サイエンス

「落ち着きがない」といったADHD的な特徴がある人はそうではない人よりも狩猟生活の面で優れている可能性


注意を持続させることが困難だったり、順序立てて行動することが困難だったりといった特徴が現れる「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」は、精神医学的に障害の一種とされています。しかし、ペニンシュラ大学の神経科学者であるデビッド・バラック氏らの研究チームが、狩猟によって食料を得るような環境に置かれた際には、ADHD患者がそうではない人々よりも優れたパフォーマンスを発揮する可能性を提示しています。

Attention deficits linked with proclivity to explore while foraging | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://royalsocietypublishing.org/doi/abs/10.1098/rspb.2022.2584


ADHD may have evolved to help foragers know when to cut their losses | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2418114-adhd-may-have-evolved-to-help-foragers-know-when-to-cut-their-losses/

Celebrating Neurodiversity: Study Showcases a New Perspective on The Evolutionary Advantage of ADHD | Humans
https://vocal.media/humans/celebrating-neurodiversity-study-showcases-a-new-perspective-on-the-evolutionary-advantage-of-adhd

ADHD患者はそうではない人々に比べ、衝動的な行動を取ったり、集中力が持続しにくかったりといった特徴があります。ADHDを発症する要因はこれまで完全に解明されていませんが、一般的にADHDは家族単位で発症する傾向があるとされています。


これを探求するために、バラック氏らの研究チームは506人の被験者に対し、食料を集めるオンラインゲームをプレイさせました。その際各プレイヤーには茂みの上にカーソルを置いて、8分間でできるだけ多くのベリーを集めよという指示が与えられました。

被験者には8分間同じ茂みにとどまるか、別の茂みに移動して「より多くのベリーを集められるかもしれない」という賭けに出るかという選択肢が提示されました。なお同じ茂みで収穫するたびにベリーの収穫量は減少していきます。一方で新しい茂みへと移動する際には短いタイムラグが生じるため、プレイヤーは移動してより多くのベリーを入手できるかもしれないという利点と、移動によって失われる時間のバランスをとる必要があります。

なお、研究チームはゲームをプレイさせる前に各プレイヤーに対し「集中力が長続きしないほうか」「落ち着きがないと言われたことがあるか」などのADHDの症状があるかについてのアンケートを回答させています。


調査の結果、ADHDの傾向がある被験者は、傾向がない被験者に比べて、特定の茂みの上にカーソルを置いている時間が約4秒短いことが判明。最終的に集めたベリーの数はADHDの傾向がない被験者が平均521個だったのに対し、ADHD傾向がある被験者では平均602個に上りました。

バラック氏は「人間や他の類人猿は非常に賢い採餌者ですが、多くの動物と同様に、同じ畑や狩り場にとどまって乱獲してしまう傾向があります。そのため、早めに移動するなどの行動を取ることは、乱獲を減らすことができる点で有益だと言えます。衝動的な行動を取るなどのADHDの症状はその点で優れている可能性があります」と述べています。

またバラック氏は「今回の研究結果は、初期の狩猟採集民のコミュニティが直面していた、食料やその他の資源が不足してしまうという問題によってADHDという特徴が生まれた可能性を示唆しています」と語りました。

科学技術が発展した現代では、狩猟採集を行うことは一部の民族を除いてほとんどなくなりました。しかし、今回実験で使われたような意志決プロセスが発生する状況はいまだに存在しています。バラック氏は試験勉強を例に挙げ「試験勉強をしている人は1つのリソースから知識を得ようとしますが、そのリソースがトピックの理解に役立たない場合もあります。そこでADHD傾向がある人はすぐに別のリソースに切り替えることができ、より効率的な勉強ができるかもしれません」と報告しました。


ワシントン大学の神経科学者であるダン・アイゼンバーグ氏は「ADHDに関連する行動が過去の環境内でどのように適応していたかを正確に判断することは困難ですが、今回の調査結果は、ADHD的特徴のある人とない人が採用する採集戦略に明確な違いがあることを示しています」と称賛しました。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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