極右の過激派がPornHub幹部に殺害予告、過激化が進む性産業差別の実態とは?
2021年2月、右翼の人々から人気を集めるSNSの「Gab」に、過激なキリスト教集団がPornHub幹部の実名を挙げて「死刑にならなければメンバーがこの人物を処刑する」と画像付きで投稿しました。近年では極右の過激派が「人身売買の防止」を掲げて性産業を攻撃する動きがオンライン上で活発になっているとのことで、そんなアメリカにおける性産業差別の実態について海外メディアのMotherboardが報じています。
The Crusade Against Pornhub Is Going to Get Someone Killed
https://www.vice.com/en/article/n7bj9w/anti-porn-extremism-pornhub-traffickinghub-exodus-cry-ncose
GabにPornHub幹部の殺害をほのめかす投稿をした過激なネオナチのキリスト教集団は、PornHubの親会社であるMindGeekを「カルテル」と呼び、MindGeekの所在地であるカナダがPornHub幹部を裁判にかけて死刑を宣告しなかった場合、メンバー自らが処刑すると主張しています。投稿の中では、違法な性的人身売買だけでなく合法な商業的風俗産業の廃止も訴える非営利団体・Exodus Cryが展開する、PornHubの閉鎖を求める活動「#Traffickinghub」のハッシュタグが使われていたとのこと。
また、同じグループは、防弾チョッキを着てショットガンを持つ男性がMindGeekのオフィスにいる合成写真に、「SHUT IT DOWN!(閉鎖しろ!)」という言葉を重ねた画像も投稿していました。この画像のキャプションには、Exodus Cryをたたえるキャプションも含まれていました。実際にExodus CryはPornHubを完全に閉鎖することを求めており、2020年10月のブログ投稿で、MindGeek幹部の身元を公開して裁判にかけることを呼びかけていたことから、今回の過激派集団による投稿内容との類似性が見られます。
他の過激派集団もExodus Cryが販売するTシャツを着た画像を投稿しており、中には「性産業に従事するセックスワーカーやトランスジェンダーの権利撤廃」を訴える投稿もあったとのこと。これらの過激派集団はExodus Cryの思想に共鳴し、「全てのセックスワークは人身売買と関連しており、ポルノ業界を根絶し、性的なサービスを提供するマッサージ店は犯罪行為の巣窟だ」と主張しています。一方でMotherboardがExodus Cryにコメントを求めたところ、Exodus CryはPornHubに対する直接的な暴力を呼びかけたことはなく、暴力を扇動するこれらの投稿を非難したそうです。
Exodus Cryは主に政治やソーシャルメディアの力を利用してPornHubの閉鎖を試みていますが、類似する表現やExodus Cryの名称が実力行使による問題解決を望む人々にも利用されています。PornHubの広報担当者は「横行する反ポルノの表現は、従業員に対する殺害予告やさらしの事例を劇的に増加させました」と述べ、プラットフォームを利用して生計を立てている多くの人々にも悪影響を及ぼしているとコメント。また、性産業の擁護団体・Adult Industry Laborers & Artists Associationの創設者であるMary Moody氏は、過激派からの暴力的なメッセージがセックスワーカーを脅かしていると非難しました。
Motherboardによると、アメリカだけでも何百もの人身売買防止組織が活動しているとのことですが、その多くは性産業自体を犯罪行為と見なすモデルを推進しています。セックスワーカーの擁護団体やアムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの国際的な人権団体は、このモデルは性産業をなくすのではなく危険で目立たないものに変え、セックスワーカーへの危険や搾取が増加すると主張。セックスワーカーにとって必要なのは、性産業の完全な非犯罪化だと訴えています。
性的人身売買は確かに根絶されるべき問題ですが、人身売買防止組織はPornHubを含む合法的な性産業全体を人身売買による搾取と同一視する問題があります。本来であれば人身売買や性産業は繊細で複雑な問題ですが、人身売買防止組織は「性的奴隷制に反対している」という過激な表現に置き換えることで微妙な議論を避け、政治的支援や資金調達を得ているとのこと。
Motherboardが性的人身売買の根絶を訴える複数の人身売買防止組織に連絡したところ、Gabに投稿されたような暴力的な投稿に賛同する団体はなかったものの、オンライン上でポルノやセックスワークに否定的な投稿を行うことが現実世界の暴力につながるという考えも否定しました。また、Exodus Cryの設立者であるLaila Mickelwait氏は、Exodus Cryを用いた過激派の投稿について「PornHubの自作自演ではないか?」との可能性を示唆しています。
As the founder of Traffickinghub I aggressively condemn the racist hateful message here. It has no place in this movement.
