テスラの「オートパイロット機能」の正式調査をアメリカ政府機関が開始、停車中の緊急車両に衝突する事故が相次いだ件で
テスラが提供している運転支援システムの「オートパイロット」は、周囲の交通状況に応じて速度や車線内のハンドル操作をアシストする機能です。このオートパイロットで走行中のテスラ車が「車道に停まっている緊急車両」に衝突する事故が相次いでいることを受け、アメリカ運輸省の国家道路交通安全局(NHTSA)が76万5000台のテスラ車を対象にした調査を開始しました。
DOT NHTSA ODI Document - INOA-PE21020-1893.PDF
(PDFファイル)https://static.nhtsa.gov/odi/inv/2021/INOA-PE21020-1893.PDF
US probing Autopilot problems on 765,000 Tesla vehicles
https://apnews.com/article/technology-business-ap-top-news-61557d668b646e7ef48c5543d3a1c66c
US investigates Autopilot after 11 Teslas crashed into emergency vehicles | Ars Technica
https://arstechnica.com/cars/2021/08/us-investigates-autopilot-after-11-teslas-crashed-into-emergency-vehicles/
記事作成時点でテスラが提供しているオートパイロット機能は、アメリカ自動車技術者協会(SAE)が策定した自動運転化レベルでは「レベル2」に当たり、あくまで部分的な操作の自動化のみが実現されている段階です。そのため、運転操作の主体はドライバーであり、オートパイロットをオンにしている場合でもドライバーがハンドルを握ることが意図されています。
しかし、中にはドライバーがテスラ車のセンサーをだまして運転席を離れる場合があるほか、ハンドルから手を放してもすぐに警告が出るわけではないことから、オートパイロット機能で走行中のテスラ車が事故を起こすケースがたびたび報告されています。テスラ車ユーザーの中には、あえて運転席を無人にしたまま走行する様子を撮影し、SNSに動画を投稿する人もいるとのこと。
一連の事故の中でも、近年は「テスラ車が停車中の緊急車両に衝突する」という事故が相次いでおり、2018年5月にはオートパイロットで走行中のテスラ・モデルSが停車中のパトカーに衝突して全損させる事故が起きているほか、2019年12月には高速道路で停車中の消防車にモデルSが衝突して乗客が死亡する事故も発生しています。
オートパイロットで走行中のテスラ・モデルSがパトカーに激突して全損させる事故が発生 - GIGAZINE
こうした事態を受けてNHTSAは2021年8月16日、合計76万5000台ものテスラ車を対象に、オートパイロットや「交通量感知型クルーズコントロール」の正式な調査を開始すると発表しました。クルーズコントロールはオートパイロットのサブ機能であり、ハンドル操作は行わないものの、先行車との距離を感知して適切な走行スピードを維持する機能です。今回の調査対象となるのは、2014~2021年に製造されたテスラ・モデルY、モデルX、モデルS、モデル3であり、アメリカで販売されたテスラ車の大部分をカバーしているとのこと。
NHTSAによると、テスラ車が駐車中の緊急車両と衝突した事故は2018年1月以降だけで11件に上り、一連の事故による負傷者は17人、死亡者は1人となっています。ほとんどの事故は日没後に発生していましたが、緊急車両はライトや照明灯、光る矢印板、ロードコーンなどで停車していることを周囲に知らせていたとのこと。また、衝突したテスラ車は全てオートパイロットまたはクルーズコントロールが作動中だったそうです。
AP通信は今回の調査について、ジョー・バイデン大統領がドナルド・トランプ前大統領よりも、自動車両の安全性に対して厳しい態度を取っていることを示していると指摘しています。国家運輸安全委員会(NTSB)のジェニファー・ホメンディ議長は16日の声明で、「今日のNHTSAのアクションは、安全への前向きな一歩です」「先進運転支援システムの新たな世界をナビゲートするに当たり、これらのテスラ車ができることとできないことの洞察をNHTSAが持っていることが重要です」と述べ、調査開始を歓迎しました。
なお、オートパイロットに関する正式調査が行われるとの発表を受けて、16日にテスラの株価は4.3%下落したとのことです。
テスラのオートパイロットは時にドライバーや乗客の命を救うことが知られていますが、依然として完全なものではありません。2018年の時点で、テスラを含む多くの自動運転支援システムには「停止している車両を認識するのが難しい」という課題があると指摘されています。
テスラ・モデルSのオートパイロットはなぜ停車中の消防車を避けきれなかったのか? - GIGAZINE
NHSTAは文書の中で、「この調査では、オートパイロットが動作している最中にドライバーが動的な運転タスクに従事することを監視、支援、強化するための技術と方法を評価します」「また、確認された事故や他の類似した事故の原因となる状況の調査も含まれます」と述べています。今回の調査結果次第では、NHTSAによるテスラ車のリコールまたはその他の執行措置につながる可能性があるとAP通信は指摘しています。
テスラやその他の自動運転機能を提供するメーカーは、オートパイロットなどの運転支援機能が動作している最中も、ドライバーがハンドルを握って操作に介入できる状態を保つ必要があると警告しています。テスラはハンドルへの圧力を検知してドライバーがハンドルを握っていることを確認していますが、ドライバーはハンドルに重しを乗せるなどして、簡単にセンサーをかいくぐることができるとのこと。
カーネギーメロン大学で自動運転車を研究するRaj Rajkumar氏は、オートパイロットで走行中のドライバーがハンドルを握り、周囲に注意を払っているかどうかを検知する仕組みについての調査が必要だと主張。「ハンドルへの圧力の問題を回避するのは非常に簡単です。この問題は2014年から続いています。私たちはこれについて長い間議論してきました」と述べました。
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