近世に製造されたドクロマーク入りのスプーンに込められた意味とは?
1904年、J.T.ミクルスウェイト氏というコレクターがロンドン考古協会に、柄尻に「ドクロの絵」が彫られた一見すると不気味な銀製のスプーンを持ち込みました。専門家が解き明かしたこのスプーンの逸話について、世界のさまざまな歴史や不思議をまとめるAtlas Obscuraが解説しています。
The Macabre Mystery of a British Family's Skull-Topped Spoons - Gastro Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/yorkshire-death-spoons
ミクルスウェイト氏が持ち込んだスプーンの柄の片方には「LIVE TO DIE(死ぬために生きる)」、もう片方には「DIE TO LIVE(生きるために死ぬ)」という文字が彫られていました。ミクルスウェイト氏はこのスプーンを「通常の食事用には向かない」と考え、葬式の贈り物だったのではないかと推測していました。
「銀のスプーン」というものは、近代以前の西洋社会において重要な意味を持っていました。銀の価値が希少だった時代、人々は銀食器を富と地位の代名詞として捉え、特に銀のスプーンは「継承された富」を表し、銀のスプーンを持っていることは「裕福な家柄の生まれである」ということ意味していました。
ミクルスウェイト氏が銀のスプーンを持ち込んでから数十年後、銀のスプーンの研究家であるデイヴィッド・コンステイブル氏は、ミクルスウェイト氏のスプーンを調べて銀の特徴から作成年と地域を割り出し、そのスプーンがイギリスの由緒ある家系「ストリックランド家」のものであると突き止めました。このスプーンは16世紀、ストリックランド家の当主であったウィリアム・ストリックランドに子どもが誕生した時、子どもの祖母であるフランシス・ストリックランドから、洗礼の贈り物として渡されたものだとコンステイブル氏は結論付けています。
「ドクロの絵から、葬式を連想するのも無理はありません」と、コンステイブル氏は自身の著書の中で述べています。新生児にドクロが彫られた銀のスプーンを贈ることは奇妙に思えるかもしれませんが、この時代洗礼や結婚式などで「死」に焦点を当てたものを贈ることは珍しくなかったとのこと。
例えば1560年に描かれた結婚式の絵をみると、死体のすぐそばで頭蓋骨に手を置く新婚夫婦が描かれています。歴史あるギルドホール「マーチャントアドベンチャーズホール」の博物館長であるローレン・マーシャル氏は「当時は長生きすることは難しく、死は常に人々にとって身近な存在でした」と語ります。「この時代は誰もが神を恐れ、教会へ足を運び、死ぬ時には神によって裁かれるという考えのもと、常に敬虔(けいけん)な生活を送っていました。また、頭蓋骨が常にそばにあるということは『死が常に間近に迫っている』ということを示し、今を最善に生きるというメッセージも込められていました」とマーシャル氏は続けます。
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ヨーロッパには、何不自由のない裕福な家庭に生まれたという意味を指す「born with a silver spoon in your mouth(銀のスプーンを口に入れて生まれた)」ということわざがあります。コンステイブル氏は「祖母が生まれた子の幸せを願い、さまざまな意味を込めて銀のスプーンを贈ったのでしょう」と述べています。
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