サイエンス

人間は「何が最適の決断なのか」を知っていても直近の結果に引っぱられて誤った決断を下してしまう


何かの決断を下す必要に迫られた時、人は自分が持っている知識に基づいて最適な決断を下すものと思われがちです。しかし、オハイオ州立大学で社会科学や心理学を研究するIan Krajbich准教授は、「どの決断が最も成功に近づくのかを理解していても、人は誤った決断を下してしまうことがある」との研究結果を発表しました。

Mouse tracking reveals structure knowledge in the absence of model-based choice | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-020-15696-w

People may know the best decision—and not make it: study
https://medicalxpress.com/news/2020-04-people-decisionand.html


人々が何か間違った決断を下してしまった時、多くの人はその理由を「正しい決断を下すための十分な知識がなかったからだ」と考えます。しかしKrajbich氏は、たとえ「最も上手くいく可能性が高い決断」を知っていても、人々は直感や習慣、最後に上手くいった経験に頼って決断を下してしまうとのこと。

人が決断を下す際の心理について研究するため、Krajbich氏と元大学院生のArkady Konovalov氏は被験者らにコンピューターを用いたゲームをプレイしてもらい、結果に応じて報酬を与える実験を行いました。

ゲームに参加する被験者は、まず最初に画面の上部に表示された2つの図形のうち片方をマウスでクリックします。その後マウスカーソルを画面の下側に動かし、カーソルが画面下部に引かれた見えない線を越えると上部に表示された図形が消え、代わりに画面の左下または右下に別の図形が表示されます。画面下部に表示された図形をクリックすると被験者は報酬をもらうことができ、報酬獲得後にカーソルを画面上部に移動させて見えない線を越えることで、再び2つの図形が画面上部に表示されて次の試行に移る仕組みだったとのこと。


図形の表示には一定のパターンがあったそうで、被験者が動かしたマウスの軌跡をトラッキングした結果から、被験者のうち57人中56人は図形表示のパターンをしっかり学習したことが確認されました。つまり、上部の図形をクリックしてから、学習したパターンに基づいて次の図形が表示されるであろう位置に向かってマウスカーソルを動かし、効率的に報酬を得ようとする動きが見られたそうです。

しかし研究チームは10~40%の確率で、パターンを外れた場所に画面下部の図形が表示されるようにゲームをデザインしていました。そして、たまたまパターンを外れた場所に図形が表示された後の試行では、被験者がこれまで学習してきたパターンに従わず、図形がどちらに表示されてもいいように画面の中間あたりに向かってカーソルを動かすか、あるいは学習したはずのパターンと逆の方向にカーソルを動かす割合が高かったとのこと。

パターン外の場所に図形が表示される可能性は全体から見ればそれほど高くないため、被験者にとって最善の方法は前回の試行に引っぱられず、常に学習したパターンに従ってマウスを動かすことでした。ところが、たまたま前回の試行でパターン外の結果が出たことに引っぱられ、被験者は最善のパターンを選択できなかったと研究チームは指摘しています。「私たちの調査では、人々は最も上手くいく方法を知っていました。ただ、彼らはその知識を使わなかったのです」と、Krajbich氏は述べました。


Krajbich氏は今回の研究結果を、現実的なシチュエーションに当てはめて説明しています。たとえば「A」という人物にとって職場から自宅に帰る時の最短ルートが、「メインストリート」を通る道だということが明らかだったとします。しかしある日、たまたまイベントと重なってメインストリートが渋滞していたため、Aは別の「スプルースストリート」を利用して、普段よりもほんの少し早く帰宅することができました。

翌日、Aという人物はメインストリートを利用して帰るのか、それともスプルースストリートを利用して帰るのかという問いに対し、Krajbich氏は「たまたま昨日上手くいった経験を元に、スプルースストリートを利用して帰る可能性が高い」と回答。統計的にはメインストリートを使った方が早く帰ることができるとわかっているにもかかわらず、昨日の経験に引っぱられて「正しくない決断」を下す割合が高いとのこと。「統計的に見てあなたが選ぶべき決断と、直近で上手くいった決断との間には緊張関係があります」と、Krajbich氏は述べています。

「決断の結果だけに基づいて、自分が下した決断がよかったか悪かったかを判断するのは難しいかもしれません。よい決断を下したのに運悪く結果が振るわないこともあれば、悪い決断を下したのにたまたま上手くいくこともあります」とKrajbich氏はコメント。最善の決断に従うメリットが必ずしも明白ではなく、成功率の差がわずかな場合は特に前回の結果に引っぱられやすく、持っている知識を活用しない可能性が高いと指摘しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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