カラスやミツバチと違って「人間だけが数学を扱うことができる」のはなぜか?
数の概念はサルやカラス、ミツバチなど、人間以外の動物も持っており、動物によっては簡単な計算も可能であることがこれまでの研究で判明しています。しかし、数を抽象的な概念のままで扱って理論を体系化する「数学」は人間だけのもの。なぜ人間だけが数学を扱うことができるのかについて、ヨーク大学心理学部の准教授であるシルケ・ゲーベル氏が解説しています。
Why animals recognise numbers but only humans can do maths
https://theconversation.com/why-animals-recognise-numbers-but-only-humans-can-do-maths-165121
数の概念は人間に限らず、他の高等生物にもみられます。ゲーベル氏によれば、3以上の数を認識できるシステムはその個体のワーキングメモリに依存しており、大人になって脳が成長すると、数を数えなくても大きな数を大まかなレベルで推定できるようになるとのこと。例えば「木の実がだいたい400個成っている木」と「木の実がだいたい500個成っている木」がある時、木の実を正確に数えなくても、とっさに500個成っている木の方が有利だと判断できます。
高等生物は大きな数字を近似することに特化した数の概念を使って、生存戦略に有利な判断を行うように進化してきた、とゲーベル氏。例えば、アマゾンの先住民族であるムンドゥルク族は、正確な数字を表わす言葉は持っていませんが、「ちょっと」や「たくさん」など、物の量を近似的に表わす言葉を豊富に持ちます。これは、ムンドゥルク族にとって細かく数を把握することは意味を持たず、大きな数の近似を多種多様に表現する方が理にかなっているからです。
では、人間を含めた高等生物は大きな数しか把握できないかというと、そうではありません。ゲーベル氏によれば、人間の赤ちゃんは生後10カ月頃からすでに数を把握できるそうですが、把握できる数の範囲はおよそ3までといわれています。例えば、3個あるリンゴから1個を取り除いた時には「リンゴの数が減った」と認識できますが、それよりも多いリンゴの場合は数の変化を感知することができません。これは魚やミツバチなど、脳の容量が小さい動物でも同じだそうです。
つまり、人間を含めた高等生物は「大きな数をそこそこの精度で近似して比較する能力」と「ごく小さな数を高い精度で認識する能力」の2種類を持っているというわけです。
ただし、人間は「数を記号で表わすことができる」という点で他の動物と違います。人間がいつから数を数えられるようになったのかははっきりしていませんが、6万年前のネアンデルタール人が動物の骨につける印で数を数えていたそうです。数を記号で表わすようになると、3以上の数を非常に高い精度で数えられるようになります。
数を数えるというプロセスを外在化させることは、記号化の他にも、一般的には両手の10本の指を使って数を数えることで可能になります。パプアニューギニアのユプノ族は、足の指、耳、目、鼻、鼻の穴、乳首、へそ、こう丸、ペニスなど、体のさまざまな部位を使って33までの数を数えられるそうです。
より大きな数を扱うようになると、人は体の部位だけでは数を数えられなくなり、結果として数を象徴化した高度な数字体系を使うようになりました。現代では、ほとんどの人間は0~9までのアラビア数字を使い、十進法で無限にある数を表現するようになりました。数の象徴化は人類にとって驚くべき発明だとゲーベル氏は述べています。
ぼんやりとした数の概念を持っていた子どもが数字を覚えることでより高い精度で数を扱い、予測することができるようになります。「にじゅうご」という言葉から「25」という数字を使うようになるように、数の概念で言語が中心的な役割を果たすようになることで、人は数学を扱えるようになるというわけです。ゲーベル氏は「動物も人間も日常的に環境から数値情報を得ていますが、最終的に人間を際立たせて数学を可能にしているのは言語です。私たちは実の多い茂みを選ぶだけでなく、文明の基盤となる計算を行うことができるのです」と述べました。
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