インタビュー

アニメーターは素早く・うまくの両立が必要、「魔術士オーフェンはぐれ旅」作画の森本浩文さんインタビュー


監督撮影監督色彩設計と、2021年1月から放送されるアニメ「魔術士オーフェン キムラック編」のスタッフへのインタビューを行ってきました。続いては、第1期「魔術士オーフェン」で総作画監督を担当したアニメーター、森本浩文さん。第1期の作画をどのように行っていたのか、そしてアニメーターとして生きていくには何が必要なのか、作品の範囲にとどまらない話を聞いてきました。

TVアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」公式サイト
http://ssorphen-anime.com/

作業中の森本さん


GIGAZINE(以下、G):
デスクの隣に大きな液晶タブレットがありますが、普段は液晶タブレットを使われているんですか?

作画・森本浩文さん(以下、森本):
版権の時は液晶タブレットで描きますが、普段は使わないです。いつものアニメーションの作業は紙がほとんどです。


G:
なるほど。話をしつつも手はまったく止まらず猛烈な勢いで進んでいきますが、いつもこんなに早いんですか?

森本:
きれいに清書することもありますけれど、これはまだラフ状態なので。


G:
これでラフですか……。やはり、アニメーターさんは速度を上げていかなければいけないものですか。

森本:
どれぐらいの速度かは人それぞれですが、1カットでいくらという単価なので、やはり、スピードがないとアニメーターとしては生活できないところがあります。早く描かないといけない場合は先ほどのラフ状態ぐらいでというケースもありますし、時間と余裕があれば清書してきれいな状態にして出す場合もあります。顔のアップなら10分で描けることもありますが、動きがある場合は、ヘタすると1日かかることもありますね。

G:
差が大きいですね……。

森本:
全300カットの中に重たい部分、そうでもない部分と差があり、その平均で1カ月分の給料が出るという感じです。

G:
なるほど。森本さんは第1期の「魔術士オーフェンはぐれ旅」で総作画監督を担当されていたので、キャラクターの見た目についてうかがいたいことがあります。キャラクターデザインの吉田隆彦さんはインタビューで「デザインはなるべく草河さんのイラストイメージに近づけるよう意識して描いています」と語っておられます。一方で、アニメとして動かすなら簡略化も必要なところだと思います。森本さんは描くにあたってどのような基準で作業していったのでしょうか。

森本:
吉田さんが第1期の1話からやってた総作監資料を見ながら絵を合わせる形にしてたんで「若干、設定と絵が違うぞ」というのはありました(笑) 設定より総作監の方が原作に似てるかな? 目元で違いがあって、どちらに合わせようかと思ったのですが、第1話から総作監修正があったので、マネして合わせていきました。


G:
この「魔術士オーフェンはぐれ旅」は、参加される以前からご存じでしたか?

森本:
1998年~1999年にテレビで放送されていたのを見て「すごく動いているな」という感想でした。当時、中学生か高校生くらいでしたかね。セル時代で、懐かしいです。

G:
その頃、すでにアニメーターを目指しておられたのですか?

森本:
アニメーターを目指すことを決めたのは高校2~3年のときですね。就職をどうしようかと悩んだ末に、アニメーターを目指そうと。

G:
ちょうど多感な時期に「魔術士オーフェン」などのアニメを見たことが影響を及ぼしてしまった可能性が……。

森本:
当時はいろんなアニメがありましたからね。どこを見てもすごい作品ばかりでした。当時、絵はそれなりに描いていたんですが、いろいろな情報を聞くと「アニメーターは生活できない」って(笑)

G:
(笑)

森本:
どうしようか悩みましたが、親には「やりたいことをやっていい」と言われたので、東京へ来ました。「うる星やつら」や「らんま1/2」が好きで、そのキャラクターデザインをしていた中嶋敦子さんが当時スタジオディーンにいたので受けてみたら受かって、そこからずーっといろんな作品をやってきました。

G:
「魔術士オーフェンはぐれ旅」では第5話・第7話~第9話・第11話~第13話と、全部で7話分の総作監を担当しておられます。

森本:
もうちょっと時間が欲しかったところはありますね。アクションなどのシーンもあるんですが、かなりスケジュールとの話し合いで急いで作った部分もあって。入る話数が予定より多くなったこともあるので、自分の話数に集中して、力を入れたかったところもあったなと。

