サイエンス

再生可能エネルギーを二酸化炭素で貯蔵する巨大な「CO2バッテリー」が世界各地に作られる予定


風力や太陽光などの再生可能エネルギーを利用した発電では、気象条件によって発電できない時間帯も生じるため、余剰エネルギーを貯蔵するシステムと組み合わせることが重要です。近年は、大量の二酸化炭素を用いて余剰エネルギーを貯蔵する「CO2バッテリー」が実用化されつつあり、Googleも主要データセンターへの展開を計画しています。

CO2 Batteries That Store Grid Energy Take Off Globally - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/co2-battery-energy-storage


大規模な風力発電所や太陽光発電所が登場するにつれて、「余剰の再生可能エネルギーをどうやって貯蔵するのか」はますます重要な課題となっています。余剰エネルギーを貯蔵し、風力や太陽光が利用できない間に8時間以上連続して電力を供給する「長時間エネルギー貯蔵(LDES)」というコンセプトは、再生可能エネルギーの価値を最大化する鍵といえます。

問題は、市場で最も優れた最新のグリッドスケール蓄電システムでさえ4~8時間分程度しか蓄電できず、夜間や悪天候続きの期間、あるいは酷暑などでエネルギー需要が増した時期に対応できないという点です。これらのシステムは主にリチウムイオン電池を採用していますが、大型化しすぎると経済的に採算が取れないとのこと。その他の金属や化学物質を使用したバッテリーも開発されていますが、エネルギー密度やコスト、劣化、資金調達などが障壁となっています。


そんな中で研究者らは、余剰エネルギーを蓄えるために空気を圧縮したり、砂やブロックを加熱したり、水素やメタノールを使用したり、地下深くの水を加圧したり、重い物体を空中につり上げたりと、さまざまな方法でエネルギーの貯蔵を試みています。しかし、地質学的制約や実現可能性、効率性、拡張性などが商業化を阻んでいるとのこと。

すでに2つの貯水池間で水を移動させる揚水発電は、余剰エネルギーの貯蔵システムとして活用されており、数千MWもの電力を長期間蓄えることが可能です。しかし、揚水発電は特殊な地形と広大な土地を必要とするため、どこでも展開できる手段ではありません。


イタリアのミラノに拠点を置くエネルギー企業・Energy Domeは、二酸化炭素を利用して余剰エネルギーを貯蔵する「CO2バッテリー」を開発し、2025年7月にイタリアのサルデーニャ島に実証施設を建設しました。

CO2バッテリーは余剰の再生可能エネルギーを使用して、2000トンもの二酸化炭素を圧縮し、室温まで冷やして液体にすることで、スクールバスほどの圧力容器数十個に貯蔵します。エネルギーを使用する際にはプロセスを逆にして、液体二酸化炭素を気体に戻して発電タービンを回し、気体となった二酸化炭素はドーム内に保存されます。そして余剰エネルギーがやってきたら、波状のパイプでドーム内から二酸化炭素を運び出し、液体にするという仕組みです。この方法により、10時間で200MW(メガワット)もの電力を生成できるとのこと。

CO2バッテリーは気体となった二酸化炭素を貯蔵する巨大なドームと、液体二酸化炭素を貯蔵するタンクやタービンなどの設備から構成されています。揚水発電のような特殊な地形は必要なく、電気化学バッテリーのように希少鉱物も使用しないほか、既存のサプライチェーンで利用可能な部品を使っています。期待されるバッテリー寿命はリチウムイオンバッテリーの約3倍で、サイズと蓄電容量を増やすことで発電量あたりのコストも大幅に削減可能。Energy Domeは、CO2バッテリーによるLDESソリューションが、同規模のリチウムイオンバッテリーより30%安価になると見込んでいます。

以下の写真が、ミラノに建設されたEnergy DomeのCO2バッテリーです。縦長の巨大なドームにさまざまな設備が付属していることがうかがえます。


Energy Domeのドームはわずか半日もあれば膨らませることができ、施設の残りの部分は2年もかからずに建設可能。5ヘクタール(5万平方メートル)の平地があればどこにでも作れることから、世界中でCO2バッテリーを建設する動きが始まっています。

サルデーニャ島に続いてCO2バッテリーが建設されるのはインドであり、2026年にはカルターナカ州に完成する予定です。また、アメリカのウィスコンシン州では公益事業会社のAlliant Energyが、1万8000世帯に電力供給するCO2バッテリーを2026年に建設する許可を取得しています。

さらにGoogleもEnergy DomeのCO2バッテリーを高く評価しており、ヨーロッパ・アメリカ・アジア太平洋地域の主要データセンターに展開する計画です。Googleのエネルギー戦略担当シニアリーダーのアイノア・アンダ氏は、Energy Domeは標準化されているため、世界中のさまざまな地域で建設可能な点を高く評価しているとのこと。なお、GoogleとEnergy Domeは、CO2バッテリーに関する契約条件を明らかにしていません。

Our first step into long-duration energy storage with Energy Dome
https://blog.google/outreach-initiatives/sustainability/long-term-energy-storage/

CO2バッテリーのマイナス面としては、同容量のリチウムイオンバッテリーの約2倍の敷地面積を必要とする点や、ドーム自体が巨大なため周辺地域の景観に影響を及ぼす点などが挙げられます。また、ドームが壊れたら大量の二酸化炭素が排出されるとの懸念もありますが、Energy DomeのCO2バッテリーは時速160kmの風にも耐えられるほか、事前に台風やハリケーンの襲来がわかっていれば、半日ほどで二酸化炭素を液体化してドームを収縮させることもできます。

最悪の事態が起きてドームに穴が空いた場合、2000トンの二酸化炭素が空気中に放出されます。これは、ボーイング777でニューヨークとロンドン間を15回往復した際の排出量に相当しますが、石炭火力発電所の排出量に比べれば無視できる程度だとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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