生き物

サルは人間と同様に「もう回収できないコスト」につられて判断を誤ってしまう

by Darren Puttock

多くの場合、何かを得るためには資金や労力をつぎ込む必要があり、目的を達成すれば費やしたコスト以上のメリットが得られます。もしも「これ以上努力しても十分な利益が得られない」と理解した場合、これまでつぎ込んだコストの回収をあきらめて行為を中断することが正しい判断ですが、人はすでにつぎ込んでしまって回収できない埋没費用(サンクコスト)を気にして正しい判断が下せないことが多いもの。サンクコストを気にして判断を誤りがちな傾向は人間だけでなく、サルでも見られることが実験で確かめられました。

Capuchin and rhesus monkeys show sunk cost effects in a psychomotor task | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-020-77301-w

Delightful Study Finds Monkeys Hate Sunk Costs as Much as Humans Do
https://www.sciencealert.com/monkeys-also-struggle-to-let-tasks-go-that-they-ve-already-sunk-time-into

ある行為にコストをつぎ込み続けることが損失につながるにもかかわらず、すでにつぎ込んだコストを惜しんで撤退できない現象はコンコルド効果と呼ばれます。この名称は、かつて開発されたものの採算ラインに届くことなく生産中止となった超音速旅客機「コンコルド」にちなんだもの。コンコルドは開発中から採算ラインに乗らない見通しがあったにもかかわらず、多額の資金を費やして開発されていたためにプロジェクトを中断できず、結果的に多くの損失を出したといわれています。

サンクコストにつられてしまい、結果的に損をする行為を続けてしまう現象は人間関係やゲーム、仕事などのさまざまな場面で発生します。アメリカ・ジョージア州立大学の研究チームは、この現象がオマキザルアカゲザルでも見られるのかどうかを調べるために実験を行いました。研究チームはこの実験で、サルに「ジョイスティックでカーソルを動かしてコンピューター画面上の円を追跡する」というタスクを与えたとのこと。

実験の概略図は以下の通り。円は画面上にランダムで配置されており、ジョイスティックでカーソルを操作して円の中に入れると、円が直線的な動きで画面上を移動し始めます。カーソルを円の動きに合わせて移動させて、円の中からはみ出さずに一定時間が経過すればサルは報酬(おやつ)を受け取ることができ、カーソルが円からはみ出れば失敗となって次の試行が始まります。各試行が続く時間は1秒間・5秒間・7秒間の3パターン存在し、1セット(24回)のうち12回が1秒間、6回が5秒間、6回が7秒間の試行となっていました。また、サルは試行を通じて背景色が変わらない「色の信号がないグループ」と、円が動き出してから1秒が経過すると画面の色がライトグレーに、5秒が経過するとダークグレーに変化する「色の信号があるグループ」に分けられていました。


以上の実験では、円を追跡し始めてから1秒後に報酬が受け取れなかった場合、さらに4秒または6秒にわたり追跡し続けなければ報酬がもらえません。サルにとって1秒は非常に長い時間であるため、最も短時間で報酬を受け取る方法は、追跡から1秒以上が経過しても報酬が得られなかった場合は試行を即座に中断して次の試行に移ることでした。

しかし、数日間にわたってサルが行った80セット(1920回)の試行を分析したところ、サルはたとえ試行を中断した方が効率的な場合でも、報酬がもらえるまで試行を続ける傾向がありました。背景の色が秒数に応じて変化して秒数の経過に気づきやすい場合でも、サルはすでにつぎ込んだ時間に引っ張られて試行を続ける傾向があったそうです。

研究チームのSarah Brosnan氏は、「サルたちは最適な時間よりも5~7倍長く試行を続けました。サルがすでに試行につぎ込んだ時間が長ければ長いほど、サルは試行を最後まで完了する可能性が高くなりました」と述べました。

by Michael Ransburg

サンクコストの影響で判断を誤る傾向がみられるのはサルだけでなく、ハトネズミでも確認されています。このことから、研究チームはコンコルド効果が人間に特有のものではなく、多くの種と共通するものだと考えています。コンコルド効果は「自分の行動を合理化する」「周囲の評判を気にする」といった人間工学的な要因によって生じると考えられていましたが、動物でも同じ結果が得られたことから、より本能的な部分に基づいている可能性があるとのこと。

もちろん忍耐は野生動物が食物を探したり、卵がふ化するのを待ったり、巣を作ったりする場面においては忍耐が報われる可能性があり、「中断しない」という判断が必ずしも悪手というわけではありません。さらに人間の場合は他の動物よりも知的であるため、行為の最中に「最後までやり遂げても割に合わない」と気づきやすい存在でもあります。

Brosnan氏は、「私たちは挑戦し続ける傾向があり、物事に固執しすぎていると気づいた場合には少し反省するべきです。挑戦し続ける正当な理由がありますか?それとも長期的な利益を考えて、報酬を得ずにあきらめるべきでしょうか?これは本当に難問ですが、上手に認知能力を使えば、サンクコストの感情的な心痛を克服することができます」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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