G:
先ほど、オーフェンを描いていたとき、ラフで出すか、きれいに清書して出すかという話がありましたが、その清書をできるなら……というところでしょうか。その中で、「これはやりきれた」という部分はどういった部分でしょうか。

森本:
毎日忙しかったですが、オーフェンとアザリーとクリーオウはきれいに描こうと考えていました。中でもクリーオウですね。「ちゃんと描かなきゃな」と意識していました。監督からは「目がでかい」と言われましたが……

G:
ちょっとかわいくなってしまっていた?

森本:
かわいくなりすぎて(笑)

G:
なるほど。クリーオウ、目が大きいとダメですか。

森本:
吉田さんのデザインと若干違って「目が大きいんじゃないか?」ということでのリテイクでした。

G:
キャラクターデザインを担当することもある森本さんぐらいキャリアがある人でも、キャラクターの目がつい大きくなってしまうことはあるんですね。

森本:
「オーフェン」の前に、目の大きなキャラクターの作品をやったので、そのクセが若干出たんですね。

G:
日々描いているからこそですよね、クセがついて残ってしまうというのは。でも、慣れたらもう、次の作品に行ってしまうわけですよね。

森本:
そうです。慣れたらもう次の作品へ、そしてまた慣れたら違う作品に、という感じなので、その都度練習しなきゃなってなります。

G:
せっかく描き方を身につけたところなのに、もったいないですね……。

森本:
本当は長い作品が一番いいんですけどね。

G:
仕事はクオリティと納期との綱引きの部分があります。森本さんは、その割り切りはどういった基準ですか?

森本:
制作から「今日中に出せ」と言われても、次の日のギリギリまでやっていることがあります。……制作が「ダメ」っていうまで、ですね。たまに、無理を言います。

G:
クオリティアップのためにはこれくらい必要というギリギリのところで駆け引きをしているんですね。

森本:
ギリギリ、なんとか、という。

G:
その1日で「これなら渡せるぞ」というところまで持っていくと。

森本:
それもあるし、どうしても時間がなければラッシュ後のリテイクでなんとかするために時間を作ります。気持ちとしてやり残しがある場合は、制作やプロデューサーに「この話数のコレは後で直したい」と伝えます。

G:
なるほど。「アニメーターとして食べていくためには枚数描かなければいけない」ってお話がありましたけど、早く枚数描けるようになるためには、数をこなして速度を上げる以外には何かあるんでしょうか?

森本:
新人のときからそういう練習をしていくしかないですね。新人1年目はほぼ枚数描けないものなので、早く描けるように時間を計りながら描いたりとか。後は中割に関してなんですけど、難しければ先輩にまずアタリをとってもらって、慣れるまでは入れてもらう形で少しでもスピードと枚数を上げさせる。慣れていけば自分でも意識するようになります。それまでには時間がかかりますね。普通に生活できるまでには2年とか、動画マンのうちはかかりますね。

G:
2年……長い2年であり短い2年でもある。

森本:
そうですね。アニメーターのうち動画マンに関しては、ネットでもブラックだと言われるように、月に5万円だとか10万円高というのは本当なので、これだけで生活をするのはほぼ無理です。

G:
最初の2年はかなり覚悟が必要ですね。

森本:
自分も1年くらいはそんな感じでした。ほぼ貯金を使い果たし、「生活するためには描かなきゃいけない」というプレッシャーが出てきます。1年でいかに早く描けるか、あと内容としても次をやっていけるか。それで、やっていけるかどうかの人と、やっぱ諦める人が分かれます。動画マンに関しては、辞めていく人が60~70%くらいですね。

G:
諦める人は、スピードについていけなくて、でしょうか?

森本:
生活できなくて諦める感じですね。生き残りった人が原画やキャラクターデザインになり、どんどん上にいく。作監までいくと普通に生活できる……というか、一般的な会社勤め以上の給料をもらえるようになります。そこまでが大変ですね。

G:
最初の2年があまりにも大変だと。ということは、作画で業界に入りたいのであれば、最初の段階から早さは身につけておいた方がいいのでしょうか?

