ファイザーの新型コロナワクチンの効果を規制当局が懸念していたことが明らかに
新型コロナウイルスワクチンの承認を得るために提出した書類に対して、イギリスの規制当局が懸念を示していたことが、イギリスの医学誌であるブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)の調査により明らかになっています。
The EMA covid-19 data leak, and what it tells us about mRNA instability | The BMJ
https://www.bmj.com/content/372/bmj.n627
2020年12月、欧州連合における医薬品関連の規制を行う欧州医薬品庁(EMA)が、アメリカの製薬大手であるファイザーとバイオテクノロジー企業・BioNTech SEが開発した新型コロナウイルスワクチン「BNT162b2」の分析を行っていました。しかし、このタイミングでEMAはハッカーからサイバー攻撃を受け、「BNT162b2」に関する情報の一部が流出。
医薬品の規制当局がサイバー攻撃を受けてファイザーの新型コロナワクチンの情報がリークされる - GIGAZINE
ハッカーがEMAから盗み出したデータは40GBもの膨大なデータで、これはダークウェブ上で公開されました。さらにその後、ハッカーがリークしたワクチンに関するデータが匿名のメールアドレス経由でメディアやジャーナリスト、世界中の学者たちに送り付けられたそうです。データの送信に使われたメールアドレスは匿名のものであったため、誰がデータを送ってきたのかは不明なままで、送り主とメッセージのやり取りを行うこともできなかった模様。
匿名の人物から送られてきた、「BNT162b2」のリークデータを調査したBMJは、EMAの科学者が「mRNAワクチンであるBNT162b2の市販版に含まれる、完全な(欠損のない)mRNAの量が予想外に少ない」と懸念していたことを発見します。
BMJによると、ファイザーが提出した「BNT162b2」に関する情報をレビューしていたEMAの科学者は、2020年11月23日付けに送信されたメールの中で、ワクチンの抱えるいくつかの問題点を挙げていた模様。具体的には、「BNT162b2」は臨床試験で用いられたものと市販版では、完全なmRNAの含有量が異なっていたとのこと。臨床試験版には78%の完全なmRNAが含まれていたのに対して、市販版では55%しか含まれていなかったそうです。
EMAの科学者はmRNAの含蓄量が減少することでワクチン効果にどのような変化が生じるのか「確信を持てない」と記しています。そのため、EMAはファイザーに対して2つの「主要な異議書」と、複数の質問をまとめた文書を提出しています。
なお、EMAは最終的に2020年12月21日付けで「BNT162b2」を承認しました。EMAが公開した評価報告書には、「BNT162b2」について「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの中で提出されたワクチンに関するデータは、十分に一貫して許容できるものです」と記していますが、リーク情報からはEMAが当初抱いていた懸念がどのように解決されたのか読み取ることは不可能だそうです。
ただし、BMJがアメリカの匿名の情報筋から入手した情報によると、EMAは「問題に対処する」というファイザーからのメールを受信していた模様。
EMAはハッカーのサイバー攻撃により流出したデータについて、本物であることを認めつつ「リークされた情報はすでに部分的に修正されている」と反論しています。
他にも、BMJは「リークされたデータはmRNAワクチンの品質保証に関する懸念を医学会に広めました。特に懸念されているのが、『RNAの不安定さ』です。『RNAの不安定さ』は、これまで臨床界隈でほとんど注目されてこなかったmRNAワクチンに関する、最も重要な変数のひとつと言えます。また、『RNAの不安定さ』はファイザーのワクチンだけでなくモデルナのワクチンやインペリアル・カレッジ・ロンドンが開発するワクチンにも関連する問題です」と記し、今回のリークによりRNAの不安定性に改めてスポットライトが当たったと指摘。
RNAはDNAと比べてはるかに反応しやすい、つまりは不安定であるという特徴を有しています。しかし、緻密に構成されたmRNAワクチンに含まれるRNAが輸送中に少しでも反応してしまうと、ワクチンとしての効力を著しく低下させてしまう可能性があります。そのため、mRNAワクチンはマイナス70度以下で保管する必要があり、これがワクチンの流通を遅らせる主要な問題となっています。
mRNAワクチンの供給には特殊な設備が必要になることは2020年の時点で報じられており、一部のメディアからは「物流にとっての悪夢となる」とまで指摘されていました。
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なお、BMJはmRNAの含有量に関する質問を製薬会社や規制当局に投げかけていますが、許容基準に関する詳細は機密情報であるとして、ほとんどの製薬会社や規制当局が返答を拒否しています。
ただし、EMAはワクチンの有効性について、「適切な量の無傷のmRNAに依存する」と認めており、リーク情報の中で懸念が示されていた市販版の「BNT162b2」について、「安全上のリスクを構築するには完全なmRNAの量が少なすぎた」と語っています。ただし、リーク以降にファイザーと協力し、問題は「十分に対処されました」とEMAは強調しています。
また、カナダ保健省もBMJに対してファイザーの「BNT162b2」の市販版について調査を行ったことを明かしており、「ワクチンの完全性が改善され、臨床試験版で見られたものと一致するようにプロセスに変更が加えられました」と述べています。つまり、EMAやカナダ保健省といった規制当局がファイザーワクチンのmRNA含有率を改善するために、協力してファイザー側に働きかけたことが明らかになったわけです。ただし、どの機関も商業的に機密であることを理由に、その他の詳細をBMJに共有することを拒否しています。
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