サイエンス

低コストなエネルギー貯蔵手段として注目される「重力エネルギー貯蔵システム」とは?


太陽光発電にかかるコストは2030年代には化石燃料の発電所を動かすコストより安くなると予想されており、太陽光発電による電力の供給量は今後も増加していくと考えられています。しかしいつでも安定して発電できるわけではない太陽光発電の普及により、揚水発電のような余剰電力を貯蔵するシステムが求められるようになりました。そこで、米国電気電子学会(IEEE)の学会誌IEEE Spectrumが比較的低コストなエネルギー貯蔵手段として注目されている「重力エネルギー貯蔵システム」について解説しています。

Gravity Energy Storage Will Show Its Potential in 2021 - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/energy/batteries-storage/gravity-energy-storage-will-show-its-potential-in-2021

スイス発のスタートアップEnergy Vaultが商業テストを開始している「CDU Arbedo Castione」は、高さ110メートルのタワーに設置された6本のクレーンで重さ35トンのコンクリートブロックを上下に運動させ、最大80メガワット時のエネルギーを貯蔵できる重力エネルギー貯蔵システムです。コンクリートを用いることから「コンクリートバッテリー」とも呼ばれています。

Energy VaultのCEOであるロバート・ピコニ氏によると、リサイクルにコストのかかるリチウムイオンバッテリーと異なり、コンクリートバッテリーで用いるコンクリートは廃棄されたコンクリートを再利用して作られているため、環境への負荷が少ないとのこと。また、コンクリートバッテリーはリチウムイオンバッテリーと同じ量のエネルギーを半分のコストで貯蔵することができます。さらに、リチウムイオンバッテリーは徐々に劣化し交換が必要となりますが、コンクリートバッテリーでは交換の必要はありません。

Energy Vaultは2019年に1億1000万ドル(約113億円)の資金調達に成功しており、2021年にはコンクリートバッテリーの運用を開始する予定です。なお、コンクリートバッテリーの外観は以下のムービーで確認できます。

Commercial Demonstration Unit August 2020 - Arbedo-Castione - YouTube


スコットランドに拠点を置くGravitricityも実用段階に近い重力エネルギー貯蔵システムを開発しています。Gravitricityの開発する重力エネルギー貯蔵システムは、廃棄された深さ1kmの立坑を利用して重さ500~5000トンのおもりを上下させることでエネルギーを入出力します。

Gravitricityのプロジェクト開発マネージャーであるクリス・ヤンデル氏によると、Gravitricityの重力エネルギー貯蔵システムは1つのおもりを用いてエネルギーを管理することにより、必要な電力を素早く短時間で入出力できるとのこと。

Gravitricityの重力エネルギー貯蔵システムは、2021年にはスコットランドでテスト運用を開始する予定で、ヤンデル氏は「信号を受信してから1秒以内にエネルギーを入出力できるシステムを開発することが目標です」と語っています。


アメリカの企業であるGravity Powerは地下に大量の水を貯蔵し、その水で巨大なピストンを上下させてエネルギーを貯蔵するシステムを開発しています。

このシステムで6.4ギガワット時のエネルギーを貯蔵するためには、800万トンを超える質量のピストンが必要です。800万トンの巨大なピストンを製造するのは不可能に思えますが、Gravity Powerの創設者であるジム・フィスケ氏は「現代の技術では800万トンのピストンを十分に製造することができる」と語っています。


最後にIEEE Spectrumは「これらの重力エネルギー貯蔵システムはリチウムイオンバッテリーを利用したシステムと比べて経済的ですが、それでも高額な費用が必要です。しかし、世界の国々が気候変動の深刻さを認識したとき、これらのシステムに喜んでお金を払うでしょう」と締めくくっています。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by log1o_hf

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