サイエンス

氷の池に2時間半沈んだ8歳の子どもが体温7℃・心停止状態から生還、医師らは「人命救助の限界を大きく更新した」と報告


アメリカで、氷の張った池の氷が割れて8歳の男の子が水に落ち、発見されるまで約147分間水中に沈んだ事故が発生しました。最低体温は約7℃まで落ち、心停止状態にもなりましたが、人工呼吸と復温治療で救命されました。医学研究チームは「医学文献において生存が確認された最長の水中潜水時間と最低体温記録」と報告しており、心停止性低体温症から救命可能な時間と温度の限界範囲を広げる事例だと述べています。

Ice Water Drowning Survival After 147-Minute Submersion and 7 °C Hypothermic Circulatory Arrest | JACC: Case Reports
https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jaccas.2025.104885

2025年12月にアメリカ・ペンシルベニア州で、8歳の男の子がブーツとスノージャケットを着て屋外に出かけました。両親は後に家から池の氷まで続くそりの跡を発見し、割れた池の氷から男の子が転落したことを発見しました。救助隊は地上と水中の両方から捜索を実施し、男の子は約147分後に池の底から発見されました。


救助後すぐに心肺蘇生法(CPR)が開始され、気管にチューブを入れて気道を確保する「経口気管挿管」とバッグバルブマスクを用いて空気を肺へ送りこむ「陽圧手動換気」が行われました。非接触赤外線温度計で測定した体温は7℃でしたが、搬送チームには再加温を開始しないよう指示が出され、搬送中も復温は行わずに約69分間CPRを継続したまま、ペンシルベニア州ダンビルのガイジンガー医療センターの心臓外科手術室へ直接搬送されました。

病院到着時、男児は自発呼吸も脈拍もなく、心電図は完全な心静止を示していました。医療チームはCPRを継続しながら太ももの動脈と静脈へカテーテルを挿入し、心臓と肺が生命を維持するのに十分な機能を失った際に心臓と呼吸の補助をする治療法「体外式膜型人工肺(ECMO)」を開始しました。ECMO開始から約18分後には人工循環が確立され、熱交換器を用いて徐々に体温を上昇させる復温治療が開始されました。

ECMO開始時点でも男の子は心静止状態でしたが、体温がおよそ22℃まで上昇すると心電図上にわずかな電気活動が現れ始めました。その後、約28℃では遅い心拍程度になり、さらに復温を続けた結果、正常な拍動リズムまで回復しました。体温35.5℃まで復温した時点で集中治療室へ搬送され、約10時間後には男の子は目を開けて痛み刺激や母親の声に反応するようになりました。


男の子はその後、別の小児専門病院へ転院し、肺機能の悪化に対する治療を継続しました。ECMOは12日目に終了し、30日目には人工呼吸器も取り外されました。MRIでは低酸素による脳の変化が認められたものの、視覚・聴覚・嚥下(えんげ)機能は正常に保たれており、高度な認知機能や末梢(まっしょう)神経障害もリハビリによって徐々に改善しました。59日目には退院してリハビリ施設へ入院し、約6か月後の経過観察では、支えなしで立ったり三輪車に乗ったり柔らかい食事を摂ったりできるまで回復しています。

研究チームによると、これまで報告されていた氷水への水没から生存が報告された例は、水中に沈んでいた時間が最大83分、最低体温は11.8℃程度だったとのこと。今回の男の子は147分間以上氷水に水没し、体温は約7℃まで低下した可能性があることから、研究チームは「人間の生命が救われた低体温循環停止時間と体温の最低値を著しく延長した症例」としています。


論文では、氷水への転落では急速に低体温となることで脳などの代謝が低下し、酸素消費量が減少するため、通常より長時間にわたって臓器が保護される可能性があると説明されています。また、小児は体表面積が体重に対して大きく皮下脂肪も少ないため、成人よりも急速に体温が低下し、この保護効果を受けやすいことも指摘されています。医療チームはこうした理由から搬送中に復温を行わず、低体温状態を維持したままECMOによる復温を開始したというわけです。

研究チームは、「今回の救出は、多くの訓練を受けた献身的な多職種医療従事者が彼の治療にあたり、2つの医療システムにまたがる地域医療の取り組みによって実現しました。これは、特筆すべき事例において特に注目に値します。体温が7℃まで低下した状態で、2.5時間以上心停止状態が続いた後でも、生存は可能です」と結論付け、今後の救命判断にも影響を与える可能性があると述べています。

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in サイエンス, Posted by log1e_dh

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