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在宅勤務で「従業員の監視」が加速してプライバシーが危険にさらされている


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴ってリモートワークに移行した結果、面倒な通勤やオフィスでの煩わしいやり取りから解放され、喜びを感じている人も多いはず。ところが、中にはリモートワークの増加で「会社や上司による監視」が強化されてしまうケースもあるとのことで、従業員のプライバシーや公私の境界線の希薄化が懸念されています。

Bosses turn to ‘tattleware’ to keep tabs on employees working from home | Technology | The Guardian
https://www.theguardian.com/us-news/2021/sep/05/covid-coronavirus-work-home-office-surveillance


イギリスの大手新聞社であるThe Guardianの取材を受けたデイヴィッドさんは、大学卒業後に入社した会社で、慣れない仕事や同僚とのコミュニケーションに疲れていたとのこと。そんな時、COVID-19のパンデミックによってアメリカ・バージニア州にあるオフィスが閉鎖され、業務はリモートワークに以降することとなりました。

当初、デイヴィッドさんはリモートワークによって職場の政治的駆け引きや雑談から解放され、対面の煩わしさからの素晴らしい休憩になるだろうと考えていました。ところが、リモートワークが始まって1週間もたたないうちに、デイヴィッドさんのチームは「Sneek」という従業員監視ツールを導入することになりました。

業務が始まってSneekがオンになると、1分ごとにノートPCのウェブカメラで従業員の写真を撮影し、チーム全員が見ることができる「デジタル会議室」に一覧で表示されるそうです。表示された顔写真をクリックするとビデオ通話を開始できるほか、仕事をさぼっている人を発見した場合は、Sneekに統合されたSlackを通じてチームチャットに証拠写真を転送できるとのこと。


Sneekの共同創設者であるDel Currie氏は、このソフトウェアが「オフィスを複製すること」を目的としたものだと主張しています。「多くの人がこれをプライバシーの侵害だと思うだろうと、私たちも100%理解しています。Sneekはそう感じる人たちのソリューションではありません。しかし、同僚のことをよい友達だと思っており、一緒に仕事している時につながりを保ちたいと思っているチームもたくさんあるのです」と、Currie氏は述べています。

しかし、デイヴィッドさんにとってSneekは大失敗であり、導入から3週間もしないうちに仕事を辞めてしまいました。デイヴィッドさんは、「私は会社のデジタルマーケティングを管理するために契約しました。自宅のリビングルームをライブ配信するためではありません」と述べました。


Sneekのような従業員監視ツールは、COVID-19のパンデミック以前は比較的需要の少ないニッチな市場でした。しかし、2020年の春から多くの企業がリモートワークを導入したことで状況は一変し、従業員監視ツールは急速に注目を集めています。従業員監視ツール業界の主要なプレイヤーであるActivTrakは、以前は50社だったクライアントが2020年3月だけで800社に拡大しました。その後もパンデミックを通じて成長を続け、記事作成時点では9000社の顧客と契約しています。

従業員監視ツールは、従業員のオンラインアクティビティを監視して生産性を評価するサービスを提供しており、画面のスクリーンショット・キーストロークのログ・ブラウジングの追跡といったものが主流です。中にはPCを通じて音声を記録する機能や、従業員のPCをリモート制御する機能を提供し、PCだけでなくモバイルデバイスでも利用可能できるツールも登場しているとのこと。

また、企業は必ずしも専用の従業員監視ツールを使うわけではなく、社内のIT部門と協力して「特定の単語を使用した電子メール」にフラグを立てるなどして、従業員の監視を行うケースもあります。たとえば、企業は「採用担当者」「給与」といった単語を含むメールを監視することにより、特定の従業員が転職先を探していることを察知できる可能性があります。

メルボルン大学のデジタル研究者でありプライバシーの擁護者であるフアン・カルロス氏は、「この(従業員監視ツールが拡大する)傾向が鈍化する兆候はありません」と述べ、少なくともカルロス氏が知る範囲においては、法改正の動きや従業員による強固な反発も起きていないとしています。


こうした流れの中、オンライン監視と生産性にまつわる研究も盛んになっています。カリフォルニア大学の経営学准教授であるエリザベス・ライオンズ氏が行った研究では、オフィスの外でデータ収集作業を行う従業員に対して雇用主が監視していることを知らせると、監視されていることを知らされなかった従業員より生産性が高くなることが判明したとのこと。

一方、2020年の調査では、4分の3の労働者が「雇用主から監視されたとしても生産性が向上することはない」と回答するなど、企業による監視が労働者の士気に打撃を与える可能性も示唆されています。ライオンズ氏は、「私たちが見た他の研究では、労働者は本質的に『マネージャーが私のすること全てを監視するつもりなら、私は彼らが期待する以上のことは何もしないでしょう』と言っています」と述べました。

従業員監視ツールの台頭によって状況は変わっており、もし監視ツールが導入されたPCでプライベートな作業をした場合、インターネットバンクのパスワードやFacebookのメッセージまで雇用主に筒抜けになってしまう可能性があります。カルロス氏は、「パンデミックが発生する前は、仕事と遊びの境界線は(より明確に)ありました。言い換えれば、監視はドアで隔てられていたのです」と指摘しています。

もちろん、ほとんどの雇用主は勤務中の従業員について監視したいだけであり、プライベートの監視までは意図していません。しかし、もし上司や雇用主が監視ツールを悪用して勤務時間外の従業員を盗み見ようとした場合、多くの西側諸国では従業員を保護する法律が十分に整備されていないとのこと。カルロス氏は、「しかし、善し悪しは別にして、監視ソフトはリモートワークとのトレードオフのように考えられているので、多くの人は甘んじて受け入れています」と述べました。

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in メモ,   ソフトウェア, Posted by log1h_ik

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