地球上のインターネットの基礎を作った「インターネットの父」が「惑星間インターネット」について語る
現代では衛星通信を利用するネットワーク接続環境まで登場しており、地球上のほぼ全ての場所でインターネットを利用できるという時代といえます。しかし、現行のインターネットプロトコルを惑星間の通信に使おうとした場合、距離などの問題が立ちはだかります。「インターネットの父」の1人として知られるヴィントン・サーフ氏が、自身が長年にわたって取り組んできた惑星間インターネットの歴史と未来について回答しています。
Vint Cerf’s Plan for Building An Internet in Space | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/vint-cerfs-plan-for-building-an-internet-in-space-20201021/
国際宇宙ステーションと地球は無線およびインターネットプロトコルで接続されており、「宇宙空間でのインターネット」はすでに現実のものとなっています。しかし、とてつもなく距離が離れた惑星同士をインターネットで結ぶ場合には、惑星同士の距離や惑星の位置が問題となって立ちはだかります。
例えば、地球と木星の間に惑星間インターネットを確立するとします。地球と木星の間の距離は5億9070万~9億6580万kmほどですが、これは光の速さでさえ32分50秒~53分41秒もかかる距離。さらに、地球も木星も自転・公転しているため、お互いの位置関係次第では地球と木星の間に挟まった惑星や、地球自体や木星自体が障害物として無線通信の邪魔をします。地球上のインターネットで主流の経路制御プロトコルは接続の途絶を検知すると経路を再計算し始めるというシステムを採用しているため、惑星間レベルの遅延・途絶に対して経路の再計算を乱発して通信自体が正常に機能しません。
こうした惑星間インターネットに長年にわたって取り組んできたのが、TCP/IPプロトコルの創世に重要な役割を果たしたことで「インターネットの父」の1人として知られるヴィントン・サーフ氏です。サーフ氏がTCP/IPを形作った1970年代頃はメモリが高価だったため、サーフ氏は「接続が途絶した場合、パケットを保存しない」というアプローチを採用していました。このアプローチは前述通りの惑星間インターネットに対して再計算を乱発するため、サーフ氏はシームレスなデータパスを前提とする現行の「Internet Protocol」とは異なる、遅延・途絶への対策を組み込んだ惑星間インターネット向けのプロトコル「Bundle Protocol」を2003年に開発しました。
こうした惑星間インターネットに取り組み続けたサーフ氏は、2020年10月時点で77歳。2020年3月に新型コロナウイルス感染症にかかりましたが、4月には完治させ、Googleのチーフインターネットエヴァンジェリストとして世界にインターネットを布教する活動に復帰しています。そんなサーフ氏がサイエンスなどに関するオンラインマガジンQuantamagazineの惑星間インターネットに関するさまざまな質問に対して回答しました。
Quantamagazineに対して、サーフ氏は惑星間インターネットのアイデアをもたらしたのは、当時JPLとNASA本部に所属していたエイドリアン・フック氏だったと回答。惑星間インターネットの現状については、NASAが「破棄された宇宙船に搭載したプロトコルを再利用して、使用できるノードを増やす」という計画を実行していると語っています。
また、惑星間インターネットに関する取り組みの1つには、「国際宇宙ステーション上の宇宙飛行士がドイツにあるロボット車両を遠隔操縦する」という実験もあったとのこと。例えば火星上のロボット車両を地球から遠隔操縦する場合、地球から放たれた信号がロボット車両に到達するまでには20分ほどかかります。そのため、火星上で車両が予想だにしない挙動を取った場合に地球から対処することは不可能です。ISSで行われた実験はこうした状況を想定したものでしたが、ISSと地球の距離は約400km程度なのでうまくいったにすぎません。
また、惑星間インターネットのユーザーエクスペリエンスについては、現状は交互に通信を行うかトランシーバーのようなモードか、メールのようなモードしかないとしつつも、インタラクティブな通信ができるようになるまではそれほど長くかからないだろうとサーフ氏は回答。残された問題については、「プロトコルを実装することと実際に使用されることは別物」と語り、スペースミッションを設計する人々に「開発したプロトコルが十分検証されている」と納得させられるように努力していると述べました。
サーフ氏は惑星間インターネットは現行のインターネットと同様に単なるインフラストラクチャーであり、単に人々が共同作業を行い、共に何かを発見するための媒体で、いつかは商用化されるだろうと言及。「地球上でBundle Protocolのような遅延耐性ネットワークプロトコルが利用可能背されることはあるのか?」という質問に対して、スカンジナビア半島北部からコラ半島にまたがるラップランドで放牧されている、歩き回って無線通信環境に出たり入ったりするトナカイの追跡調査や、調査用デバイスが常時通信を保てない海洋研究などに用いられたことがあると回答しました。
このほかにもサーフ氏は、通信機能が制限される大規模災害などで遅延耐性ネットワークは有用だと述べ、地球上のインターネットプロトコルを現行のTCP/IPから耐性遅延ネットワークプロトコルに置き換えるのはどうかという質問には、「モバイル環境には適している可能性があるが、有線環境にはあまり適していない」と回答して、Googleが2013年より実装しているネットワークプロトコル「QUIC」を推奨しています。
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