インタビュー

25周年超えの原作をどうアニメ化したのか「魔術士オーフェンはぐれ旅」浜名孝行監督&シリーズ構成・吉田玲子さんにインタビュー


2020年1月から放送中のアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅」の原作は、1994年にスタートした小説。2003年に一度完結しましたが2011年から新装版が刊行され、さらに新シリーズが始まって2020年現在も続いています。これだけ息の長い作品に、クリエイターはいかに向き合って制作を行っていったのか、監督の浜名孝行さんとシリーズ構成の吉田玲子さんに話をうかがう機会があったので、いろいろな質問を直接ぶつけてきました。浜名監督は本作で特にアザリーのところは自身で手がけたいと熱望し「燃え尽きてもいい」と思ったことも明かしてくれました。

TVアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅」公式サイト
http://ssorphen-anime.com/

『魔術士オーフェンはぐれ旅』1月7日より絶賛放送中!さん (@orphen25_tv) / Twitter
https://twitter.com/orphen25_tv

Q:
まずは浜名監督が吉田さんに脚本を依頼した経緯から教えてください。

浜名孝行監督(以下、浜名):
この原作を読ませていただいたときに、キャラクターの心情や内容に難しい部分があったので、「ぜひ信頼できるライターさんにやっていただきたい」と思い、最初に浮かんだのが吉田さんでした。吉田さんとはずいぶん昔に一緒に仕事をしたことがあり、そのときから信頼できるライターさんだと思っていたので、今回、やっていただけてよかったです。

Q:
吉田さんは「魔術士オーフェン」はご存じでしたか?

吉田玲子さん(以下、吉田):
はい、作品名は存じ上げておりました。

Q:
その脚本依頼を受けて、いかがでしたか?

吉田:
ある種、リバイバルというか再アニメ化ということなので、「今これをやるとどうなるだろう」「今見てもらえる作品だろうか」ということを考えました。

Q:
脚本を書く上で、監督からこうして欲しいなどの要望はありましたか?

浜名:
このシリーズ自体が、原作重視でやりたいという話だったので、吉田さんだったらうまくまとめてもらえるんじゃないかと考えました。僕からはあまり何もなくて「よろしくお願いします」という感じでした(笑)

吉田:
私にお話があったということは、監督の意図として、アクション中心ということではなく、キャラクターの心情に見ている人がついていけるものに、ということだろうと思いましたので、そこを大切にしました。

GIGAZINE(以下、G):
監督から「原作重視で」というお話が出たように、今回、第1話から第3話が原作1巻「我が呼び声に応えよ獣」がベースで、第4話でプレ編のお話が入って、第5話からは「我が森に集え狼」……というような構成になっていますが、これはどのように決めていったのですか?

浜名:
「プレ編」については原作サイドから入れたいというお話をもらいました。あとは基本、どういうタイミングでどういうお話を入れるかはシリーズ構成の吉田さんにお任せだったと思います。シナリオ段階で「このお話だと難しいので、別の話にしようか」ということもありましたが、基本的には、吉田さんにうまく入れていただいたと思います。

G:
数あるプレ編の中からのエピソード選択は、吉田さんによるものですか?

吉田:
女性のプロデューサーさんがオーフェンの大ファンで「これ好きなんです」「この話は重要ですよ」ということを教えてもらいまして(笑)

G:
なるほど(笑)

吉田:
担当編集さんのご意見や読者の方の声を参考にしつつ、やっていきました。

Q:
話数としては放送が13話、プラス未放送話の全14話構成ということですが、その構成を決める会議の中で印象に残っていることはありますか?

浜名:
この長い話をどうまとめるか、1エピソードでも長いので2話にするか3話にするか、このブロックはありかなしかということを、1本の話として成立するように考えました。シナリオとしてみたときに間の話は楽しいかもしれないけれど、普通に見たときにはアクションが足りないかも、というのがあったりするので、足し算したり引き算したりしましたが、大きなところでは、最初に吉田さんがやったものから外れていないと思います。

Q:
吉田さんはいかがですか?

吉田:
オーフェンを描くにあたってはアザリーというのが重要な人物で、アザリーへの思い入れがわからないと、なぜこんなに追っかけているのかがわからないのではないかと思いました。その動機となる部分はプレ編の中で描かれていたので、途中でオーフェンのアザリーへの思いがわかるようなエピソードを入れていった、という感じです。


Q:
長いシリーズをまとめるということで、オリジナル要素の話も出たのではないかと思いますが、どうでしたか?

