンドでミックスされています。マイチャクザク氏によると、ネット付近の観客席マイクをリア側に配置し、カメラ上の観客席マイクを前方へ配置するなどして、視聴者の周囲に会場の音が広がるように設計しているとのこと。ただし、すべての視聴者が5.1サラウンド環境で見ているわけではなく、スマートフォンやテレビの内蔵スピーカー、ヘッドホンで聞く人も多いため、「サラウンド音声をステレオに折り畳んだ時にも自然に聞こえるように確認している」とマイチャクザク氏は説明しています。

また、「マイクの本数や配置を減らすと中継そのものの迫力が小さくなってしまう」とマイチャクザク氏は述べています。少数のマイクだけでは、会場がどれほど大きな音に包まれているのかや、観客がどれほど熱狂しているのかをテレビの視聴者に伝えにくくなるとのこと。
マイチャクザク氏は「ミッドコートで選手が目の前を走り抜けるような音」を目指しており、ネットの音をかなり強く出したり、各マイクからできるだけ多くの音を引き出したりするため、自分のミックスがゲームのように聞こえることがあると認めています。しかし、「それでも視聴者にコートの中へ入り込んだような感覚を届けたい」とマイチャクザク氏は語っています。
・関連記事
スポーツの試合にファンの声援が与える影響とは? - GIGAZINE
テニスの全豪オープンは試合模様がリアルタイムでアニメに変換されて公式配信されている - GIGAZINE
一流のバスケ選手でもフリースローを外してしまうことがあるのはなぜ? - GIGAZINE
バスケットボールの理想的なシュート条件は解明済み、NBAや強豪大学では理想のシュート練習マシン「Noah」が導入されている - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in 動画, ハードウェア, Posted by log1b_ok
You can read the machine translated English article A professional explains how the 'microph….







