サイエンス

南極の棚氷の3分の1は平均気温があと2.75度上がると崩壊する可能性がある

by O.V.E.R.V.I.E.W.

棚氷とは、陸地から海に突き出すように形成された氷のことを指します。南極には世界最大の棚氷であるロス棚氷を含めさまざまな棚氷が存在しますが、その3分の1が「地球の平均気温があと4度上昇すると崩壊を迎える」という研究結果が発表されました。

Surface melt and runoff on Antarctic ice shelves at 1.5°C, 2°C and 4°C of future warming - Gilbert - - Geophysical Research Letters - Wiley Online Library
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2020GL091733

Guest post: The fate of Antarctic ice shelves at 1.5C, 2C and 4C of warming | Carbon Brief
https://www.carbonbrief.org/guest-post-the-fate-of-antarctic-ice-shelves-at-1-5c-2c-and-4c-of-warming

南極が夏を迎えて気温が上昇すると、氷の表層が融解して水がクレバスに流れ込みますが、流れ込んだ水の量が一定を超え、それらが再び凍ることで圧力によりクレバスが押し広げられ、棚氷が崩壊する現象が発生します。このプロセスにより、1995年にラーセンA棚氷、2002年にラーセンB棚氷が崩壊しています。ラーセンB棚氷は1万2000年の歴史を持つとされ、その表面積は3275平方キロメートルだと推定されていました。

南極の棚氷は、雪が溶けるよりも早く雪が積もると成長し、反対に雪が溶ける量が降雪量を上回ると小さくなります。こういった表面の融解と降雪量のバランスは表面質量収支(SMB)と呼ばれ、棚氷の形成に深く関係しています。イギリスのレディング大学の気候科学者であるエラ・ギルバート氏は、地球の平均気温が産業革命以前の平均気温から1.5度、2度、4度上昇した際に、SMBがどのように変化して棚氷に影響するかをシミュレーションにより調査しました。その結果、1.5度および2度といった緩やかな気温上昇では、棚氷の融解は降雪によって補われる範囲に収まりますが、4度上昇した場合はSMBが崩れて融雪水が増加し、南極半島の棚氷の面積のうち34%、約50万平方キロメートルが崩壊するリスクがあることが示されました。


ギルバート氏が気温を産業革命前と比較した点については、気候変動抑制について定められたパリ協定の目的が「産業革命前からの世界の平均気温上昇を2度未満に抑える。加えて平均気温上昇1.5度未満を目指す」としていることが理由だと考えられます。なお、2021年に発表された、EUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」のデータによると、2020年の平均気温は産業革命前と比べて約1.25度上昇しているとのこと。ギルバート氏がシミュレーション結果を実際の融雪量と比較したところ、シミュレーションで割り出した数値の方がわずかに上回っていたとのことです。

また、ギルバート氏は「融雪がどの棚氷で発生するかということも重要です」と述べています。融雪が棚氷のわずかな範囲のみで発生した場合、崩壊が生じる可能性は低くなりますが、棚氷の大部分で発生した場合、崩壊の可能性が高まります。ギルバート氏は地理や構造の観点から、崩壊の可能性が高い棚氷はアボット棚氷シャクルトン棚氷などの6つであると推定しています。

棚氷は水に浮くため、棚氷が崩壊しても海面上昇には直結しません。しかし、棚氷は陸地の氷河形成と維持に大きく関わっており、棚氷がないと大陸の氷が海に流れ込みやすくなるため、海面上昇に間接的な影響を及ぼすことは確かです。ギルバート氏は「棚氷を維持することは世界的な海面上昇を抑えることを意味し、我々にとっても良い影響をもたらします」と述べています。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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