浜名:
プレ編と本編との接着部分がオリジナルのような感じですね。第2話でも、途中にプレ編の要素がちらっと入っていて、原作にもプレ編にもない部分がアニメオリジナル要素ということになると思います。この点は、吉田さんがうまくつないでくださっていると思います。あと、原作は最初、単発作品としてスタートしたという事情があり2巻以降と整合性の取れない部分があるので、原作から変えていこうという話はしました。

Q:
アザリーの名前が出ましたが、キャラクターの心情で吉田さんがこだわった、「このキャラクターは見せたい」という人物はいましたか?

吉田:
やはりチャイルドマンがキーになるなと。生きている形では最初しか出てこないんですが(笑)、チャイルドマンの意志、考えていたことがみんなを動かしていく。アザリーもそうだし、オーフェンもそうだし……魔法使いであり、不思議なミステリアスな人物であることを過不足なく描くことは注意しました。

G:
本ビジュアル解禁時につけられていた「時を取り戻す」というキャッチコピーに惹かれるものがあったのですが、これはどなたが考えたものなのですか?


ジェンコ宣伝担当:
これは宣伝のほうですね(笑)。25周年という時間を経た作品ということで、何か引きずっている人もいるだろうから、これで行きたいということになりました。

G:
なるほど(笑)。吉田さんが手がける作品では、いわゆる「メインキャラクター」の範疇に入るキャラがとても多い作品がいくつかあって、キャラへの目配りが大変だというお話を見かけました。本作だと「オーフェンご一行」としてはオーフェン、クリーオウ、マジクの3名ということで、その点はやりやすいものでしょうか?

吉田:
そうですね。ただ、過去の人間関係が複雑で、本人は出てこないというケースもあるので、そういったキャラクターの見せ方には苦労しました。アザリーとはところどころでしか接触しないですし、その他の人たちは、そもそも過去のものだったりもするので。

G:
なるほど、本人が出てこないからこその難しさがあると。ということは、本編からみれば過去のキャラクターたちが出てくるプレ編を織り交ぜることで、うまく描けたり、構成できたりというところもあるのでしょうか。

吉田:
たとえば、コミクロンは本編ではすぐ死んでしまうのですが(笑)


G:
(笑)

吉田:
人気があるキャラクターでもあるので、どう見せようかなと考えました。プレ編を入れることで、彼はどういう人物だったのか、そしてチャイルドマン教室がどういうものだったかを描いて、オーフェンの過去の部分をわかってもらえるようになったんじゃないかと思います。


G:
脚本上で、書きやすいキャラクターはいますか?

吉田:
腹に一物を持ってないキャラクターの方が書きやすいですね。シンプルなので。その点で、魔術士組は思っていることをストレートに言わないですから、言い過ぎないように、かつ言わな過ぎないようにと配慮しました。クリーオウのように、考えていることと言っていることが一緒のほうが書きやすいですが、人間の膨らみとしては、裏表ある方が面白いですよね。


G:
そのクリーオウを演じた大久保瑠美さんは作品の大ファンだとのこと。一方で、森久保祥太郎さんはオーフェン役になって20年というキャリアの持ち主です。そういったキャストのそろうアフレコ現場というのは、どのような雰囲気なのですか?

浜名:
すごく良く、うまく演じてもらったように思います。アザリーなんかは芝居としてはすごく難しいキャラクターだったと思いますが、みなさん、うまい役者さんばかりですから。緊張してガチガチになってしまうと作品がつまらなくなってしまいますが、森久保さんがいることで、安心して演じていただいたように思います。

G:
監督から「ここはこうだよ」と指導する必要もなく。

浜名:
僕は安心して見ていました。音響監督の平光琢也さんとも長くやっているので、不安な要素はなかったですね。

G:
そういえば、吉田さんへは浜名監督から声をかけたとのことですが、浜名監督がこの作品に参加することになった流れはどういったものでしたか?

浜名:
スタジオディーンのプロデューサーの方からこういう企画があると話をいただき、原作を読んで面白かったのでぜひ、と。

G:
原作を読んでの感触はいかがでしたか?

