インタビュー

「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」浜名孝行監督インタビュー、コロナ禍のもと制作はどう進められたのか?


2021年1月20日(水)から「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」の放送が順次始まります。本作は、秋田禎信さんのライトノベルを原作としていて、2020年冬に放送されたアニメの続編。2020年は全世界的に新型コロナウイルスが猛威を振るい、アニメ業界にも大きな影響を与えました。まさにその中での制作となった本作をどのように作っていったのか、作品スタッフの方々にいろいろな話をうかがってきました。

まずは監督、浜名孝行さんへのインタビューです。

TVアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」公式サイト
http://ssorphen-anime.com/

GIGAZINE(以下、G):
浜名監督には「魔術士オーフェンはぐれ旅」の第1期放送時に一度インタビューを実施しています。第1期は2020年1月~3月の放送で、新型コロナウイルスの影響を受けることなく、無事に放送が行われましたが、第2期・キムラック編は制作がちょうど影響を受ける形となりました。現場では、どういった影響が出ていますか?

浜名孝行監督(以下、浜名):
アフレコの遅れですね。予定より2~3カ月くらい伸びたりしました。なのでその間、やれる仕事をどんどん進めていました。会社も少し仕事の形態が変わって自宅作業も多くなったのですが、ただ、仕事は止めないようにして、アフレコまでに期間が空いた数カ月の間に、絵の状態を少しずつ良くしていきました。アフレコと原画に関しては本当に良い状態になったので、そこは不幸中の幸いかなと。

G:
絵を描く部分においては、リモートのおかげでうまく進められた部分もあったのでしょうか?それとも、実際は集まってやるべき作業が多かったので、進捗に影響が出たりということもあったのでしょうか?

浜名:
打ち合わせはSkypeでできたんですけれど、描いたもの自体は「手描きの紙」で、それを工程に回していかなければいけないので、紙を取りに行ったりチェックしたりというのがありました。全工程がデジタルに移行しているわけではなく、デジタルで描いたものを紙に起こしてアニメを作っている状態なので、できるところとできないところがありましたね。


G:
浜名監督個人としては、「リモートのおかげで進んだ」や、反対に「リモートだから進まなかった」ということはありましたか?

浜名:
なるべく自宅で作業できるものは自宅でという感じでやっていて、「家でやったからはかどった」という部分はないかもしれませんが、会社へ移動する時間が必要なくなったおかげで、時間にちょっとだけ余裕が持てたという部分はあります。

G:
環境の違いは問題になりませんでしたか?

浜名:
うーん……それほどなかったですね。コンテであればPCで設定が見られる状態で、紙と鉛筆で描けるので。

G:
基本の環境さえそろえば、たとえ喫茶店などでも作業できるというような感じでしょうか。

浜名:
コンテに関してはそうです。ただ、「絵を描く」とかまでは難しいですね。今はタブレットがあるから、使える人ならそれこそ喫茶店でもできちゃうんでしょうけれど、僕はまだそういう人間ではないので。

G:
「魔術士オーフェンはぐれ旅」のアニメは、実は最初からキムラック編が制作されるという前提で進んでいたとうかがいました。近年は1クールのみという作品が多い中で、2クール分の制作をするというのは、負担が変わってくるものですか?

浜名:
シナリオとコンテは一気にがーっと止めずに進めましたが、作画はいったん休みを挟んでの制作になりました。話は一気に集中して作れて、一方で作画はリフレッシュできたので、間隔を空けられたのは良かったんじゃないかと思います。

G:
浜名監督は2クール以上の作品を複数手がけていますが、なにか、長い作品を制作するにあたって使えるテクニックを持っていたりするのでしょうか。

浜名:
いやいや、そんなことはないです(笑) この「魔術士オーフェンはぐれ旅」に関していえば、第1期とキムラック編では、作り方がかなり違っているんです。第1期は2話~3話で1つのエピソードになっているものが多かったのですが、キムラック編は話がずっと続いていくので、最初から見ていないと最後の方がわかりにくい、ちょっと難しい話になっています。長期展開のエピソードをやっていると、流れがワンパターンになってしまいがちですが、キムラック編の場合はいろいろな展開があり、制作の時間が空いたこともあって、新鮮な気持ちでやれています。

G:
第1期とキムラック編では作品としても毛色が異なるという感じでしょうか。

浜名:
そうですね。第1期では「プレ編」として回想を入れましたが、キムラック編は単発の話はどう考えても入れることが難しかったです。気持ちとしては、仲間の話も入れてみたかったですけれどね。ただ、オーフェンはオーフェンとして、ハードになった部分はありつつ、変わらずオーフェンらしい部分もあるので、いろんな「オーフェン」を期待していただきたいなと思います。

G:
このキムラック編では、第1期の「我が森に集え狼」に出てきたサルアも再登場することになると思います。第1期制作時に、サルアの見せ方についてどのような方針を立てられましたか?

