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言論の自由を取り巻く問題を解決する「プロトコルに基づいた仕組み」とは?


近年ではオンラインのプラットフォームにおける差別的、あるいは過激な発言の規制が叫ばれていますが、その一方で人々の「言論の自由」をどう守るのかという点が問題となっています。デジタル分野のメディア・Techdirtの設立者であるマイク・マズニック氏は、オンラインにおける言論の自由を取り巻く問題を解決するため、「プラットフォームではなくプロトコル」に基づいた仕組み作りを提案しています。

Protocols, Not Platforms: A Technological Approach to Free Speech | Knight First Amendment Institute
https://knightcolumbia.org/content/protocols-not-platforms-a-technological-approach-to-free-speech

マズニック氏は、かつてのソーシャルメディアは「より多くの言論を可能にしてアイデアの市場を改善するもの」と期待されていたものの、過去数年間でソーシャルメディアへの見方は劇的に変化したと指摘。「ソーシャルメディアがヘイトや差別の温床になっている」や「プラットフォームが言論を過剰に厳しく取り締まり、実質的に言論が検閲が行われている」などの不満の声が上がっています。また、SNSを運営する企業がユーザーの情報を収集しており、プライバシーの面でも懸念されています。


多くのソーシャルメディア運営企業はコンテンツの監視を強化するため、より多くのモデレーターを雇ったり、機械学習的なコンテンツフィルターを改善したりしています。ところが、マズニック氏によると、これらの対策は多くの場合うまく機能せず、根本的な問題解決には至らない上に、新たな問題まで引き起こしてしまうとのこと。そこでマズニック氏は、オンラインにおけるヘイトや誤情報による悪影響を最小限に抑える一方で言論の自由を守り、さらにプライバシー関連の問題まで解決するアプローチとして、「プラットフォームではなくプロトコルを構築する」ことを提案しています。

マズニック氏が言う「プロトコル」とは、電子メールをやり取りする際に使われるSMTP、クライアント間のチャットで使用されるIRC、ネットニュースの投稿・購読に用いられるNNTP、ブラウザからウェブサイトにアクセスするために使われるHTTPといったものを指します。企業や個人はこれらのプロトコルを利用することで、互換性を持ったさまざまなサービスを構築することが可能です。


初期のインターネットは一連のプロトコルによって支配されていたものの、ユーザーにとって使いやすいインターフェースが少ないという問題を抱えていました。たとえば、NNTPによって提供されるUsenetは、海外掲示板のRedditと非常によく似たシステムとなっています。ところがUsenetは初心者にとってアクセスが困難だった上に、単一の企業によって制御されるRedditと比較して柔軟性に欠けていたこともあり、記事作成時点ではほとんど使われていません。

近年ではFacebook・Twitter・YouTube・Redditなどが台頭し、プロトコルベースのシステムは単一の企業が運営するプラットフォームへと置き換えられてきました。プラットフォームとしてサービスを提供することで運営企業はユーザーの情報を収集し、広告を介して収益化することが容易になりましたが、その一方でユーザーデータの保護に関する懸念が提起されています。

さらに、プラットフォームの運営者に対してコンテンツの監視を求める圧力も高まっており、運営企業にとって頭痛の種となっています。有害なコンテンツを削除すべきとの意見に従ってコンテンツの監視を強化すれば、削除されたコンテンツを共有したい一部のユーザーからは「厳しすぎる」という反発が生じます。そのため、全てのユーザーがコンテンツの監視に満足する日が来るかどうかは不明であり、すぐに改善される見込みはほとんどないとのこと。


ソーシャルメディアに関する問題を最小限に抑える解決策としてマズニック氏が提唱するのは、「さまざまな種類のオンラインプラットフォームに共通するプロトコルを導入し、それぞれの企業はプロトコルに基づいたインターフェースを開発・提供する」という仕組みです。共通のプロトコルは「ソーシャルネットワークプロトコル」とでも言うべきものであり、基盤となるプロトコルでやり取りされる全てのコンテンツや参加するユーザーアカウントに対し、各企業が提供するインターフェースを使用してアクセス可能です。この仕組みにより、ユーザーがあるインターフェースから別のインターフェースに切り替えることが容易となります。

