サイエンス

制御不能な人工衛星が地球に突入する際に「完全に燃え尽きる」部品の開発が進んでいる


一般的に、役割を終えた人工衛星は使用中の人工衛星とぶつからない墓場軌道へ誘導するか、意図的に大気圏再突入を行って燃え尽きさせたり人がいない海へ落下させたりして処理します。ところが、時には制御不能な衛星が地球に落下してくることもあるため、欧州宇宙機関(ESA)などの研究チームは「制御不能になった衛星が地球に落下しても完全に燃え尽きる部品」の開発を進めていると報告しました。

ESA - Drive to destruction
https://www.esa.int/ESA_Multimedia/Images/2021/06/Drive_to_destruction

Demising a SADM, in theory and practice – The Clean Space blog
https://blogs.esa.int/cleanspace/2021/06/16/demising-a-sadm-in-theory-and-practice/

Plasma wind tunnel annihilates satellite model in atmospheric reentry test | Live Science
https://www.livescience.com/plasma-tunnel-melts-satellite-model.html

衛星や宇宙船などが大気圏に再突入する際は高速で前方の空気が押しつぶされるため、空気中の分子が激しくぶつかることで断熱圧縮が生じて高温になります。そのため、高温になりすぎると困る宇宙船は角度や速度を調整して最高温度の上昇を防ぎますが、役割を終えた人工衛星を再突入させる際はわざと深い角度で突入することで温度を上げ、地表に落下する前に燃え尽きるようにします。たとえ部品が残っても、海の真ん中など人的被害が起きにくい場所へ落とすことが求められるとのこと。

しかし、時には人工衛星が制御不能な状態で落下してくる時もあり、再突入時の熱で部品が燃え尽きないばかりか、人的被害が発生し得る場所に落下する可能性もあります。ESAによると、人工衛星や宇宙船の運用者は、機体が制御不能な状態で落下した時に人的被害が起きるリスクを1万分の1未満にとどめる必要があり、エンジニアは落下する全ての部品が燃え尽きるように力を注いでいます。


人工衛星の中でも特に燃え尽きにくいと言われているのが、衛星に電力を供給する太陽光発電パネルの角度を制御する「太陽電池アレイ駆動機構(SADM)」と呼ばれる部品です。SADMは宇宙空間で衛星が機能するために必要な部品ですが、かさばる上に鋼やチタンといった材料を使っているため、衛星を解体しにくくしているとのこと。

そこでESAは、ノルウェーの軍需・宇宙関連企業であるコングスベルグ・ディフェンス&エアロスペース(KDA)、ドイツのソフトウェア企業であるHyperschallTechnologieGöttingenGmbH(HTG)、ドイツ航空宇宙センター(DLR)などと協力し、大気圏再突入時にしっかり燃え尽きるSADMの開発に着手しました。

まず研究チームは大気圏再突入時の状況をモデル化するソフトウェア「SCARAB」を開発し、SADMをさまざまな条件で微調整し、どうすれば再突入時に速やかに燃え尽きるのかを調査しました。その結果、1本のネジを融点が低いアルミニウムに置き換えることでより高高度での崩壊を促し、地表にたどり着く前に燃え尽きさせることが可能だと判明したとのこと。

続いて研究チームは、アルミニウムのネジを使用したSADMの模型を作成。そしてDLRが所有する「LK3 plasma wind tunnel(LK3プラズマ風洞)」を使って大気圏再突入時の状況を再現し、実際にSADMが燃え尽きるのかどうかを調べました。実際にプラズマ風洞を使ってSADMを超高温で熱した様子は、以下のムービーで確認できます。

Demising a Solar Array Drive Mechanism - YouTube


LK3プラズマ風洞はアーク加熱式の風洞であり、大気圏再突入時と同様の数千度もの高温のプラズマを発生させることが可能です。さっそく作成したSADMの模型を設置し、高温のプラズマを発生させます。


すると、見る見るうちに前方の部品が焼失し……


内部の機構があらわになりました。


底の方にある部品が燃え尽きるには少し時間がかかるようですが……


超高温によってドロドロに溶けていきます。


今回の実験では、SCARABでシミュレーションしたテストの結果と非常によく一致した結果が得られたとのことです。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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