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スポーツの試合にファンの声援が与える影響とは?

by Eddy Milfort

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによってさまざまなイベントが影響を受けましたが、プロスポーツの試合は徐々に再開されつつあり、日本でも2020年6月19日(金)にプロ野球が開幕し、7月4日(土)からサッカーのJ1リーグも再開することが決定しました。ところが、COVID-19対策として観客の入場が制限されてしばらくは無観客試合となるため、これまでの試合と違って「観客の声援」がなくなってしまいます。そこで、セントラルクイーンズランド大学の国際ギャンブルシンクタンクで研究員を務めるアレックス・ラッセル氏が、「スポーツの試合にファンの声援が与える影響」について解説しています。

Why does crowd noise matter?
https://theconversation.com/why-does-crowd-noise-matter-139662


COVID-19対策として観客が消えたスポーツの試合を中継する放送局の中には、コメディ番組に挿入される笑い声のように、試合に合わせて「偽の声援」をかぶせて放送する試みを実施しているところもあります。以下の埋め込みムービーを見ると、オーストラリアの放送局が「声援の音」をプレイに合わせて流し、まるで観客がいるかのような雰囲気を演出している様子がよくわかります。

Croft with the burnnnn ????????‍♂????#NRLBroncosEels #TelstraPremiership pic.twitter.com/GcAfomiaiX

— NRL (@NRL)


実際に偽の声援付きで放送された試合を見た人々からは、肯定的な意見だけでなく否定的な意見も寄せられたとのこと。しかし、声援付きの放送を行おうとしている放送局も多く、ドイツのサッカーリーグであるサッカー・ブンデスリーガの放送では偽の声援が付けられているほか、イングランドのプレミアリーグでも人工の声援を流すオプションが検討されています

ラッセル氏によると、1つのスポーツチームを応援している人は、同じチームを応援している人々とのつながりを感じているそうです。この帰属感は人々にとって大きなモチベーションとなり、人々の思考や感情を大きく動かし、チームが勝った時の喜びや負けた時の悲しみをファン同士で共有することを可能にします。そして、声援の存在は、そのスポーツをプレイした経験がない観客にも、それぞれのチームを明確に区別させる効果があります。以上のような効果は、現地観戦ではなくTV中継での観戦であっても、スタジアムの観客が発する声援をTV越しに聞くことで得られるものとのこと。


人々がスポーツの試合において「ファンの声援」を重視する理由について、ラッセル氏は「ファン同士を結び付けて団結した感覚を与え、チャンスのシーンに注目する手がかりとして機能する」と、声援の役割について指摘。選手がいかに素晴らしいプレイを見せたとしても、チームがチャンスを演出したとしても、唯一聞こえるのが選手同士のかけ声だけではそれほどエキサイティングにはなりません。「声援がなければ、スポーツはそれほど刺激的ではないように見えてしまいます」と、ラッセル氏は述べています。

この理由についてラッセル氏は、普段の試合観戦中はファンの声援が「エキサイティングなシーンであることを知らせる手がかり」として機能しており、人々は無意識のうちに声援を頼りに試合を楽しんでいるからだと述べています。たとえば選手がゴールを決めたら観客は盛り上がり、試合終盤でスコアが拮抗していれば観客たちも緊迫した雰囲気を醸し出し、自分が応援するチームが勝利すれば歓声を上げて喜びを分かち合います。試合中の声援がなければこうした要素が排除されてしまい、ファン同士の連帯感もあまり得られず、どうしても盛り上がりに欠けてしまうとのこと。


また、声援の存在が勝敗に影響を与える可能性も指摘されています。プロスポーツチームには「ホーム」と「アウェイ」という概念が存在しており、一般にホームグラウンドやホームアリーナでプレイするチームが有利だと考えられています。2015年の研究ではこの点を調査するため、実際にロサンゼルスにある屋内競技場のステイプルズ・センターをホームにする、ロサンゼルス・レイカーズロサンゼルス・クリッパーズという2つのプロバスケットボールチームを対象に調査を行いました。

レイカーズもクリッパーズもステイプルズ・センターがホームのため、いずれのチームも長い移動や慣れないスタジアムといったアウェイチームに付きもののデメリットはありませんでしたが、試合ごとにホームなのかアウェイなのかは設定されており、観戦チケットの販売に変動が出ていたとのこと。調査の結果、レイカーズやクリッパーズは観客以外は同じ条件で試合していたにもかかわらず、ホームチームの方が21~22.8%も勝利する可能性が上昇することが判明しました。このホームとアウェイの差は、観客の声援によってもたらされた違いだと研究者らは考えています。


また、ファンによる声援は選手をサポートするだけでなく、審判員にも影響を与えることがわかっています。2010年の研究では、ホームグラウンドでプレイするチームが反則を取られにくかったり、イエローカードなどの処分を受けにくかったりするのは、「審判が無意識のうちにファンの声を判断の手がかりに使用しているからだ」ということが判明したとのこと。

ホームチームの方が反則を取られにくいのは、会場に詰めかけたファンが相手チームの反則には大きなリアクションをする一方で、応援するチームの反則にはリアクションが小さくなることが理由かもしれないそうです。審判は知らず知らずのうちに声援を判断の手がかりにしているため、リアクションが小さいホームチームの反則を過小評価しやすい可能性があります。

by Hayden Schiff

テレビでスポーツ中継を見ている時、スタジアムにファンがいないのに偽の声援が聞こえると、まるで応援を強制されているかのように感じるかも知れません。しかし、ファンの声援はスポーツの試合をよりエキサイティングにすることを助けてくれると、ラッセル氏は述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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