人間だけでなく吸血コウモリも「病気になると社会的距離を保つ」ことが判明
by Valerie
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大を抑えるために、各国では「社会的距離を保つ」ための政策が推進されました。病気になった際に社会的距離を保つのは人間だけではなく、さまざまなウイルスを媒介することで知られるコウモリも、病気になると社会的距離を保つことが研究によって判明しました。
Tracking sickness effects on social encounters via continuous proximity sensing in wild vampire bats | Behavioral Ecology | Oxford Academic
https://academic.oup.com/beheco/advance-article/doi/10.1093/beheco/araa111/5937165
Even vampire bats social distance when they get sick
https://www.zmescience.com/ecology/animals-ecology/vampire-bats-social-distance-05252/
Even Vampire Bats Socially Distance Themselves When They Feel Sick
https://www.sciencealert.com/vampire-bats-social-distance-when-they-feel-sick
コウモリはさまざまなウイルスを媒介する存在として知られており、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)もコウモリ由来のウイルスだと考えられています。コウモリは免疫や炎症反応に関わるタンパク質の活動メカニズムが特殊であるため、人間にとって危険なウイルスを保有しながらも自身は発症しないとされています。
コウモリが病気にならずに多数のウイルスを媒介するメカニズムとは? - GIGAZINE
オハイオ州立大学の行動生態学者であるGerald Carter准教授が率いる研究チームは、以前の研究でリポ多糖を接種された吸血コウモリは免疫反応に異常が生じ、時には死に至るケースもあることを発見していました。リポ多糖によって病気の状態になったコウモリは動きが減り、グルーミング(毛づくろい)などの社会的相互作用も減少したとのこと。
しかし、この研究は実験室の中で行われたものであり、野生の環境で体調を悪くしたコウモリがどのような反応を見せるのかは不明でした。そこでCarter氏は、スミソニアン熱帯研究所の博士研究員であるSimon Ripperger氏らと協力し、中央アメリカのベリーズに生息するナミチスイコウモリを対象にした実験を行いました。
過去数年の調査から、内部が空洞になった木にナミチスイコウモリのコロニーがあることが判明していたため、研究チームは日没時にネットを張ってナミチスイコウモリを捕獲したそうです。合計で31匹のナミチスイコウモリを捕獲した研究チームは、そのうち16匹にリポ多糖を注射し、残りの15匹に生理食塩水を注射しました。リポ多糖を注射されたナミチスイコウモリは死ぬわけではありませんでしたが、数時間にわたって体調が悪くなったとのこと。
さらに研究チームは、全てのナミチスイコウモリに1セント硬貨より軽いセンサーを取り付けてから解放し、その後3日間にわたって動きを追跡しました。センサーは2秒ごとに信号を出し、5m~10m以内にある別のセンサーを補足する仕組みとなっています。付近のセンサーから発信される信号の強さや補足する時間から、センサーを取り付けられたナミチスイコウモリ同士がどれほど近くにいるのかを追跡することが可能です。
by Simon Ripperger
追跡調査の結果、センサーを取り付けて解放してから最初の6時間で、生理食塩水を注射された健康なナミチスイコウモリは、別の個体と49%の確率で接触しました。一方、リポ多糖を注射されて体調を悪くしたナミチスイコウモリは、他の個体と接触する確率が35%にとどまったとのこと。体調不良のナミチスイコウモリが他の個体と社会的相互作用を持つ時間は、平均して25分減少したと研究チームは報告しています。
リポ多糖を接種されたナミチスイコウモリの体調はやがて回復し、追跡開始から48時間後には、体調を悪くしていたナミチスイコウモリの社会的相互作用も、他の健康な個体と同程度にまで回復したそうです。
今回の追跡調査で判明した結果は、研究チームによって誘発された体調不良がナミチスイコウモリの社会的ネットワークを劇的に変えたことを示唆します。Ripperger氏は、「効果がはっきりと目に見えることは驚きでした。複雑な統計分析をしなくても、社会的ネットワークを見ただけで何が起こっているのかを見ることができました」とコメントしています。
by Josh More
病気になった際に他の個体と社会的距離を保つことは、病原体の感染を他の個体に広げてコロニーを危機に陥れることを避ける役に立つ可能性があります。その一方で、Ripperger氏はナミチスイコウモリのコロニーで見られた社会的相互作用の変化が、体調不良になったナミチスイコウモリが自主的に引き起こしたものではない可能性が高いと指摘。
体調不良のナミチスイコウモリは健康な個体と比較して無気力になり、睡眠が増加したため、他の個体との社会的相互作用が減少したと研究チームは考えています。「あなたがインフルエンザにかかり、疲れ果ててベッドから出る気力がないことを想像してみてください。その結果、日常生活で出会う人が少なくなります」とRipperger氏は述べました。
今回の研究結果は人為的に引き起こされた体調不良を基にしており、実際の病原体に接触した際にナミチスイコウモリが同様の反応を見せるのかどうかは不明です。Carter氏は、「行動の変化は病原体にも依存する点を覚えておくことが重要です。いくつかの病気は相互作用の可能性を減少させるのではなく、増やすかもしれません」と指摘しました。
by Josh More
なお、病気の個体が社会的距離を保つのはナミチスイコウモリだけでなく、一部のロブスターや昆虫なども病気になった個体を検出し、社会的相互作用を減少させることがわかっています。
・関連記事
コウモリが病気にならずに多数のウイルスを媒介するメカニズムとは? - GIGAZINE
パンデミック中の外出禁止令を守る割合が低い「性格」とは? - GIGAZINE
「認知能力が高い人ほど社会的距離をきちんと保つ」など新型コロナ予防ができる人/できない人の姿が研究により浮き彫りに - GIGAZINE
新型コロナウイルス対策に有効な「社会的距離をとるための具体的な方法」を専門家がわかりやすく解説するムービー - GIGAZINE
新型コロナウイルス対策で社会的距離を保つことによる「5つの悪影響」とは? - GIGAZINE
5億3000万人もの人々がロックダウンなどにより新型コロナウイルスから守られたとの研究結果 - GIGAZINE
野良ネコが行儀良く「社会的距離」をあけて並んでいる光景が話題に、なぜネコは地面に描かれた円や狭い箱の中が好きなのか? - GIGAZINE
・関連コンテンツ