— Laila Mickelwait (@LailaMickelwait) March 17, 2021
Knowing the dirty tactics of MindGeek & the extreme racism they promote on Pornhub I would not be surprised if MindGeek created these accounts to attack. https://t.co/p4I6qmjTvC
オンラインで性産業の根絶を訴える人々はExodus Cryのような人身売買防止組織だけでなく、自身に性的経験がない原因を相手の側に求めるインセルや反マスターベーションを訴えるグループとも接近しているとのこと。これらの団体による主張は、現実世界の暴力犯罪にも影響を与えているとされています。
白人至上主義と反ポルノの信念は古くから重なり合っており、「ユダヤ人がポルノ業界を支配している」「性産業が白人女性を堕落させる」「異人種間の性的関係を促進して白人同士の生殖を阻害する」といった考えから、白人至上主義者の多くは強い反ポルノ的な感情を持っているとのこと。たとえばオルタナ右翼団体のプラウド・ボーイズは、「全てのメンバーはポルノを控える必要がある」というルールを設けており、マスターベーションを1カ月1回に制限する禁欲主義を掲げています。
実際に性産業従事者への暴力犯罪は繰り返し起こっており、2020年3月にはジョージア州アトランタ周辺のマッサージ店が銃撃され、アジア系女性6人を含む8人が死亡する事件も発生しました。犯人は事件の動機について「自分は性依存症の問題を抱えている」と主張し、性産業に従事する女性を「排除したい誘惑」と捉えていたことが報じられました。
実際に殺害された女性らがセックスワーカーであったのか、そもそもマッサージ店が性的サービスを提供していたのかは明確になっていないものの、Exodus CryはFacebook投稿の中で、銃撃の被害者が人身売買の被害者であったと主張。「犠牲者が命を奪われる前に搾取から逃れられなかったこと」を悲劇だと述べたものの、犯人を非難する言葉は見られません。
マッサージ店を性犯罪の巣窟として目の敵にする人身売買防止組織について、Moody氏は「セックスワーカーの命を危険にさらすヘイト的なプロパガンダシンクタンクです」と非難。こうした団体はアトランタの銃撃事件といった悲劇すら「世界的な人種差別やミソジニーと関連したものであり、マッサージ店やポルノを含む性産業は人種・女性差別の基盤を作っている」と訴え、性産業の根絶を訴える道具にしているとMoody氏は述べました。
いくつかの人身売買防止組織はマッサージ店が性的サービスを行っているとの考えから、「マッサージ店に出入りする人々を見張って滞在時間からどの人物が性的サービスを受けたのかをリスト化する」「コリアンタウンでタイトな服装をした人物を監視する」といった活動を行うケースもあるとのこと。実際に人身売買防止組織に潜入した人物によれば、そのような活動をしても実際に人身売買の現場に遭遇することはなかったそうですが、セックスワーカーに対する監視や嫌がらせを正当化する団体は少なくないとのこと。
ソーシャルメディアプラットフォームでは、白人至上主義を含むヘイトスピーチを規制する動きが強まっているものの、性産業に対する差別やセックスワーカーへの非難は規制の対象に含まれていません。たとえば、「ポルノは地球上で最悪の問題であり、性産業を排除する必要があります」と誰かがコメントしても、この発言が「性産業やセックスワーカーへのヘイトスピーチ」としてフラグを立てられることは決してないため、オンラインで性産業への差別を減らすのは難しいのが現状です。
アメリカでは長年にわたり性産業を社会問題の原因として非難してきた歴史があり、Exodus Cryは人身売買の防止という名目で性産業の根絶という真の主張を受け入れやすくしているとのこと。Moody氏は、「Exodus Cryなどがアダルトコンテンツを廃止することを目的とした過激派である事実は変わりません」と述べ、セックスワーカーらに懸念や恐怖心を抱かせる元凶だと述べました。
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