森本:
早さはないとかなり厳しいです。将来的に生活できなくなります。

G:
裏返すと、ある程度早く描ける人であれば、1年目からでもある程度順応できたりするものですか?

森本:
やっぱり画力も必要なので、両方ですね。スピードがあるだけでは動画マン止まりなんです。スピードがあって絵も描ける人が原画マンかキャラクターデザイン、作画監督の方にいけるんですけど、スピードだけだと1年2年3年たっても動画マンですね。ただ、生活はできる動画マンです。「画力をつけつつスピードも上げる」というのを1年目の作画部の新人たちに教えています。普段から絵を描く練習をする。模写力もつける。

G:
なるほど。森本さんの席の後ろで動画の方々が作業をしていましたね。スタジオディーンでは、動画が完全にデジタル作業になっているというのがウリの1つだとうかがいました。「手で描く」というのは現場では終わりに近いんですか?


森本:
まだデジタル原画はそう普及していないですね。業界にいる原画マン・作画監督の70%くらいはフリーなので、機材を持っていない人は、会社に所属していないとデジタル化の提供ができないので、デジタルでない人は多いです。会社に所属していれば機材を会社が提供できるし、勉強会もあるので勉強はできるんですけど、個人だとかなり厳しい。デジタル化が進まないっていうのはそういう理由があります。会社に入ってる動画マンには会社が機材を提供するんでデジタルを教えていけるんですけど。あと5年、10年でデジタル化は進んでいくと思うんで、まだまだ。業界の30~40%、多くて40%ですね。デジタル化が進んでる原画マンは。

G:
まだ半数には至っていない?

森本:
至らないですね。なのでさっきやったように紙での作業があるんです。

紙とデジタルの橋渡しが必要ということで大型スキャナーが並んでいました。


G:
さっき見せていただいたら、ちょうど隣に巨大な液タブがあって、版権とかはあっちでやっておられると。ということは森本さんはどちらも今、ハイブリッド型というか、アナログもデジタルも両方できるという状態なんですか?

森本:
会社自体、動画マンがデジタルで、原画マンもデジタルでやってるんで、チェックの際たまにデジタルでやる場合もあるし、「多少なり慣れてないとダメ」と言われたんで。かといって、すごく慣れているというわけではないです。

G:
「全工程のデジタル化はなかなか難しい」というお話はいろいろ伺いますが、作画、原画さんの時点で、みなさんが機材を持っていないというなんともならないところからまず……。

森本:
そうですね。進められない、機材全部集めると50~60万かかると思うんです。ソフトからタブレット一式まで。

G:
個人で導入するにはハードルが高いですね。

森本:
PCも5年くらいで新規に買い換えないといけない。液晶タブレットも5~6年でダメになるし、そのたびに60万かかるので、さすがに個人さんだとなかなか負担がでかいですね。あとは、うちの会社は全部サーバーでつながっているのでやり取りできますが、個人の場合はそれもない。

G:
そもそも描いたデータ自体が結構な量あったりしますもんね。

森本:
会社だったらサーバー通してここに入ってますとかいうのでやりやすいんですけど、そこもかなり個人差がありますね。

G:
なるほど。長い間現場で作業をやってきて、デジタル化に移行する中で変わってきてる部分はあったりしますか?

森本:
今は、自分の場合は両方をやらなきゃいけないちょうど端境期だなと思います。紙とデジタルの両方やらなきゃいけないので、新入社員の子たちにも両方できるようなやり方で教えています。基本的には動画はデジタルでやらせますが、原画の練習は紙でやらせたりとか、両方まだ使える状態にならないとかなり厳しいぞって。

G:
完全にデジタル作業しかできないわけではなく、過渡期の中で両方の技能を持った人を育成しておられるんですね。

森本:
アナログとデジタルの両方育成する感じですね。そうすれば、もしうちを辞めたとしてもどこでも働ける状態なので、デジタルの作画のことがわかっていればどこでも欲しい人材になるし、紙でもやっていけるし。

G:
紙しかやっていない会社でも働けると。

森本:
そこでデジタルも教えられるし、教師にもなるし。普及にはなるかなって。もちろん、うちとしては出したくないですけど(苦笑)

G:
先ほど、森本さんの後ろには6名ぐらい並んでいましたが……

森本:
全員だと25名くらいです。

G:
リモートワークで自宅作業中という人もいるのですか?

