太陽エネルギーを数カ月にわたり貯蔵できる素材が特定される、データ保存などへの応用も可能
イギリス・ランカスター大学の研究チームが、太陽光のエネルギーを長期的に貯蔵できる素材を特定したと報告しました。この素材が実用化されれば、熱を放出して氷を解かす車のフロントガラスや環境に優しい暖房システム、さらには長期安定してデータを保管できるDVDなどへの応用が可能になると期待されています。
Long-Term Solar Energy Storage under Ambient Conditions in a MOF-Based Solid–Solid Phase-Change Material | Chemistry of Materials
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.0c02708
Study shows promising material can store solar energy for months or years | Lancaster University
https://www.lancaster.ac.uk/news/study-shows-promising-material-can-store-solar-energy-for-months-or-years
気候変動対策として、化石燃料からの脱却と再生可能エネルギーへの移行の必要性が叫ばれていますが、再生可能エネルギーのさらなる普及には安価かつ長期的にエネルギーを保存できる仕組みの確立が不可欠です。そこで、ランカスター大学の研究チームは、以前京都大学の研究チームが開発した「DMOF1」という物質に注目しました。
「DMOF1」とは、炭素ベースの分子によって結合された金属イオンが3次元構造を形成する金属有機構造体(MOF)の一種です。MOFは、多孔質なことから多孔性配位高分子(PCP)とも呼ばれています。
DMOF1には、光を強く吸収する性質を持つアゾベンゼン分子が閉じ込められていることに着目した研究チームは、実際にDMOF1を紫外線にさらす実験を行いました。
その結果、DMOF1内のアゾベンゼン分子がMOF内で変形し、ばねが弾性エネルギーを蓄えるのと同じ要領でエネルギーを蓄える様子が確認されました。さらに、DMOF1がどれだけの間エネルギーを吸収した状態を保てるかを調べる追加実験の結果、DMOF1は少なくとも4カ月間はエネルギーを蓄えることが可能だということも判明しました。
研究チームの一員であるジョン・グリフィン氏は、「DMOF1はカイロを発熱させる相変化素材に似た機能を持っています。カイロを繰り返し使うには再加熱が必要ですが、DMOF1には太陽から直接フリーなエネルギーを取り込むことが可能だという点で優れています。しかも、電子部品や可動部が必要ないので、太陽光エネルギーを貯蔵し放出する過程でエネルギーのロスが発生することもありません」と述べました。
光エネルギーを保存し、特定の状況下ですみやかに放出できるアゾベンゼン分子のような物体は、光スイッチと呼ばれています。光スイッチで太陽光エネルギーを保存するというアイデアはこれが初めてのものではありませんが、多くは液体で取り扱いが難しく、エネルギー保存期間も数時間~数日程度しかないため、実用化のめどがたたない状態でした。しかし、MOFは固体なため保管が容易で、エネルギーを保存できる期間も4カ月と季節をまたぐには十分な長さであることから、DMOF1は「あらかじめ蓄えた太陽光エネルギーを冬に放出できる暖房」などへの応用が期待できるとのことです。
論文の共著者であるNathan Halcovitch氏は、「我々のアプローチは、MOFの構造やその中に閉じ込める分子を変えることで、これらの素材に新たな活用方法が見いだせることを示しています」と述べました。
Halcovitch氏によると、光スイッチを含んだ結晶状素材には、結晶構造の中に光スイッチが整然と配置されるという特性があるため、暖房の他にもデータを保存するメディアなどの用途が考えられるとのこと。また、薬剤を物質の中に閉じ込めて、光や熱をトリガーにして体内に放出させるカプセルのような使い方も可能だとされています。
今回の研究では、DMOF1は長期にわたってエネルギーを貯蔵できるという点で有望な結果が得られた一方で、エネルギー密度は低いという問題も見つかりました。研究チームは今後、他のMOF構造やより大きなエネルギー貯蔵能力を持つ結晶状素材の研究を進めていく方針です。
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