サイエンス

医療研究であまりに不正や誤りが多いため「裏付けされるまでは信頼するべきではない」と専門家が警告


近年では科学研究における不正行為が問題視されていますが、発表された研究の不正を見抜くことは困難な上に時間もかかります。そんな状況の中で、「確かな証拠や裏付けが得られるまで、研究が不正なものであるとの仮定に基づくべき」と、医学誌のブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)で編集者を務めていたリチャード・スミス氏が主張しています。

Time to assume that health research is fraudulent until proven otherwise? - The BMJ
https://blogs.bmj.com/bmj/2021/07/05/time-to-assume-that-health-research-is-fraudulent-until-proved-otherwise/

健康や医療に関する研究は信頼の上に成り立っており、臨床試験の結果を読む医療専門家や学術雑誌の編集者らは、「臨床試験が実際に行われ、結果が正直に報告されている」という前提に基づいて評価を行います。ところが、実際には多くの研究に不正や誤りが存在しており、医療分野の知見に大きな悪影響を及ぼしているそうです。


ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のイアン・ロバーツ教授はある日、同僚から「マンニトールという薬剤の投与が頭部外傷による死亡を半減させたことを示す研究の体系的レビュー」が、実際には行われていない試験を基にしているという話を聞きました。実際にロバーツ氏がこの研究について調査したところ、体系的レビューに使われた試験が実際には行われておらず、論文に記載された複数の共著者も試験に貢献していなかったことが判明しました。

ロバーツ氏はその後、臨床試験を評価して正確な情報を伝える組織であるコクラン共同計画に参加。複数の体系的レビューの調査を行った結果、「全ての体系的なレビュー、特に複数の小規模な臨床試験に基づいた体系的レビュー」に対して懐疑的な見方を深めたとのこと。ロバーツ氏は体系的なレビューを「ごみの中を捜索するようなもの」だと考えており、単一施設で行われた小規模な臨床試験結果は体系的なレビューに含めず、破棄するべきだと主張しています。


また、麻酔科医のジョン・カーライル氏は、2017年2月~2020年3月の期間中に医学誌の「Anaesthesia」に提出された526件の臨床試験結果を調査した結果を発表しました。この調査では、全体の73件(14%)に誤ったデータが含まれており、43件(8%)が致命的な欠陥があるか信頼できない「ゾンビ試験」だったと報告されています。

スタンフォード大学のジョン・ヨアニディス教授が発表した(PDFファイル)調査結果では、役に立たない「ゾンビ試験」を発表する国には偏りが見られることが指摘されています。ヨアニディス氏が、2019年から2020年にかけてAnaesthesiaに提出された臨床試験を調査したところ、エジプトから提出されたものの100%(7/7)、イランの75%(3/4)、インドの54%(7/13)、中国の46%(22/48)、トルコの40%(2/5)、韓国の25%(5/20)、日本の18%(2/11)が誤りを含んでおり、そのほとんどが役に立たないゾンビ試験だったとのこと。この比率がAnaesthesia以外の学術誌にも適応できると仮定した場合、年間数万件ものゾンビ試験が行われているとヨアニディス氏は推定しています。


こうした状況から、スミス氏は体系的なレビューを行う人々が無条件に臨床試験の結果を信頼するのをやめ、裏付けとなる証拠が得られるまで研究が不正であると仮定する必要があると指摘。オークランド大学医学部のアンドリュー・グレイ准教授は、詐欺的な臨床試験を検出するためのチェックリストを公開し、体系的なレビューを行う前に研究の信頼性をチェックすることを推奨しています。

研究不正の問題については「腐ったリンゴ」のたとえが持ち出されることが多いものの、「Research Misconduct Policy in Biomedicine: Beyond the Bad-Apple Approach(生物医学における不正手段の研究:腐ったリンゴのアプローチを超えて)」の著者であるバーバラ・レッドマン氏は、「研究不正は論文の執筆者ではなくシステムの問題だ」と主張しています。レッドマン氏は、論文の公開システムが信頼に基づいたものであり、査読が不正を検出するように設計されていないことや、不正の検出には多額のコストや時間がかかる一方で出版社に不正を検出するインセンティブが少なく、必要なリソースが欠如していると指摘。ロバーツ氏も、不正な研究に基づいた治療を受けている患者を除き、論文の関係者は誰もが利益を得ていると主張しています。

スミス氏は、すでに研究不正の問題は科学の自己修復能力を超えてしまっており、システムによる適切な対処方法も見つかっていないと指摘。そのため、研究が正直に行われたというこれまでの仮定から、「裏付けがされていない研究は不正なものである」という仮定に移行する時が来たのかもしれないと述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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