サイエンス

夏の暑さを閉じ込めておいて冬に使うエネルギー貯蔵システム「MOST」が実用化にむけ研究中

By John Westrock

うだるような夏の暑さに襲われている時に「どうせならこの暑さを貯めておいて、冬に暖房として使えたらいいのに」などと思ったことがある人もいるはず。現実には熱エネルギーをいつまでも保ち続けることは難しく、夏の暑さを冬に活用することは容易ではなかったのですが、新たに開発が進められているシステム「MOST」は、全く別の方法を用いることで熱を分子の中に閉じ込めて再利用することが可能なシステムとなっています。

Emissions-free energy system saves heat from the summer sun for winter | Chalmers
https://www.chalmers.se/en/departments/chem/news/Pages/Emissions-free-energy-system-saves-heat-from-the-summer-sun-for-winter-.aspx

New emissions-free energy system could save heat from the summer sun for winter
https://knowridge.com/2018/10/new-emissions-free-energy-system-could-save-heat-from-the-summer-sun-for-winter/

MOSTは、ヨーロッパの名門工科大学の一つでスウェーデンにある「チャルマース工科大学」の研究グループによって開発されたシステムです。特殊な分子の中に熱エネルギーを別の形で蓄えることで保存しておき、必要なときに熱に変換してエネルギーを取り出すという仕組みとなっています。


「特殊な分子」は炭素と水素、窒素から成るもので、太陽光を受けた時にエネルギーが豊富な異性体に変換されるという特性を備えています。異性体は、同じ種類の原子を持ちながらも違う構造をしている物質のことを指します。

このシステムでは異性体は液体の形をとっており、エネルギーを蓄えた状態で貯蔵することが可能。そして夜や冬場など必要になったときに熱を取り出すことができます。また、液体であることから既存のソーラーシステムに組み込むことが可能で、MOSTという名称は「Molecular Solar Thermal Energy Storage(分子ソーラー熱エネルギー貯蔵)」から取られています。


この構想自体は比較的古くから存在していたもので、研究グループは長年にわたって研究を続けてきたとのこと。2017年には技術に大きな進歩がもたらされたことで、実用化に向けた大きな前進を得ることができたそうです。研究グループのリーダーを務めるKasper Moth-Poulsen氏は「この異性体に収められたエネルギーは、最大で18年間にわたって保存することが可能です。そのエネルギーを取りだして使用する段階では、予想していたよりも多くの熱を取り出すことができました」と語っています。

システムの中には触媒が組み込まれており、異性体を含んだ液体がフィルター状の触媒を通るときに熱が発生します。その際に発生する熱により温度がセ氏20度だった水を83度にまで加熱することが可能で、温められた水は暖房などに利用することができます。また、触媒を通った異性体の分子は元の構造に戻るため、再びソーラーシステムに循環させて熱を取り込むことが可能。このようにして、使い捨てではない循環可能な熱交換・保存システムが実現されているとのこと。

By carina

今回の発表の大きな成果の一つが、かつては液体に可燃性のトルエンを用いる必要があったことを改善したところにあります。システムの中をトルエンが循環することになると火災の危険性が高まるため、一般家庭などで使うことは現実的ではなかったのですが、新たにトルエンに依存しない液体を用いることが可能になったおかげで、安全性の高いシステムへと進化させることができたそうです。

MOSTはエネルギーを貯めるときも取り出す時も二酸化炭素を排出しないシステムとなっている点も大きな特徴。もちろん、分子の製造過程などトータルなカーボンフットプリントは考慮する必要はありますが、「熱を別の形で蓄えておいて、必要なときに取り出す」という、あるようでなかった仕組みは今後の社会の中で重要な位置を占めることになる可能性があります。

研究グループは今後、熱の取り出し性能をさらに高めて110度にまで加熱できる装置の実現に向けた研究を進める方針で、今後10年以内・2028年までの実用化を目指しているとのことです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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