ハードウェア

国際宇宙ステーションで食料を保存する冷蔵庫はなぜ開発が難しいのか?


現代人の生活には、食料を長期にわたって保存するための冷蔵庫が欠かせません。特に食料補充の機会が非常に限られてしまう宇宙での生活においても冷蔵庫は必要不可欠ですが、宇宙で十分に機能する冷蔵庫の開発は非常に難しいものがあります。そんな宇宙用の冷蔵庫を、パデュー大学機械工学部の研究チームがNASAと共同で開発しています。

To give astronauts better food, engineers test a fridge prototype in microgravity - Purdue University News
https://www.purdue.edu/newsroom/releases/2021/Q2/to-give-astronauts-better-food,-engineers-test-a-fridge-prototype-in-microgravity.html


The Quest to Build a Functional, Energy-Efficient Refrigerator That Works in Space | Innovation | Smithsonian Magazine
https://www.smithsonianmag.com/innovation/quest-to-build-functional-energy-efficient-refrigerator-that-works-in-space-180978281/


2021年5月に168日間にわたるISSでのミッションを終えたばかりであるNASAの宇宙飛行士ビクター・グローバー氏は、「宇宙飛行士用の冷蔵庫は、ISS乗組員の士気を本当に高めます。冷蔵庫があることで、ISSでも地上で慣れ親しんだ生活を送ることができます」とコメントしています。

国際宇宙ステーション(ISS)にはおよそマイナス160度まで冷却できる施設が複数ありますが、これらは宇宙実験用のインキュベーターであり、コンタミネーションを避けるため、食料保存に用いることはできません。宇宙飛行士が個人的に使えるような冷蔵庫は実験用のハイスペックで高価な冷蔵庫ではなく、長期間稼働可能で利便性・メンテナンス性・エネルギー効率を重視したシンプルなもの、つまり地上で使われているような冷蔵庫である必要がありますが、一般的な冷蔵庫を宇宙のような微小重力環境下で動作させるのは非常に難しいとのこと。


一般家庭で使われる冷蔵庫は「ガス圧縮式」と呼ばれる方法を採用しているものがほとんどです。ガス圧縮式は、冷却管を循環する液体冷媒が蒸発する時の気化熱で冷蔵庫内部から熱を吸収して外部に放出し、冷蔵庫の内部を冷やします。そして、気化した冷媒はコンプレッサー(圧縮機)で再び高温高圧の気体となり、コンデンサー(凝縮器)で液体に凝縮します。このコンプレッサーの可動部にはオイルが使われており、コンプレッサーに取り付けられているオイルパンに滴り落ちたものが再び循環して使われる仕組みになっています。

しかし、このオイルの循環は重力があって初めて成立するもの。ISSのような微小重力環境下ではオイルがオイルパンに滴り落ちず、さまざまな方向に飛び散ってしまい、コンプレッサーが焼き付いてしまう可能性があるため、正常な動作を維持するのが難しいというわけです。


そこで、パデュー大学機械工学科の研究チームは、医療分野で手術器具や救命用の人工呼吸器を動かすのに使われているオイルフリーのコンプレッサーに注目。さらにコンプレッサーを冷却するために、可動部の外側に冷却液(クーラント)を循環させる水冷システムを採用しました。

その上で研究チームは、冷蔵庫を横向きや逆さまにしても動作するかどうかを確かめるために、冷蔵庫そのものを回転させて検証を行いました。以下の画像が実験に使われた回転可能な実験用冷蔵庫です。


また、以下のムービーで実際にグルグルと冷蔵庫を回転させる様子を見ることができます。

Can this refrigerator work in zero gravity? - YouTube


さらに研究チームは、航空機に実験用冷蔵庫を搭載し、放物線落下による20秒の微小重力環境下で正しく機能するかどうかを確認する実験を30回行ったとのこと。その結果、実験用冷蔵庫をどの方向に回したり微小重力条件下に配置したりしても、正常に機能することがわかりました。

実際に放物線落下する飛行機の中で実験用冷蔵庫をテストする様子が以下のムービー。

Fridge works in zero gravity - YouTube


研究チームのメンバーでパデュー大学機械工学科の学生であるレオン・ブレンデル氏は「研究プロジェクトの目標は、宇宙飛行士が冷蔵庫を修理しないようにすることです。しかし、この冷蔵庫が宇宙でどれくらい連続使用できるかは不明です。3年がかりで行われた研究プロジェクトで冷蔵庫がこれまで故障したことはありませんでしたが、10年もの長期にわたっての運用はまだ経験していません」と語りました。

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in ハードウェア,   サイエンス,   動画, Posted by log1i_yk

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