お金や宝くじの無料配布にはワクチン接種率を高める効果はほぼない、ワクチン接種を促すアプローチは存在するのか?
強力な変異株であるデルタ株の出現によって再び世界で流行を見せている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、ファイザー製やモデルナ製などのワクチンがデルタ株にも一定の効果があるという研究結果が得られているため、ワクチン接種を推し進めることがCOVID-19の流行を食い止めることにつながります。ワクチン接種率を高める際に問題となる「ワクチン接種を拒む人々」に対するアプローチについて、文化経済学と開発経済学の専門家であるメグ・エルキンス氏が解説しています。
Why lotteries, doughnuts and beer aren't the right vaccination 'nudges'
https://theconversation.com/why-lotteries-doughnuts-and-beer-arent-the-right-vaccination-nudges-165325
世界規模で新型コロナウイルスのデルタ株が流行しており、一時はCOVID-19の流行が収まっていたアメリカが再び1日あたりの死者数が世界最多となるなど、2021年の下半期に入って以降もCOVID-19の猛威は止まる所を知りません。各国政府や世界保健機関(WHO)はCOVID-19対策としてデルタ株にも一定の効果があるとされるワクチンの接種を推し進めていますが、何らかの理由でワクチン接種を拒む反ワクチン派の人々がワクチン接種率向上の足かせとなっています。
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こうした反ワクチン派の人々に対して、インセンティブとして特に強力な「無料」の力でワクチン接種を勧めるという手法が試験的に導入されています。アメリカのカリフォルニア州は、1回目の予防接種を受けた人には50ドル(約5500円)のギフトカードに加えて、抽選で10人に総額150万ドル(約1億6500万円)があたるという宝くじを無料で配るというキャンペーンを実施し、ニューヨーク州は100ドル(約1万1000円)に加えて大学奨学金を全額返済できるチャンスが獲得できるというキャンペーンを実施。これを受け、オーストラリアでもワクチンを完全接種したならば300オーストラリアドル(約2万4000円)を与えるというキャンペーンが提案されています。
しかし、こうしたアプローチには効果がないという調査結果が複数出ています。100ドルを配るというアプローチについては、メルボルン研究所の分析によってワクチン接種率をわずかに向上させる効果しかないことがわかっており、宝くじを配るというアプローチについては、宝くじ自体には強いインセンティブがあるとわかっているものの、2021年5月にオハイオ州で行われた「ワクチン接種者に最大100万ドル(約1億1000万円)が当たる」というキャンペーンにはワクチン接種率を増加させたという証拠は見つからなかったことが判明しています。
COVID-19に対して集団免疫を獲得するためには少なくとも80%の接種率を達成しなければならないと言われている中、2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー氏らが広めた心理学的手法「ナッジ」という考え方が注目を集めています。セイラー氏が著作の中で説いたナッジとは、不健康なジャンクフードと健康的な果物があるという状況下で果物を食べさせたい場合に「果物を目の高さに置く」という手法のように、簡単かつ安価に達成可能で、なおかつ「ジャンクフードを隠す」ような選択を強いるようなものではない手法を指し、「自発的に望ましい行動をとるように促す」という概念を意味します。
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ナッジを専門とするイギリス内閣府発の研究組織Behavioural Insights Teamによると、ナッジには「オプトアウトなどでデフォルトの選択肢を望ましい選択肢にしておく」「本能的に選ばれやすい選択肢にする」「『皆さんもやっています』というように社会的なつながりを示唆する」「一年の計を立てる新年など適切なタイミングで選択肢を提供する」といった4要素が重要とのこと。エルキンス氏によると、このナッジの考え方に基づいて、「ワクチン接種日をこちらで予約したので、その予約日をお知らせします」というメールを送るという手法では、ワクチン接種率を11%高めるという効果が確認されたそうです。
もちろんこうした手法では、「新型コロナウイルスワクチンは人間のDNAを変化させる」と信じ込んでいる反ワクチン派の人々を転向させることは不可能です。そのため、今後の研究ではナッジを用いた上で「感情も考慮に入れるべき」とエルキンス氏は指摘しています。
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