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SpaceXが展開する衛星インターネットサービス「Starlink」が抱える問題点とは?


テスラのCEOとして知られるイーロン・マスク氏が設立した宇宙開発企業・SpaceXは、宇宙に打ち上げた人工衛星を用いたインターネットサービス「Starlink」の提供を開始しています。衛星インターネットサービスの充実はインフラ設備が整っていない地方に住む人にとって朗報ですが、記事作成時点のStarlinkにはさまざまな問題があると海外メディア・The Vergeのライターであるニレイ・パテル氏がまとめています。

Starlink review: dreams, not reality - The Verge
https://www.theverge.com/22435030/starlink-satellite-internet-spacex-review


パテル氏は、アメリカにおけるインターネット通信サービスは価格が高く、顧客サポートやデータポリシーにおいても問題があるものの、競争力がないため遅いインターネット回線を利用せざるを得ない状況に置かれていると指摘。特に地方での状況は劣悪だそうで、パテル氏が住んでいるニューヨーク州の田舎では、アメリカ連邦通信委員会(FCC)が定めたブロードバンドの基準である「ダウンロード速度が25Mbps以上」を満たす回線に接続しているのは全体の43%に過ぎないとのこと。

これに対しStarlinkは、通信速度を2021年内に300Mbps、将来的には10Gbpsにすることを目標としています。利用料金も他のインターネット通信サービスと比較してそれほど高額ではなく、Wi-Fiルーターや人工衛星に接続するためのユーザー端末などがセットになった499ドル(約5万4000円)のStarlinkキットを購入すれば、後は99ドル(約1万800円)の月額料金で利用が可能です。また、既存のインフラストラクチャーに依存しない新たなインターネット通信サービスが開始されることは、競争が欠如した通信業界の競争を促す可能性もあると期待されています。

アメリカのブロードバンド政策が失敗していることもあり、多くのアメリカ人はStarlinkの登場に興奮しているとのこと。記事作成時点のStarlinkはあくまでベータ版として提供されており、一定数の割当が埋まれば新たに利用することはできませんが、パテル氏が住んでいる地域は幸いにも割当に余裕があったとのことで、実際にStarlinkキットを購入して利用してみたそうです。


パテル氏の下に届いたStarlinkキットは「人工衛星に接続するパラボラアンテナ」「パラボラアンテナ用の金属製三脚」「長さ100フィート(約30m)のPoEケーブル」「電源アダプター」「PoEケーブル付きの小型Wi-Fiルーター」で構成されています。パテル氏によるとセットアップは、ケーブルと電源アダプターを接続して、電源プラグをコンセントに差したら、あとはアンテナを三脚に取り付けて適切な場所に設置するだけでよく、非常に簡単だったとのこと。ベータ版ではあるものの、すでに消費者向けにリリースされるバージョンに近いだろうとパテル氏は感じたそうです。

パテル氏が示した、セットアップが完了した状態のStarlinkのパラボラアンテナはこんな感じ。ピックアップトラックの荷台に置けるぐらいの大きさであることがわかります。

by Nilay Patel / The Verge

ところが、アンテナははるか空の上を飛ぶ衛星と接続し続ける必要があるため、「どこにアンテナを設置するのか」がかなり問題になってくるとパテル氏。木や建物、電柱などによって空が遮られている場合、Starlinkの通信が途切れてしまうとのことで、「地平線から25度以上の角度で空を遮るものがない円すい状の空間」を確保できる場所に設置することが望ましいとされています。実際にStarlinkのベータテスターの中には、自宅周囲の木々を避けるために専用の台座を作った人もいます。


その一方、強風の際には安全のためにアンテナを屋内に取り込むことが推奨されているため、高い場所に設置する際にはアンテナを取り込む用のはしごなども用意しておく方が良いそうです。なお、パテル氏が庭にアンテナを設置したところ、家そのものや周囲の木々の影響で1日2時間ほどはインターネットに接続できない時間が生じました。短期間のレビュー目的で使うのでなければ、アンテナを屋根より高く突き出したポールに取りつけただろうとパテル氏は述べています。

一度アンテナを設置すれば、後は自動で衛星の位置を検出してアンテナが適切な方向を向きます。付属のWi-Fiルーターは非常にシンプルな仕組みであり、通常のWi-Fiルーターと同様に使い始めることができるため、設定で心配することは特にないとのことで、セットアップが完了したらすぐにインターネットを使い始めることが可能です。

実際にパテル氏がStarlinkのインターネットを使ってみたところ、ダウンロード速度は最高222Mbps、アップロード速度は最高24Mbpsだったとのこと。最高速度はあくまで一時的なもので、ダウンロード速度はおおむね30~90Mbps程度だったそうですが、この速度が一貫して出るのであれば、十分にアメリカの地方でインターネットを提供する通信事業者と競争力があります。

ところが、Starlinkのインターネット回線は数分に1度の頻度で数秒ほど通信ができない時間が発生するそうで、リアルタイムの接続が必要なSlackやZoom、オンラインゲームといったサービスは十分に使えなかったとパテル氏は述べています。また、ある程度のバッファが生まれるNetflixやDisney Plusといった動画視聴サービスでは4K動画の視聴も可能だったものの、TikTokのように次々に新たな動画を読み込むサービスでは遅延が気になるそうです。数分に1度のペースで通信が遮断されてしまう事象はパテル氏だけでなく、他のベータテスターからも報告されているとのこと。

実際にStarlinkのインターネットを試してみたパテル氏は、残念ながら記事作成時点におけるStarlinkは「誇大宣伝」で、たとえ高額で速度が遅かったとしても既存の通信サービスの競争相手にはならないと結論付けています。


信頼性と一貫性に欠ける電波の問題は、打ち上げた人工衛星の数が増えるにつれて解消されるとみられていますが、一方で、Starlinkの人工衛星が宇宙観測の障害物になるという指摘がなされています。

「SpaceXの人工衛星が明るすぎて宇宙研究を破壊してしまう」という懸念 - GIGAZINE


パテル氏は、確かにStarlinkはエンジニアリングの偉業ではあるものの、「インターネットアクセスのために大量の衛星を打ち上げ、天文学に悪影響を及ぼす」というトレードオフに踏み切った点は問題だと述べ、天文学者らともっと協議するべきだったと指摘しています。また、さまざまな問題を抱えるStarlinkに注目が集まり、多くのアメリカ人が期待を寄せていること自体が、アメリカにおけるインターネット通信サービスが失敗していることを強調していると述べました。

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in ネットサービス, Posted by log1h_ik

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