メモ

新型コロナウイルス感染症の流行で「労働力の自動化」が一気に進むのか?


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策として各国で都市封鎖や経済活動の制限が実施されており、失業率が世界中で上昇しています。この動きと同時に浮上している、「COVID-19のパンデミックに伴って既存の仕事を自動化する動きが進むのか?」という疑問について、クイーンズランド工科大学のロボット工学者であるジョナサン・ロバーツ氏が解説しています。

The coronavirus has thrust human limitations into the spotlight. Will it mark the rise of automation?
https://theconversation.com/the-coronavirus-has-thrust-human-limitations-into-the-spotlight-will-it-mark-the-rise-of-automation-139198


「ロボットによる自動化で多くの仕事がなくなってしまうのではないか?」という問題の議論は、2013年にオックスフォード大学の研究者が発表した(PDFファイル)論文をきっかけに広まりました。この論文では行政のサポートワーカー、電話営業、保険会社の受け付けといったさまざまな職業が自動化される可能性が指摘されたことから、多くの人々が自動化による失業を懸念するようになったとのこと。

しかし、自動化が進むと直接的に失業者が増えるのかというと、一概にそうとは断言できないとロバーツ氏は指摘。当然、一部の自動化は人間の労働力に取って代わるものですが、別の分野では新たなビジネスや雇用を創出したり、既存の従業員にとって利益をもたらしたりするそうです。また、雇用の数について考慮する範囲が一部の地域なのか、国内全土なのか、それとも世界全体なのかによっても答えは変化します。


既にロボットは先進国において広く導入されており、工場などにおける反復的な作業はロボットが人間に取って代わっています。この動きは今後、発展途上国にも広がるとロバーツ氏は考えていますが、ニッチな製造業や高度な技術を要する航空宇宙産業などの現場、ユニークなファッションやデザイン性の高い製品の製造現場では、ロボットの導入が新たな雇用を生み出す可能性もあるそうです。

オーストラリアは産業の自動化が進んでいる国の一つであり、中でも鉱山機械の自動化においては世界のトップを走っているとのこと。鉱業が盛んなオーストラリアでは、多くの鉱山が自動化した機械を鉱山内に設置し、従業員が遠隔操作センターから機械を操作・監視するシステムが確立されているそうで、高度な自動化によってCOVID-19のパンデミック中でも鉱山の運営を続けることが可能でした。


ロバーツ氏は「近年、自動化へのより速く広い転換を推進する、2つの主要な推進力があります」と指摘。1つ目は、「自動化によって商品の製造やサービスの供給能力を高め、世界的な問題の影響を受けにくいサプライチェーンを構築するべきだ」という考えです。国内の製造能力を向上させる上で、製造工程の自動化は大きな役に立ちます。

そして2つ目は、「COVID-19以後のパンデミックの脅威に備え、人と人との社会的接触を減らした社会を作る必要がある」という要求です。新型コロナウイルスは物の表面や肉体的な接触によって感染が拡大することが知られているため、セルフレジや「Amazon GO」のようなレジレス店舗の導入は、感染の可能性を軽減する方法を提供します。

by Scott Lewis

多くの人々はロボットによる自動化が雇用を削減すると考えていますが、自動化の波は一般の人々が思う順序では進まない可能性があるとのこと。「ロボットの導入はスキルの低い仕事を優先的に奪っていく」という考えが一般的ですが、専門家ではない人々が考える「スキルの低い仕事」は、ロボット工学者から見るとそうではないケースもあるとロバーツ氏は述べています。

たとえば部屋や建物内を掃除する「清掃人」は一般的に高いスキルが必要と見なされにくい職業ですが、建物ごとに異なった場所を決まった時間内に掃除するという作業は、ロボットが自動化するには複雑すぎるそうです。実際、余計な物体が置かれていない床だけを掃除するロボット掃除機はあるものの、屋内のさまざまな場所を掃除できる汎用ロボットは依然としてSFの中にしか存在しません。

また、オーストラリアでは主に外国からの出稼ぎ労働者によって支えられている「果物の収穫作業」も、細かく分解すると複雑な仕事です。果物の収穫を自動化してくれるロボットはいくつかのプロトタイプが開発されているものの、市場投入するまでには至っていないとのこと。COVID-19のパンデミックによる渡航制限に伴って、オーストラリア国内では果物を収穫する人手が不足する可能性が指摘されていますが、今後数年でロボットが労働力不足を解消してくれる見込みはないそうです。


そして、自動化を進める上で考慮するべき最大の問題が、労働力をガラリと置き換えることによる追加のコストや負担です。自動化には多額の資金が必要になる他、労働プロセスを転換することでさまざまな混乱が発生するため、採算が取れるまでは時間がかかります。COVID-19のパンデミックによって多くの企業が収益の減少に苦しむ中、自動化を導入することはリスクが高いと見なされているのは確かですが、ロバーツ氏はこのタイミングで大胆に行動した企業が、将来的に大きなリターンを得る可能性もあると述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
世界に押し寄せる自動化の波についてアニメーションで解説するムービー - GIGAZINE

就職や転職を考える上で参考になる「将来的に機械により自動化する可能性のある職業」をまとめた圧巻のデータ - GIGAZINE

「ロボットは2025年までに7500万の仕事を奪う可能性があるが心配する必要はない」のはなぜか? - GIGAZINE

2030年には最大8億人がロボットに職業を奪われ、日本では労働人口の半数が新しい職を探すことに - GIGAZINE

仕事を全自動化して6年間も働かず年収1000万円を得ていたプログラマーが最終的にクビに - GIGAZINE

新型コロナウイルス収束後、私たちの生活はどのように変化するのか? - GIGAZINE

新型コロナウイルスは働き方や学び方を永久に変えてしまったというMicrosoftの見解、「もう元には戻れない」 - GIGAZINE

新型コロナウイルスによる「死亡リスク」が高い職業とは? - GIGAZINE

in メモ, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.