アダルトサイトに「出演者の同意確認」を義務づける法案が提出される、セックスワーカーに悪影響が及ぶ懸念も
2020年12月4日、ニューヨーク・タイムズが「ポルノムービー共有サイトのPornhubには児童ポルノやリベンジポルノが多数投稿されている」と報じたことをきっかけに、Pornhubは決済サービスの停止やムービーの大量削除といった対応に追われました。新たにアメリカの議員がアダルトサイトに対し「出演者の同意確認」を義務づける法案を提出しましたが、「セックスワーカーへのリスクが大きい」という懸念の声も上がっています。
Merkley, Sasse Unveil Urgently Needed Legislation to Crack Down on Online Sexual Exploitation | U.S. Senator Jeff Merkley of Oregon
https://www.merkley.senate.gov/news/press-releases/merkley-sasse-unveil-urgently-needed-legislation-to-crack-down-on-online-sexual-exploitation
Pornhub squarely targeted in bipartisan bill to regulate sex work online | Ars Technica
https://arstechnica.com/tech-policy/2020/12/pornhub-squarely-targeted-in-bipartisan-bill-to-regulate-sex-work-online/
ジャーナリストのニコラス・クリストフ氏がニューヨーク・タイムズで発表したPornhubに関する記事は大きな反響を呼び、MastercardやVisaがPornhubの決済処理を停止するといった影響が及びました。Pornhubは未承認ユーザーによるムービーのアップロードやダウンロード機能の停止といった対策を発表したほか、未承認ユーザーがアップロードした1000万本以上のムービーが削除されたと報じられています。
世界最大のアダルトサイトPornhubが1000万本以上の「未認証ユーザーがアップロードしたムービー」を削除 - GIGAZINE
12月18日、アメリカの上院議員であるジェフ・マークリー氏とベン・サス氏が、「Stop Internet Sexual Exploitation Act(インターネットの性的搾取防止法)」の法案を提出したと発表しました。2人はこの法案について、「これは『Pornhubのようなウェブサイトにムービーや写真が出演者の同意なしにアップロードされている』という不穏なレポートに続く取り組みです。これは被害者を打ちのめし、トラウマを与えます」と述べ、オンラインの性的搾取と人身売買を防ぐ法律だと主張。
サス氏は、「人間の尊厳は大事です。正常な社会には性的搾取や人身売買と戦う義務があります。何年もの間、Pornhubと親会社のMindgeekはレイプ・虐待・児童の性的搾取を収益化してきました。スーツを着た人身売買業者が裕福になっていた間、被害者は痛みと恐怖を抱えて生きてきました」と、PornhubとMindgeekを名指しで非難しています。
「インターネットの性的搾取防止法」はポルノコンテンツを提供するプラットフォームに対し、ムービーをアップロードするユーザーの身元確認や、ムービーに出演する全ての人物の「署名入り同意書」を要求するとのこと。また、プラットフォームからムービーをダウンロードする機能を無効化することも義務づけています。
これに加えて、プラットフォームに対して「被害者がウェブサイト上からムービーを削除できるシステムの構築」「リクエストから2時間以内に削除対応が可能な24時間のホットラインの整備」「削除されたムービーの再アップロードをブロックするソフトウェアの導入」といった対策も今回の法案は要求しています。また、アメリカの司法省が「自分が出演しているムービーの投稿に同意しないことを表明した個人のデータベース」を作成し、プラットフォームがこのデータベースを参照してアップロードされるコンテンツをチェックする必要があるとのこと。
テクノロジー系メディアのArs Technicaは、社会として未成年者やセックスワークに同意していない人々の搾取を排除する必要があり、上院議員らが提出した法案は善意に基づいたものだと指摘。その一方で、セックスワーカーの擁護者たちが「法案の文言が曖昧であり、望んでセックスワークに従事している人々にリスクが及ぶ」と主張していることも報じています。
アダルトエンターテインメント系のライターであるAna Valens氏は、法案の対象が「一般のポルノ画像をホストし、利用できるようにするプラットフォーム」という曖昧な文言になっていると指摘。この定義にはPornhubのようなアダルトムービーサイトだけでなく、アダルトエンターテインメント産業の人々が使用するOnlyFansやPatreonなどのプラットフォームに加え、画像掲示板のRedditやTwitterなどのSNSも含まれる可能性があります。
法案に定められた要件全てを満たすには多額のコストが必要となるため、もしこれらのウェブサイトが規制の対象となった場合、ほとんどのウェブサイトは一律にアダルトコンテンツの投稿を禁止するかもしれません。そうなった場合、自らの意思で活動するセックスワーカーたちがOnlyFansやPatreonを追い出され、経済的な問題が発生する可能性もあるとのこと。
また、出演者の身元確認を必要とするという要件も出演者に悪影響を及ぼす可能性があるとValens氏は主張しています。データベースの「全てのプラットフォームでの投稿を許可するか、あるいは全ての投稿を拒否する」というシステムは柔軟性に乏しい上に、データベースを保持する全てのプラットフォームが個人情報をもらさないと信頼しなくてはなりません。
Valens氏はこれらの問題点から、新たな法案が「不可能な期待と基準を生み出す一方でオンラインでの性的搾取を解決せず、代わりにアダルトコンテンツの削除またはインディーズサイトの閉鎖を引き起こす」と結論づけています。
2018年にはオンライン上の性的人身売買を禁じる目的で「FOSTA-SESTA」法が制定され、オンライン上でセックスワーカーが広告を出して売春相手を募ることができなくなりました。これにより、自ら売春していた多くのセックスワーカーが「経済的な打撃を受けただけでなく身体的な危険も増えた」と主張しており、セックスワーカーたちは新たな法的規制を危険視しています。
議会にもセックスワーカーへの悪影響を懸念する声は存在しており、2019年12月にはFOSTA-SESTA法がセックスワーカーに及ぼした影響を調査することを求める法案が提出されました。法案を提出したアメリカ下院議員のロー・カンナ氏は、「セックスワーカーは有色人種の女性やトランスジェンダーが多く、私たちの社会で最も抑圧されています」と述べ、FOSTA-SESTA法が最も社会的に弱い人々をさらに傷つけている可能性があると主張しました。
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