LSDなど幻覚剤を投与されると脳が子ども時代に戻るという「フェニックス効果」とは?
Appleの元CEOであるスティーブ・ジョブズは「LSDの体験は人生で最も重要な経験の1つ」と話していたことが知られています。記事作成時点ではLSDを始めとする幻覚剤は多くの国で違法薬物に指定されていますが、病気の治療薬となる可能性があるとして研究が進められており、その中で「幻覚剤を投与した人の脳は子どものような脳になる」という「フェニックス効果」も報告されています。
The Phoenix Effect – qwerky science
https://mad.science.blog/2020/04/26/the-phoenix-effect/
The Phoenix Effect: Reversing Mental Age With Psychedelics – qwerky science
https://mad.science.blog/2020/08/16/the-phoenix-effect-reversing-mental-age-with-psychedelics/
Your Brain On LSD Looks A Lot Like A Baby's : NPR
https://www.npr.org/2016/04/17/474569125/your-brain-on-lsd-looks-a-lot-like-a-babys
LSDなどの幻覚剤を使った研究は長年法的に禁じられていましたが、2014年に、「40年ぶりに人間にLSDを投与する認可を受けた」科学者、ロビン・カーハート=ハリス博士が話題になりました。ハリス氏はインペリアル・カレッジ・ロンドン神経精神薬理学センターで幻覚剤の研究を行っている人物で、薬物を投与された脳の影響を調査し、幻覚剤を使ったうつ病などの心理療法の発展に貢献しています。
2016~2017年には、ハリス氏はマジックマッシュルームがうつ治療に役立つことも発表しました。
マジックマッシュルームが重度のうつ病を取り除くことが臨床試験で判明 - GIGAZINE
マジックマッシュルームには「うつ」状態の脳の回路を再起動させる働きがある可能性が判明 - GIGAZINE
ハリス氏は「幻覚剤が脳に与える影響」という新しい分野で、さまざまな知見を示しています。その中の1つが、「幻覚剤を投与された人の脳は子どもの脳に似ている」ということ。
発達段階にある子どもの脳は、成熟した大人の脳に比べて「セロトニンの分泌量が多い」など、さまざまな点で違いがあります。fMRIを使って子どもと大人の脳をスキャンした実験では、「心の理論」に関連する脳のネットワークと、痛みに関連したネットワークに違いがあることが示されました。大人の脳は、子どもの脳に比べて、これらネットワークの活動が少ないとのこと。しかし、LSDを投与された大人は脳全体の接続が増加し、普段接続しない部分の接続も確認されました。LSDの効果が現れている時の脳は、乳幼児の脳の活動に似ていることを研究者は報告しています。
また、子どもの脳は大人の脳に比べて「デフォルトモードネットワーク(DMN)」の活動が少ないこともわかっています。そして、DMNの減少は幻覚剤を投与された人にも見られるとのこと。
このように、「幻覚剤が子ども時代の重要な期間を取り戻させる」という仮説を、「フェニックス効果」と呼びます。幻覚剤のフェニックス効果により、人は「大人」でなくなり、純粋な子どもの頃に戻って「生まれ変わり」を体験できると考えられています。
この「子どもの脳の状態」とはどういうものなのか?という問いに対し、ハリス氏は「1分間、全てのものがおかしく感じられて笑ったり、幸せな状態になったと思ったら、次の1分間は唐突にシフトして泣きわめいているかもしれません。このような感情の繊細さや、信じられないほどの想像力が、幻覚剤で起こります」とコメント。「子ども時代に戻れる」と聞くと幸せなイメージを思い浮かべますが、大人の感覚が子どもに比べて鈍いのは自分を守るための知の蓄積によるものであり、子どもに戻ると、その分傷つきやすくなるとのことです。
またハリス氏は、幻覚剤を使った体験が「神秘的なもの」として扱われることについて、「ウィリアム・ワーズワースのような作家は、乳幼児の状態を『天国のような状態』、つまり人が神と呼ばれるものに近い状態だと述べており、非常に興味深いです」と述べています。
フェニックス効果はまだ科学的に議論のあるもので、立証されたものではないとのこと。記事作成時点でもフェニックス効果を実証しようとさまざまな研究が行われており、実際にGoogle広告で募った被験者にシロシビンを投与しfMRIで脳スキャンを行い、それとは別に集めた7歳未満の子どもの脳をスキャンした画像と比較する、という実験も計画されています。
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