サイエンス

たった90ミリグラムの物体も重力で引き合っていることはどうやって証明されたのか?


物理学では、強い相互作用弱い相互作用電磁力重力の4つが基本相互作用とされています。この4つの中で重力が最も弱く、地球の重力の影響下では物体同士の間に働く万有引力を計測することは非常に困難です。そんな中、オーストリアにあるInstitute for Quantum Optics and Quantum Information(IQOQI)が、わずか90ミリグラムの物体間に働く非常に微小な重力を実験で検出したと報告しています。

[2009.09546] Measurement of Gravitational Coupling between Millimeter-Sized Masses
https://arxiv.org/abs/2009.09546


Ultra-weak gravitational field detected
https://www.nature.com/articles/d41586-021-00591-1


重力のメカニズムはアルベルト・アインシュタインが発表した一般相対性理論によって説明可能とされていますが、一般的な範囲では17世紀にアイザック・ニュートンが提唱した「2つの物体の間には、物体の質量に比例し、物体間の距離の2乗に反比例する万有引力が作用している」という理論で説明できます。


しかし、銀河系規模になるとニュートンが唱えた力学法則が通用しないことが少しずつわかってきました。

例えば「物体が引き合う強さは物体間の距離の2乗と反比例する」という万有引力の法則に従えば、2つの物体が大きく離れていると重力の影響がほぼなくなってしまうため、銀河の外側にある星は回転から外れて吹っ飛んでしまうはず。しかし、銀河系を構成する無数の天体は、銀河の中心からの距離と関係なくほぼ安定して回転しており、矛盾しています。


この「理論と観測結果のズレ」を修正するために、ニュートン力学を見直した「修正ニュートン力学」が提唱されました。さらに、万有引力の計算に関わる万有引力定数を修正する必要性も出てきました。しかし、重力は電磁力の1036分の1という極めて弱い力であり、地球や太陽の重力の影響を受ける地球上では微小な重力を計測することは非常に困難。記事作成時点では、万有引力定数は他の定数と比べて精度が低く、科学技術データ委員会による推奨値を使用している状況です。そのため、万有引力定数の実験的測定を世界中の物理学者が試みています。

そんな中、IQOQIの研究員であるトビアス・ウェストファル氏らの研究チームが、非常に微弱な重力場を測定する実験を行いました。

研究チームが作成した以下の装置は一様な棒の両端に2つの試験金球が取り付けられたもので、中央の重心に取り付けたシリコンケーブルでぶら下げられています。研究チームは、電磁場を遮断するファラデーシールドを挟みながら、片方の試験金球に別途用意した金球を近づけ、3mmほどの範囲で定期的に動かしました。


また、天秤の中央には鏡がついており、レーザーが照射されます。反射したレーザーを感知器が受光することで、天秤のわずかな動きを感知できます。研究チームが金球を近づけたり遠ざけたりすることで、微弱な重力場に変化が生まれると、装置と鏡が動いて反射するレーザービームが変位するという仕組みです。

実験で使われた金球は1つ当たりの質量がわずか92ミリグラム。重心の間隔が2.5mmである場合、2つの金球の間に働く重力は、地球の重力場では人間の赤血球のおよそ3分の1の質量(1兆分の9グラム)にかかる力とほぼ同じ強さとなります。実際に使われた金球を1セント銅貨の上に載せたところと、実際の実験装置が以下の写真です。


実際に研究チームが金球を動かしたところ、レーザービームの変位が認められました。また、実際にレーザービームの変位から万有引力定数を算出したところ、科学技術データ委員会による推奨値と9%ほどずれていました。研究チームによれば、天秤の振動減衰による不確かさを考慮すると、この9%の誤差はわずかな差といえるそうです。

少なくとも、ウェストファル氏らの実験は、非常に小さい質量の物体でも、重力によって互いに引き合っていることを初めて示したものといえます。科学誌のNatureは「課題としては、天秤の振動減衰を極力減らすことですが、これは簡単なことではありません。もしそれが実現できれば、最終的に量子重力理論も実証できるかもしれません」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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