爆薬の臭いを検出するために「サイボーグ化したバッタ」を用いる試み
by Christina Butler
動物の優れた嗅覚を応用する試みは数多く行われており、臭いを頼りに行方不明者を探す警察犬や空港で麻薬の密輸をチェックする麻薬探知犬、さらに地雷を嗅ぎ分けて除去処理を助ける地雷探知犬や地雷探知ネズミも存在しています。アメリカ・ワシントン大学の研究チームが行った研究により、「サイボーグ化したバッタの嗅覚を利用して爆薬の臭いを検出する試み」が進展したと報じられています。
Explosive sensing with insect-based biorobots - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2590137020300169
Researchers one step closer to bomb-sniffing cyborg locusts | The Source | Washington University in St. Louis
https://source.wustl.edu/2020/08/researchers-one-step-closer-to-bomb-sniffing-cyborg-locusts/
ワシントン大学の研究チームは以前から、北アメリカに生息するSchistocerca americana(American grasshopper)と呼ばれる種類のバッタを使い、爆薬の臭いを検出する生体センサーの開発を試みてきました。これまでの研究で、研究チームはバッタの脳波を読み取ることに成功していましたが、問題はバッタが爆薬の臭いを嗅いだ際にその他の化学物質と違う反応をするかどうかという点だったとのこと。
研究チームのBarani Raman教授は、「爆発物には生態学的な意味がないため、バッタが爆発物の臭いを嗅いで特定できるかどうか不明でした」と述べ、バッタが爆発物の臭いにさらされたとしても、それを意味のあるシグナルとして識別しない可能性があったと指摘しています。
そこで研究チームは、バッタを爆発物の臭いにさらすと同時に脳波を検出して分析することで、爆発物の臭いを識別するかどうかを実験しました。研究チームはバッタの脳波を検出するため、神経領域やその他の臓器に対する影響を最小限に抑えながら外科的処置を行い、ワイヤー電極などを脳の嗅覚領域に挿入して固定したとのこと。
by Mike Keeling
脳波を読み取れるようにサイボーグ化したバッタを、研究チームはトリニトロトルエン(TNT)・ジニトロトルエン(DNT)・トリメチレントリニトロアミン(RDX)・ペンスリット(PETN)・硝酸アンモニウムなど、多様な爆発物からなる蒸気にさらしました。すると、バッタはTNTをはじめとするさまざまな爆発物の臭いに対し、異なる脳波の反応を見せることが判明したとのこと。
また、バッタを爆発物の検出に用いる際は、単に「爆発物の臭いがした」ことを識別するだけでなく、「どの方向からどれほど強い爆発物の臭いがするか」を識別する必要があります。そこで研究チームは、バッタを移動する装置に搭載して透明な箱の中を移動させながら、穴を通じて箱の中に爆発物の臭いがする蒸気を注入し、蒸気の濃度によってバッタの脳波が変化するかどうかを調査しました。
実験に使われた装置が以下。赤枠で囲った装置にサイボーグ化されたバッタが搭載されており、箱に空いた穴から蒸気が注入されます。この実験で、バッタの脳波が蒸気の濃度に応じて変化していることが確認され、バッタは臭いの強弱を識別できると判明しました。Raman教授は、「喫茶店の近くに行くとコーヒーの香りが強くなり、遠ざかれば香りが弱くなります。私たちが観察したのは、これと同じことです」と、今回の実験について説明しています。
今回の研究では、バッタの識別精度は単純な装置よりも優れていることも確かめられたものの、60%を超える精度で爆発物の臭いを識別できた個体はほとんどいなかったそうです。そこで研究チームは、ランダムに選んだ数匹のバッタを同時に稼働させ、複数のデータを分析することで精度が上がるかどうかを実験しました。すると、7匹のバッタを用いるだけで精度が80%を超えたそうで、複数のバッタを組み合わせることで精度が大幅に向上することもわかったと述べています。
さらに研究チームは、今回のデータを基にしてバッタの脳波を検出するシステムの最適化も行いました。新たなシステムにより、バッタが臭いを嗅いでからわずか500ミリ秒以内に脳波のパターンを分析し、何を嗅いだのかが識別できるようになったとのこと。
Raman教授は、「これで電極を埋め込んだバッタを密閉して、離れた場所まで移送することができます」とコメント。バッタを爆発物の検出に用いる試みは一見すると奇妙に思えますが、Raman教授はかつて炭鉱労働者がカナリアを使ってガスを検出していたことや、ブタを使って地面に埋まったトリュフを探す事例を挙げ、バッタによる爆発物の検出もこれらと同様の試みだと主張しました。
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