PornhubやRedTubeなど人気ポルノサイトを運営する企業の正体とは?
PornhubやRedTubeといった人気ポルノサイトは、あるひとつの企業により運営されています。そんな人気ポルノサイトの背後に存在する企業の実態に、イギリスの経済紙であるFinancial Timesが迫っています。
MindGeek: the secretive owner of Pornhub and RedTube | Financial Times
https://www.ft.com/content/b50dc0a4-54a3-4ef6-88e0-3187511a67a2
MindGeek: The secretive owner of Pornhub and RedTube | Ars Technica
https://arstechnica.com/tech-policy/2020/12/mindgeek-the-secretive-owner-of-pornhub-and-redtube/
2000年代はプレイボーイの創設者であるヒュー・ヘフナー氏などによって牛耳られていたアダルトコンテンツ業界ですが、2020年時点ではアルゴリズムや検索エンジン最適化、ターゲット広告といったウェブ関連の技術が席巻しています。
ポルノサイトはターゲット広告やクリック課金型広告、メールマーケティングといったインターネット広告業界では当たり前となっている広告やマーケティング手法をいち早く取り入れてきたため、インターネットの普及と共にネット市場の重要な部分を担うようになっています。
インターネットの普及により急速に発展していったポルノサイトですが、これらをユーザーに提供している「人」や「企業」の実態はあまり知られていないところです。そんな日陰者の中でも、PornhubやRedTubeといった人気ポルノサイトを運営しているのが「MindGeek」という企業。同社はカナダのモントリオールに拠点を構えており、同社の財務記録からヨーロッパとアメリカのポルノ業界の中でも最大規模の企業であることが明らかになっています。
それにもかかわらず、MindGeekという企業の実態はほとんど明らかになっていません。また、同社の株式を最も多く保有しているのは「Bernard Bergemar」という名前のビジネスマンだそうですが、同氏は「世界で最も成功したポルノ王」であるにもかかわらず、名前をインターネット上で検索してもほとんど情報が出てきません。Financial Timesの調査によると、Bergemar氏の身元はMindGeekの幹部など、ごく一部の人間にしか知られていない模様。
MindGeekの公式サイト上にもポルノサイトを運営していることがわかるような情報はほとんど掲載されておらず、代わりに「トラフィックの多いウェブサイトの設計・開発・管理を行う」などと書かれています。しかし、Financial Timesは「『トラフィックの多いウェブサイト』というのは控えめな表現で、Pornhubはアメリカでは『coronavirus(コロナウイルス)』や『Trump(トランプ)』よりも多く検索されています」と指摘。
また、MindGeekが運営するポルノサイトのひとつであるPornhubは、ビッグデータを次のレベルに引き上げることができるとも言われており、実際、他のサイトが収集するのに数か月かかるであろうユーザーデータをわずか1日で収集できるほど多くのユーザーを抱えています。加えて、Pornhubには毎日約15テラバイト相当のムービーがアップロードされており、これはNetflix上で視聴可能なコンテンツの約半分に相当する量であるとも指摘されています。
近年、FacebookやGoogleといったインターネット企業は独占禁止法違反の疑いなどで、政府機関から厳しい監視を受けていますが、MindGeekのような大規模ポルノサイトを運営する企業は、政府からの圧力をほとんど受けていません。
ただし、PornhubはThe New York Timesに掲載された「Pornhubには児童ポルノやリベンジポルノが多数投稿されており、そこから収入を得ている」という指摘記事を受けて、未承認ユーザーによるムービーのアップロードを禁止し、アップロード済みのムービーをダウンロードする機能も停止すると発表。
世界最大のポルノサイト「Pornhub」が未承認ユーザーのアップロードを禁止&ダウンロード機能も停止すると発表 - GIGAZINE
Pornhubが未承認ユーザーのアップロードを禁止したことで、同サイト上からは1000万本以上のムービーが削除されることとなり、騒動の発端となったThe New York Timesの記事を書いた記者に日本から殺害予告が届く事態にまで発展しています。これだけ大きな騒動になったにもかかわらず、Pornhubの運営元であるMindGeekや、Bergemar氏の名前はほとんど隠れたままです。
リベンジポルノに対する反対活動を行っているNot YourPornのKateIsaacs氏は、「ポルノ業界について話したがる政治家はいません。その理由は、ポルノ業界が日常生活の一部であることを認めなければいけないからです。そのため、MindGeekのような多国籍企業について説明してくれる人はどこにもいません」と語っています。
MindGeekが運営する無料のポルノサイトでは、そのコンテンツのほとんどを一般ユーザーが直接アップロードしています。この「一般ユーザー」というのは実際にポルノを制作しているスタジオなども含まれており、その理由は「ポルノサイト上にポルノの一部を投稿することで、コンテンツを視聴したユーザーが『このポルノの続きが見たい』と考え、お金を払ってくれることを期待しているため」です。