マズニック氏が主張するようなプロトコルに基づいたインターフェースのエコシステムは、すでに電子メールの分野で見られるとのこと。電子メールはSMTPやPOP3IMAPといったプロトコルに基づいて構築されており、Yahoo!メールOutlook.comGmailといった多様なクライアントが存在します。

各クライアントは共通のプロトコルに基づいて構築されており、非常に高い互換性を持っています。GmailのインターフェースでGmail以外のメールアドレスを使用したり、OutlookでGmailアカウントを使用したりすることが可能なため、ユーザーは簡単に別のクライアントに切り替えることが可能です。マズニック氏はこのようにインターフェース同士の互換性がある状況を、ソーシャルメディアでも実現するよう提唱しています。

記事作成時点では、TwitterユーザーがFacebookへ移行しようとしても、Facebookに従来のアカウントで行った発言やフォロワーを引き継ぐことはできません。しかし、さまざまなソーシャルメディアのインターフェースを共通のプロトコルに基づいて構築することにより、ユーザーは特定のインターフェースから別のインターフェースへと簡単に移動することが可能です。


「共通のプロトコルに基づいたインターフェースを各企業が提供するシステム」を提唱する理由として、マズニック氏は「中央集権的なコンテンツのモデレーションには限界がある」という点を挙げています。プラットフォームごとに分割されている現在の状況では、1つのプラットフォームにおける「言論の自由」の基準は1つであり、参加する全てのユーザーがそれに従わなくてはなりません。この方式では、プラットフォームに参加する全ユーザーが満足できる合意を形成するのは不可能に近いといえます。

しかし、プロトコルに基づいたソーシャルメディアのシステムでは、明らかに犯罪に関わっているとわかるような極めて悪質な投稿以外はプロトコルの段階で弾かれません。その代わりに、投稿されたコンテンツをユーザーに届けるインターフェースごとに、さまざまな判断基準やフィルターを設けます。これにより、ユーザーは自分にとって適切なモデレーションを行うインターフェースを選択し、ベースとなるプロトコルで共有されるコンテンツを摂取することが可能になるとのこと。

たとえば熱心な陰謀論者のアカウントがあったとして、「A」というインターフェースはこのアカウントが投稿するコンテンツを排除し、「B」という別のインターフェースはコンテンツを許可するとします。陰謀論を見たくないユーザーは「A」のインターフェースを使用し、陰謀論に興味があるユーザーは「B」のインターフェースを利用するなど、個々のユーザーが自分に合った程度のモデレーションを享受できるというわけ。

また、中央集権的なプラットフォームから脱却することにより、ユーザーが自分のデータを制御しやすくなるというメリットもあります。マズニック氏は、ユーザーが自分のデータを暗号化したクラウドサーバーに保管し、インターフェースの要請に応じてデータを提供するシステムを提案しています。この方式であれば、「ユーザーデータをそれほど収集しないインターフェース」に優位性が生まれ、データ収集にどん欲になりすぎたインターフェースは排除されるとのこと。


マズニック氏はプロトコルに基づいた仕組みが多くの問題を解決に導くと考えていますが、そう簡単に既存のプラットフォームからの移行は進まないだろうとも指摘しています。たとえば、「プロトコルに基づいた仕組みはユーザーにとって複雑過ぎる」「既存のプラットフォームがすでに大きくなり過ぎている」「フィルターバブルエコーチャンバー現象が生じ、過激なユーザーが集まるインターフェースが形成される」といった問題をマズニック氏は挙げています。

しかしマズニック氏は、インターフェースの使いやすさはテクノロジーの発達で解消可能であり、モデレーションに多額のコストを費やしている既存のプラットフォームにも、プロトコルに基づいたインターフェースへの移行はメリットがあると指摘。また、すでにTwitterやFacebookから追放された過激な人々が集う場所は形成されており、そういったサービスが一般的な人々に影響を与えるほど大きく成長した事例はないとも述べています。

「プラットフォームではなくプロトコルへと移行することは、言論の自由に対する21世紀のアプローチです」「プロトコルは悪意がある人の影響を最小限に抑えつつも言論の自由が存在する、理想の場所につながる可能性があります」とマズニック氏は述べ、プロトコルに基づいた仕組み作りを真剣に検討するべきだと主張しました。

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in ネットサービス, Posted by log1h_ik

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