浜名:
とても面白くて、これはやりたいなと。特に最初のアザリーのお話は全部やりたいなと思いました。

G:
アニメ化にあたって原作者である秋田禎信さんにインタビューを実施した際、秋田さんは「若い頃の作品なのでおかしなところも多々ある」と言っていました。さきほど、監督からも、当初は続き物として書かれたわけではなかったので齟齬もあるという話がありましたが、なにか「この機に、ここはこのように修正して欲しい」といった要望はありましたか?

浜名:
最初に秋田先生から「原作で整合性が取れていない部分があるので、こうした方がいいんじゃないか」というメモ書きをいただきました。ただ、「単発作品として書かれたからこその良さ」というのもあるので「整合性は取れなくなるけれども、この方が」という部分については残す方向で原作サイドからOKをいただき、吉田さんにまとめていただきました。

G:
「整合性としては提案の通りでも、面白さはこの方が」と。

吉田:
20年前の作品なので「振り返ってみるとこうしたかった、ああしたかった」というのがおありなのだなと。まさか、秋田先生も時を取り戻したいのだとは思わなかったです。

(一同笑)

吉田:
いただいた案はシリアスに寄ったものだったのですが、はじめの「弾け具合」みたいなものもオーフェンの魅力ですから。過去に発表されたオーフェンをみなさん愛しているだろうし、プロデューサーも「このオーフェンをやりたい」と考えたと思いましたので、そこを大事にしました。

G:
吉田さんは、シナリオセンターの後輩たちに向けたメッセージとして色紙に「愛情と情熱が何かを生み出す…と信じています」と書かれたことがあります。本作ではどういったところに愛を注がれましたか?

吉田:
やはり、キャラクターたちですかね。どうしてこういった行動をするのか、作り手が理解し、キャラクターに寄り添っていくことで整理するところが見えてくるのではないかと。

G:
今回アニメを拝見していて「おおっ」と思ったのは、浜名監督が自ら第1話・第2話・第3話の絵コンテを担当されていたことです。昨今、第1話から監督以外の方が絵コンテを切っている事例も多いので、ちょっと珍しいなと。これは、先ほどおっしゃっていた「アザリーのところはぜひやりたい」という思いからですか?

浜名:
そうですね。「それで燃え尽きてもいい」というぐらい(笑)


(一同笑)

浜名:
スケジュール的にもちょっと余裕があったので、少なくとも第1話と第3話はやらせて欲しいとお願いしました。

G:
第1話では、原画のところにも監督の名前がありました。

浜名:
原画はそんな大したところはやっていないと思います。お手伝い程度です。

G:
原画についても、第1話は参加したい、という思いからですか?

浜名:
たぶん、僕がやったほうが早そうだなとかそういう話で、深い意味はないです(笑)。この作品のことをわかっているから、自分でやれば楽だというのもあったかもしれないですね(笑)

G:
今回、キャラクターデザインは吉田隆彦さんが手がけられています。アニメのキャラクターデザインは「動かす」ということを前提にするので、原作とは異なるテイストになる事例がよくありますが、この作品では、原作イラストを担当している草河遊也さんの絵柄にかなり似せている印象があります。これも「原作を重視したものに」という考えによるものですか?

草河さんの手による、2019年1月刊行の「魔術士オーフェンはぐれ旅 プレ編1」表紙


アニメ本編中のオーフェン


浜名:
デザインした吉田さんの意図が大きいですね。僕はアニメに寄っている人間ですから、動かしやすかったり、キャラ崩れしないデザインの方がいいと思うのですが、草河さんのデザインの、絵によってニュアンスが違う部分を、吉田さんは意識してデザインしていました。吉田さんが「草河さんの絵」を好きだということもありますね。

G:
草河さんの絵は、「アニメの絵」として考えたときには、決して動かしやすい方ではないデザインなのでしょうか。

浜名:
そうですね……。草河さんに寄せた絵は、1枚絵として見たときにはとてもインパクトがあるものですが、並べて見るとニュアンスが変わって見えるところもありました。なので、「原作には似ているけれど直してもらう」という部分もありました。

G:
アニメを見ていて「草河さんの絵っぽいな」と感じるのであれば、それは吉田隆彦さんの狙いに見事にハマっているということですね。

浜名:
そういうことです。

G:
絵の話の流れで、魔法陣についても伺いたいと思います。PV第1弾で魔法陣がとてもカラフルに、そして美麗なものとして描かれていました。今回、スタッフとして「魔術デザイン」や「テクスチャーデザイン」、「魔術カラーデザイン」といった役職が設けられていますが、どのように生み出したのですか?