森本:
リモートは原画マンのみですね。動画マンは直接会社から仕事をもらう形なので、作業は会社でしなければいけません。原画マンの場合は自宅に液晶タブレットとパソコンがあれば作業できるので、終わったのを会社に来てデータを渡す、プリントアウトするっていうことですね。

G:
なるほど。毎年5~6名とか10名くらい採用してこられたんですか?。

森本:
そのくらいです。ただ毎年10人入れても、半分は辞めていきますね。

G:
「思ってたよりも厳しい」と……?

森本:
専門学校で「絵がうまい」って言われていても、業界入ると「すごい下手」扱いになるんで、差がすごいのはっきりわかるんです。そこで自信なくす人が多いですね。

G:
なるほど。現場の人たちは段違いで絵がうまいんですか?

森本:
半端なくうまいですね。空間パースが分かる人の近くでもやると、平面しか描けなかった専門学生が、奥行きのある絵を求められるんです。動画で。専門学生は描けないんです。奥に走らせられない。手前で走ってるだけなんで、どうやって奥に走らせるかっていう技術を教えなきゃいけないんですね。そこをまず専門じゃ教えてくれないんで。

G:
そうなんですね。

森本:
基本的なことしか教えてくれないですね。

G:
事前に知識を身につけていれば、もうちょっと業界にとどまれたかもしれないっていう人もいたんでしょうか?

森本:
そうですね……うーん……それもあるし、一番は10人入ったとしても、その中で5人はすごい描ける人間だと、やっぱり同期と自分を比べて諦めちゃうっていうのが半分。すごいメンバーが集まってたりした場合は、同期の中でも差がついちゃうんで、お金の面でもかなり差がつくんで。

G:
そうか。すべて描いた枚数によるから。

森本:
そうなると給料も決まってしまうんで。よくできる人たちがうまく描けて速度も身につくと原画とか作画監督にどんどん上がっていくんで、やはりそこでいつまでも動画っていう一番下の立場、後輩もどんどん入ってくると……という。


G:
業界でやっていくために必要なものはたくさんあるんですね。単に絵が早いだけでもダメ、うまいだけでもなかなかだし。

森本:
両方ですね。

G:
なるほど。ちょっと業界の辛いお話になったので、最後は明るい話題に行きたいと思います。今後、森本さんが「こういう作品を手がけてみたい」と考えている方向はありますか?

森本:
できれば現代の作品ですね。過去というか、侍系をやることが多いので、できれば普通の服を着た作品を(笑)

G:
着物とかではない感じで(笑)

森本:
着物系多いですね。着物はめんどくさいです。めんどくさいというか、服って体についてくるじゃないですか。着物は袖が長いんで、走るとなびいたりする。その辺が難しい。走ったときの線はめんどくさいですよ。刀とかもかなり多いですし。普通のがないんですよ~。

G:
(笑) 「魔術士オーフェンはぐれ旅」からアニメ業界の育成事情にまで話が広がりましたが、いろいろ詳しくお話しいただきありがとうございました。

質問の一部は森本さんが作業している最中に答えてもらったものですが、その間、オーフェンを描く手が止まることはありませんでした。


最前線で戦うアニメーターには「早さ」と「うまさ」、両方が必要であるということをまざまざと見せつけられた、森本さんへのインタビューでした。


インタビューはもう1回続きます。最後は「編集」です。

<つづく>

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」浜名孝行監督インタビュー、コロナ禍のもと制作はどう進められたのか? - GIGAZINE

「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」撮影監督・近藤慎与さんに作画のかっこよさを引き立てる「撮影」の仕事についてインタビュー - GIGAZINE

オーフェンの髪の色は「暖色系の黒」など作中の色について「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」色彩設計・桂木今里さんにインタビュー - GIGAZINE

in インタビュー,   アニメ, Posted by logc_nt

You can read the machine translated English article here.