一方で、無料のポルノサイトは「アップロードされているコンテンツの多くが違法アップロードである」という点も問題視されています。著作権コンサルタントとして働くジェイソン・タッカー氏は、「ポルノは世界で最も望まれるコンテンツである一方で、世界で最も海賊版の多いコンテンツでもあります」と説明しています。
さらに、MindGeekはポルノ業界で実際にポルノを作成しているポルノスターやスタジオから批判を集めており、スペインのポルノ監督であるエリカ・ラスト氏からは「MindGeekは著作権侵害に基づくビジネスモデルで市場に参入し、ポルノ業界を完全に破壊し、多くのスタジオや俳優を廃業させました」と指摘されています。なお、ラスト氏らはMindGeekに対して定期的に違法アップロードされた自社コンテンツを削除するように要請し続けているとのこと。
こういった指摘に対して、MindGeek側は海賊版や児童ポルノといった違法コンテンツを削除するためのプロセスを強化していると説明しています。例えば、Pornhubではコンテンツモデレート業務に「数十人」が携わっているとのこと。しかし、一部の識者からはモデレート業務に携わる従業員の数が少ないと指摘されており、実際、Pornhubと同じように日々大量のコンテンツが投稿されているYouTubeでは、約1万人がモデレーターとして働いています。
ポルノ業界はインターネット広告と共に新しい時代を迎えましたが、その根幹となる技術を生み出したのは、ファビアン・ティルマン氏というドイツのソフトウェアエンジニアです。同氏が開発した「ウェブサイト訪問者がクリックしたものを追跡することで、ウェブサイト運営者が広告料金を請求できるようにするための最初のソフトウェア」がポルノサイトビジネスのベースとなっており、ポルノ業界が「ウェブサイトに『無料のポルノムービー』などの人を引き付けるコンテンツがあれば、オンラインマーケティングでお金を稼ぐことが可能になる」ということに気づいたことがすべての始まりと言えます。
ティルマン氏は同氏が立ち上げたベンチャーであるThylmannで得た資金を元手にポルノサイトを立ち上げ、ポルノの制作会社も巻き込んで事業を拡大していきましたが、ティルマン氏の立ち上げたポルノサイトも、同サイトから違法にダウンロードされたムービーを違法アップロードする別サイトとの競争に苦労した模様。しかし、ティルマン氏は2010年に既に高い収益性を誇っていたPornhubやBrazzersといったサイトの運営元である会社(MindGeekの前身企業)が売りに出されていることを知り、1億3000万ドル(約130億円)で買収。なお、買収時にはフォートレス・インベストメント・グループやJPモルガン・チェース、コーネル大学といった企業を含む投資家グループから資金援助を受けており、これによりソフトウェア開発者などを含む従業員を200人から1200人にまで拡大し、モントリオールだけでなくルクセンブルクやキプロス、ヴァージン諸島といった国にグループ企業を立ち上げていったそうです。
しかし、ドイツ検察がティルマン氏を2012年後半に脱税容疑で告発したことで、同氏の栄光の日々は突如終わりを迎えます。ティルマン氏は脱税容疑で告発された直後に、ポルノサイトを運営していた企業を同社の上級管理職に就いていたFeras Antoon氏とDavid Tassillo氏に売却。その後、2人は企業の名称を「MindGeek」に変更し、現在のポルノ業界を席巻するMindGeekが誕生しています。なお、Financial TimesはAntoon氏とTassillo氏にコメントを求めたそうですが、回答は得られなかったそうです。
MindGeekは複数のポルノサイトを運営しており、それぞれのサイトが同じサービスを提供しているため、お互いがライバル関係にあると言えます。自社で競合サイトを複数作っていく手法について、MindGeekは「社内競争」と呼んでおり、「これがMindGeekがビジネスで最も強力なサイトを運営できる理由です。複数の無料サイトがすべて大量のトラフィックを抱えており、他のサイトに依存することなくサービスが成り立っている点が強みです」と語っています。
それでも、2018年までMindGeekはわずかな利益しか上げていませんでした。しかし、2018年には税引前の利益が3830万ドル(約40億円)に達しており、総売上は約5億ドル(約520億円)を記録。なお、MindGeekの内情に詳しいという情報筋によれば、Bergemar氏は同社の株式の大部分を保有しており、MindGeekのビジネスにおいて最大の利益を享受している人物であるとのこと。
MindGeekは対外向けには「世界最大のポルノサイトはXvideosである」と主張していますが、Financial Timesに情報を提供したMindGeekの元従業員の1人によると、「Pornhubは地球上で最もトラフィックの多いポルノサイトであり、それをクライアントに向けた売り込み要素として使っています。そうすることで、MindGeekは業界内で他のどのライバルよりも多くのお金を稼いできました」と語っています。また、ネットワークインテリジェンス企業・Sandvineの調査によると、Pornhubは世界最大のトラフィックを抱えるポルノサイトであり、次点にXvideosが位置しているとのことです。
そんなMindGeekも海賊版コンテンツを配信する他のポルノサイトとの戦いには苦戦しており、ライバルポルノサイトの運営者を「露骨な著作権侵害」と訴えることがしばしばあります。しかし、MindGeekは「削除申請しているポルノサイトの運営者を特定することはできない」ともコメントしており、ポルノ業界全体がMindGeekのように所有者などの情報を隠す傾向にあると説明しています。
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