「魔術士オーフェンはぐれ旅」アニメPV第1弾 - YouTube


浜名:
ディーンが用意してくださったスタッフの方と「魔法陣はこういう感じにしたい」と何度か打ち合わせをして作っていきました。

G:
曼荼羅風にするのは監督から出した案ですか?

浜名:
僕と、中田くんというプロデューサーで「そういう感じでどうかな」と決めました。デザイン自体はデザイナーの方にやっていただきました。最初はもっとシンプルなものだったのですが、見栄えのする方向にしてもらって、何度かテストして今の形になったんだったと思います。


G:
「魔術士オーフェンはぐれ旅」からはちょっと離れるのですが、吉田さんは、脚本の執筆にはどういうツールを用いているのですか?

吉田:
どういうといっても(笑)、ごく普通にWordを使っています。

G:
Wordなんですか!てっきり、こだわりのエディターがあったりするのだろうかと。

吉田:
O's Editorとかですね?

G:
そうです、吉田さんも何かあるかもしれないと思いまして。Wordで、自分用にガチガチに設定していたりするのですか?

吉田:
他のライターさんのひな形が使いやすかったので、それをそのまま使わせていただいてます。

(一同笑)

G:
「弘法筆を選ばず」ですね……。仕事をする場所も選ばず、でしょうか?

吉田:
いえ、仕事はだいたい仕事場のみです。だから、ときどき「もうこの空間にはいたくない」って思うこともあります(笑)。でも、圧迫されないと書けないというか、抑圧されないと集中できない感じで。

G:
締め切りに間に合わせるためになんとかするためのテクニックなどはありますか?

吉田:
仕事の計画を、2週間に1回ぐらいまとめます。「今日はここまで書けるかな」って、学習予定表みたいな(笑)

G:
「この日までにあの作品の第何話の脚本を書く」と。

吉田:
それでずれたら修正していきます

G:
「過ぎたら死!」みたいなものではないわけですね(笑)。ちなみに、書くにあたっては、もうPCに向かって「書くぞ!」しかないですか?

吉田:
書いていて、集中するまでは時間がかかりますね。ついついほかのサイトを見てしまったり(笑)。でも、「今日は3行しか書けなくても、ずっとPCの前にいるのが大事」って。夜、「今日は3行しか書けなかったな。3ページ目までしか進まなかったな」と後悔しながら寝ることもあります。

G:
なんという産みの苦しみ……。さらにいろいろと伺いたいところなのですが、そろそろ最後の質問です。今回、放送は1月から始まっているのですでにお話は終盤に差し掛かっていますが、多数のサイトで配信も行われているので、このインタビューを読んで作品に興味を持ち「それなら見てみようかな」と見始める人もいると思います。そういった人に「これは伝えておきたい」ということがあればお願いします。

吉田:
森久保さんがオーフェン役ということで、森久保さんの師匠が浪川さん、森久保さんの義姉が日笠さんという、いわば「逆転現象」みたいなことも起きています。そういうキャスティングにも注目してみていただけると面白いんじゃないかと思います。

浜名:
見方によっていろいろな「オーフェン」があると思います。シリアスなドラマに注目するのもいいし、クリーオウやボルカン&ドーチンを見て楽しむのもいいし、真面目に見たり、気楽に見たりと、「オーフェン」という作品を満喫してもらえたらと思います。


G:
本日はありがとうございました。

「魔術士オーフェンはぐれ旅」はAT-X、BS富士、TOKYO MX、WOWOWにて放送中。また、U-NEXTほか各動画配信サイトで配信も行われています。

「魔術士オーフェンはぐれ旅」アニメ PV第3弾 - YouTube

© 秋田禎信・草河遊也・TOブックス/魔術士オーフェンはぐれ旅製作委員会

2020年3月5日(木)から3月17日(火)まで「『魔術士オーフェンはぐれ旅』POP UP SHOP in 有楽町マルイ」の開催も決定しています。

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in インタビュー,   アニメ, Posted by logc_nt

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