現代でも続いている「馬の瀉血治療」とは?
瀉血(しゃけつ)は血液を外部に排出させるという治療法で、中世から18世紀までの欧米ではほとんど全ての病状に対して瀉血が有効な治療法だとされていました。モンゴルの遊牧民はヒトだけでなく馬に対して瀉血を行うという文化が存在し、21世紀の現代でも伝統として残り続けています。
BLOODLETTING IN MONGOLIA
https://press-files.anu.edu.au/downloads/press/n7034/html/05-bloodletting-in-mongolia/index.html
瀉血はおよそ18世紀頃まで一般的だった医療行為で、ほとんど全ての病状に対して瀉血を行うという医師すらも存在していました。現代では「瀉血には医療効果はない」と考えられており、瀉血を医療行為として認めている先進国は存在しませんが、モンゴルの遊牧民の間では今もなお瀉血の伝統が息づいています。モンゴルの遊牧民が馬に対して行う瀉血について学ぶため、人類学者のナターシャ・ファイン氏は現地での取材を行いました。
モンゴルの遊牧民の間で瀉血が行われるのは、特定の血管から「悪い血」を排出して気息・胆汁・痰のバランスを整えることが目的で、瀉血の他にも薬草やお灸、マッサージ、儀式などでの治療が行われることもあります。馬に対する瀉血は、牧草が芽吹く暖かい時期である5月下旬から7月中旬にかけて行われるのが通例で、ファイン氏が取材した知識豊かな長老は「寒い日や雨の日は血液が濃く流れない状態になります。馬に瀉血を行うのは、馬にとって縁起のいい日だけです」と語っています。
瀉血を行うのは、「よくつまずく馬」や「毛並みが悪い馬」などの調子を崩している馬が主。こうした馬は両足に悪い血が溜まっていると考えられ、ナイフで足を軽く切ってからマッサージを行って悪い血を排出します。
取材を受けた施術担当者は、瀉血を行わなかった場合、どれだけ飼料を与えても馬の脂肪や筋肉は増えず、瀉血後は1カ月ほどで回復するだろうとコメントしたそうです。
足だけでなく、激しい乗馬や鞍(くら)の配置が良くなかった際にできるケガの治療にも瀉血は用いられます。施術者によると、馬の上半身と肩甲骨の間に存在する血管を見つけるのは困難で、肩の奥深くまでナイフを差し込む必要があるとのこと。
また、瀉血は調子を崩した馬に行われるだけでなく、調子を崩す前の予防としても行われています。ファイン氏が取材を行ったレースに出場する予定の馬は、口蓋に対する瀉血が15日間隔で何度か行われる予定で、施術者は「春を通して肉付きが良く、強かった馬だけを瀉血します」と答えています。
ファイン氏は、モンゴルの遊牧民の中で瀉血は免疫力を維持し、強く健康になるために必要な技術だと見なされていると記しています。
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