浜名:
あんまり詳しく描いちゃうと後々面倒くさいことになるので「ちょっとふわっとさせとくとか」と。「我が森に集え狼」のシーンは結構肝になるものなので、初見の人は分からないかもしれないけれど、後々、「ここがこういう風になってたんだ」ということは入れています。

G:
キムラック編を見たときに、「第1期の描写が生きてきてるな」というのを感じられるようになっているんですね。

浜名:
そうですね。何回も見ると「実はそうだったんだ」っていうのが多いですね。

G:
監督は原作小説を読んで、最初のアザリーの話をぜひやりたいと考えたとのことでしたが、キムラック編まで制作を進めてみて、改めて良さを感じたキャラクターや、やってみて良かったシーンはありましたか?

浜名:
取りかかる前はシリアスに考えていた部分が多かったんですけど、作っていくうちにそうじゃない部分の楽しさが出てきました。クリーオウのキャラクターも、最初は「どう捉えたらいいのか?」という部分があったんですけど、「あの子はこんな子なんだ」みたいな面が自分の中で理解できるようになってからは結構楽しくやってますね。クリーオウはシリアスな場所でもマイペースで、場の空気を壊してしまうのも彼女の特徴で、それが本編にとって良い感じに作用してます。クリーオウやボルカン、ドーチン、マジクがいなかったらもっと暗くて重い話になってしまうところで、彼らがバランスを取ってくれているのかなと思います。

G:
確かに。

浜名:
キムラック編だと、サルアはキャラクターがすごく立っていて、ベテランの下妻由幸さんが演じているので、セリフは少なくても存在感があるというシーンが多く出てくると思います。また、途中でラニオットというキャラクターが出てきますが、こちらもかなり印象に残ります。1回見たら、たぶん忘れられないぐらいのキャラクターですよ。

G:
第1期もなかなかに印象的な感じでしたが……。

浜名:
第1期とは毛色の違うインパクトの強さだったり、牙の塔とは違うキムラックの中の重みや世界観がアニメにあるのかなと思います。クセのあるキャラクターが多いんですけど(笑)、いろんな要素があるので、新キャラともども楽しんでもらえると思います。

G:
今回、お話を伺うにあたって改めて第1期を通して見直しましたが、オーフェン一行は破天荒にワイワイガヤガヤと騒がしいですが、お話自体はアザリーを追うシリアスなストーリーが展開されました。キムラック編では、そのカラーがさらにシリアス寄りになるイメージですね。

浜名:
はい。全体的な話が重く、世界観の謎だったりキムラックの謎だったり、今まで知らなかった歴史の謎が解き明かされていきます。ただ、大河の歴史物みたいな要素もあるんですけど、主人公であるオーフェンを軸に進んでいくので「全然傾向の違うオーフェンになっちゃった」という感じではないですね。第1期では解消されなかった部分がキムラック編への伏線だったという部分もあるので、そのあたりを思い起こしていただくと楽しくなってくると思います。

G:
いよいよ、謎だった部分が明かされていくのは楽しみです。ちなみに、キムラック編の制作において「ここは力を入れている」という部分はありますか?

浜名:
オーフェン、アザリー、チャイルドマンという3人の関係はキムラック編でも変わらずに肝となっています。オーフェンが派手に魔術をぶちかましたりするだけではなく、心に重たいものを引きずっているというのを引き出したいなと思って作っています。

G:
なるほど、ありがとうございます。

ーーインタビューに続いて、会社のデスク周りを見せてもらいました。

G:
会社で作業しているところはこんな感じということですね。

浜名:
もうリモートになっちゃってて、PCとかは全部持って帰っているので、おおむね、という感じですが。


G:
会社のデスク周りに担当作品のフィギュアなどを飾る方もいますが、浜名監督はそういうのはもともと置いていなかったのでしょうか。

浜名:
そうですね、あとは資料とかが全部家にあるぐらいです。チェックはコンテと設定があればできますので。本に戻って確認するのは、オープニングや、新規で作らなければいけないものがあるとき、あとは「ここはキムラック編ではどうだったかな」と見返すとかですね。でも、そのあたりはプロデューサーの中田さんの方が詳しかったりして(笑)

G:
中田プロデューサーに聞いた方が早かったり(笑) ちょうど、めちゃくちゃいいカットが来てますね……オーフェンって決めるところではとにかくカッコいい絵が多い印象です。

浜名:
キムラック編ではまた第1期とは違う、いい感じのオーフェンになっていますよ。僕の印象としては、第1期よりも少し大人っぽくなった感じがあります。内容的なところもあるかもしれませんが、ハードになった分だけ、崩した顔も少なくなっていて、感慨深げなカットが多いような気がしますね。


G:
なるほど。第1期とは違ったオーフェンが楽しみです。本日は大変な状況の中、ありがとうございました。

「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」のスタッフの方々へのインタビューはまだまだ続きます。

『魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編』アニメ PV第1弾 - YouTube


<つづく>

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in インタビュー,   動画,   アニメ, Posted by logc_nt

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