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メモ

民主主義の弱点は「共通の政治的知識への攻撃」であるという指摘

by Magnus Franklin

民主政治で運営される国家においては、国家の意志決定権を持つ存在は国家を構成する国民そのものであり、これと対立するのが一個人または少数の一党派が強大な権力を握る独裁政治です。近年では国家のサイバーセキュリティに対する備えが重要視されていますが、研究者らは「民主主義への共通知識攻撃」と題した論文を発表し、「情報のセキュリティやサイバー攻撃だけではなく、人々の認識や知識に働きかける攻撃にも注意するべきだ」と警告しています。

Common-Knowledge Attacks on Democracy by Henry Farrell, Bruce Schneier :: SSRN
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3273111

Information Attacks against Democracies - Schneier on Security
https://www.schneier.com/blog/archives/2018/11/information_att.html

ジョージ・ワシントン大学の国際政治学者であるHenry Farrell氏とハーバード大学のバークマン・センターで特別研究員を務めるBruce Schneier氏は、情報セキュリティやインターネットによる攻撃が民主主義に与える影響を分析。そして、「人々が持つ政治への知識に対する攻撃」が民主主義を脅かす可能性があると指摘しました。

論文によると民主政治と独裁政治は異なる情報システムによって成り立っており、その違いによってどのような情報攻撃に脆弱であるのかが違ってくるとのこと。2人は論文の中で、国民が持つ政治に対する知識には2種類あるとしています。

1つは社会の人々が広く同意する情報であり、国家の支配者が誰であるか、その正当性はなんであるのか、どのようにして政府のメンバーが選出され運営されているのかといった「共通の政治的知識」と呼ばれる情報です。たとえ政府に対して不満を持っている人々であっても、この共通の政治的知識については広く同意するところであり、民主主義においては与党や選挙や投票に関する方法について多くの人々の知識が大まかに一致します。

もう1つが「競合する政治的知識」と呼ばれるもので、広義でいえば社会の人々がそれぞれに違った認識を抱いている部分です。具体的には、政府が現在の経済に対して果たすべき役割や行うべき対策、政府が取るべき税制のルールや政府による規制の範囲や規制自体の是非など、人によってさまざまな意見がある知識を指します。これら2つの異なる政治的知識に関して、民主政治と独裁政治ではそれぞれ異なるアプローチで解決しているとのこと。


民主政治では「競合する政治的知識」を解決するために多数決を用いており、異なる政党は自らの意見に多くの人を賛同させるために有権者を説得します。理想的に見れば民主主義は多くの人々の意見を吸い上げることが可能で、複雑な問題に対してさまざまな視点から解決方法を模索することができます。

一方で民主政治においては、「次に政権を取る政党が予測できない」という問題もあります。たとえば以前の与党がある課題について長期的な視野で問題解決に取り組んでいたとしても、次の政権によって百八十度課題に対する姿勢が転換してしまうこともあり得るとのこと。民主主義が十分に機能するためには、国民が民主主義の理念と運営される方法についてしっかりと理解していることが重要となります。

これに対して独裁政治では政権運営の主体が長期間変化しないため、政権の目標や政権の運営者といった情報は常に一定のままです。また、選挙の公平性や有効性といった部分に関する国民の知識を必要としないため、政権運営者は「競合する政治的知識」そのものを独占しようとします。民主政治では「共通の政治的知識」として知られている政権への支持率や、政権と異なる政治目的を持つ政党の作り方自体を、独裁政治は国民が手の届かない場所へ遠ざけようとするとSchneier氏は述べました。

この民主政治と独裁政治の「国民が持つ政治的知識」に対するアプローチの違いが、情報セキュリティが国家に与える影響に大きな違いを及ぼすとのこと。

by Michael Kappel

独裁政治においては政治的知識を独占して政権維持を図りますが、「実は政府に対して敵対している勢力がいる」といった外部からの情報攻撃に対して脆弱です。「政権への潜在的な敵対者が実は大勢いる」「国民からの支持は実のところそれほど高くない」「外国では自由な政党運営による民主政治が行われている」といった情報は、独裁政治へ大きなダメージを与えることになります。

たとえば2010年から発生した「アラブの春」の発端となったチュニジアでは、国民に対する政治的知識の統制が働いていました。誰もが公的に政府を支持するように要求され、政府への反発心は表面化せず、政府に敵対するグループの形成を妨げていたとのこと。しかし、インターネットやSNSの発達によって国民が横のつながりを持てるようになり、政府に対する不満が表面化すると一気に大きな活動へと変化しました。今ではアラブの春は沈静化しているものの、独裁的な政治体制を敷いている国々では、今でもインターネットやSNSによるオープンな情報が脅威となり得ます。

これと違って民主政治では、人々が持つ「共通の政治的知識」を揺さぶる情報攻撃に脆弱であるとのこと。選挙結果に不満がある人々は「選挙結果が不正に操作されている」という情報を信じやすくなり、世論調査で自身が支持する政党とは異なる政党が優勢な場合は、「調査結果は恣意的にゆがめられている」という情報に飛びつきたくなります。

民主政治がうまく機能するために重要なのは、政治が民主的に運営される前提である「共通の政治的知識」です。政治システムそのものへの信頼性が乏しくなれば、民主政治が繁栄するために必要な活発な議論は低迷し、政治体制そのものへの不信感が募ってしまうとのこと。

by Element5 Digital

オープンな情報流通は民主主義を加速させるツールになり得る一方、フェイクニュースの流布によって民主政治システムへの疑念を抱かせることで、民主主義の安定性を低下させるツールにもなり得ます。異なる政治体制がそれぞれどのような情報攻撃に脆弱なのかを理解することで、外部や内部による政治体制への攻撃に備えることができると論文では述べられています。

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in メモ, Posted by log1h_ik