FacebookなどSNSを規制しようとする動きはアプローチがそもそも間違っている
FacebookなどSNSに対し、説明責任を求めたり、コンテンツ削除を義務づけるような法案が各国で検討されています。しかし、このような法案は電子商取引法に基づくものであり、メディアの独占や世論への影響を鑑みたものではない、とアムステルダム大学で情報学を研究するナタリ・ヘルバーガー氏は考えてます。ヘルバーガー氏は上記のような法律ではSNSが潜在的に持つ「意見の力」を逆に大きくしてしまい、民主主義が脅かされると警告しました。
Full article: The Political Power of Platforms: How Current Attempts to Regulate Misinformation Amplify Opinion Power
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/21670811.2020.1773888
2016年の大統領選を巡ってはロシアによる干渉の疑いがあり、この過程でFacebookにはアメリカの世論に溝を深めるための投稿が行われ、1億2600万人の目に触れたとされています。またミャンマーではFacebookがイスラム教系少数派・ロヒンギャの迫害に利用され、国連人権理事会が設置した国際調査団は「Facebookがミャンマー国内でロヒンギャへの差別意識が膨らむ温床となっている」と指摘しています。
テレビ局・出版社・新聞社などの伝統的なメディアは政治的な力を左右し、世論操作に利用されるとして言論統制の対象となってきました。しかし、Facebookは既存のメディアとは違って記事作成時点で「個々人が意見を発表するためのプラットフォーム」と見なされています。このため、アメリカやヨーロッパで検討されているSNS規制のアプローチは、Facebook・Twitter・Googleといったプラットフォームの力を押さえることができない可能性がある、とヘルバーガー氏は指摘します。
多くの国ではプラットフォームを規制する方法として「プラットフォームに追加の説明責任を課す」という方法を検討しています。このアプローチで、アメリカやヨーロッパ各国はプラットフォームにおける当局のコントロールを拡張しようとしており、プラットフォームを「多くの言論の統治者」という役割位置づけようとしているとのこと。
しかし、ヘルバーガー氏は、上記のようなアプローチが民主主義にとって潜在的に危険であると警告しています。
ドイツには「Meinungsmacht」(意見の力)という言葉があります。この言葉は、「個人あるいは世論の形成に影響するメディアの能力」と定義され、ドイツ連邦憲法裁判所によって作られました。意見の力は多元主義や民主主義と密接に関連しており、メディア・大衆・政治家が相互作用することから、世論生成においてメディアを「政治的アクター」としてみなす考え方です。メディアは「政治的プロセスに影響するもの」ではなく、それ自体が「政治的な力」とみなされます。
ヘルバーガー氏は、FacebookのようなSNSプラットフォームを「他者の意見の仲介者」ではなく、既存のメディアのように「それ自体が意見の力を持った政治的アクター」だとみなすべきだと考えています。
これまでにSNSが既存メディアのように世論の観点から議論されることはめったになく、依然として、電子商取引法の範囲内の、限られた説明責任しか求められません。フランス・イギリス・ベルギーなどにおける法的な取り組みは全て「プラットフォームが話し手なのではなく、そのユーザーが話し手」だという前提に立っています。SNSでも放送局よりも大きな政治力を発揮することは可能にも関わらず、SNSは典型的なメディアとは違った形で意見の力を行使するためこのようなアプローチとなっており、「意見の力」そのもののあり方を再考する必要があるとヘルバーガー氏は述べました。
実際に、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEO自身が2017年に「インド・インドネシア・ヨーロッパ・アメリカに至るまで、最近の世界中で行われた選挙では、Facebookのフォロワー数が最多の候補者が勝利するのを目にしてきました。1960年代にテレビが市民のコミュニケーションにおいて主要なメディアになったように、21世紀にはソーシャルメディアがその役割となっています」とつづっています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を受けて、政府とプラットフォームは「協調的関係」のシステムに移行しつつあるとのこと。政府は感染状況の把握や、戦略を練るためにデジタルプラットフォームを使っており、プラットフォームの力を受け入れています。政府がプラットフォームの力を相殺するのではなく、「ガバナンスを促進する」という方向に向かっているのは、このような状況を受けてだとみられます。ただ、これではプラットフォームの持つ意見の力を抑えるどころか大きくする可能性があるとのこと。
テレビや出版社、新聞社など、既存のメディアは権力や権力者が世論形成にどう影響するかを監視する「番犬」として、民主主義の中で力を持ったアクターだとみなされています。このため、多様なメディアを創設し、独占を防ぐべく、意見の力を散らすための法律が定められてきました。ソーシャルメディアは電子証取引法の範囲内で議論されていますが、その潜在的な世論力の観点からみると、一部のソーシャルメディアは説明責任を求めることに留まらず、より強い規制が必要であるとヘルバーガー氏は述べました。
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