サイエンス

パンデミックだけでなく「インフォデミック」も多くの人々を死に至らしめたとの指摘


2019年末に発見された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界各地で甚大な被害をもたらし、多くの死者を発生させました。こうした犠牲者の中には、感染症による直接的な被害だけでなく、COVID-19にまつわる不正確な情報や流言飛語により命を落とした人々が多数存在していると、専門家は指摘しています。

COVID-19–Related Infodemic and Its Impact on Public Health: A Global Social Media Analysis | The American Journal of Tropical Medicine and Hygiene
https://www.ajtmh.org/content/journals/10.4269/ajtmh.20-0812

インフォデミック」とは、インターネットなどを介して真偽不明の情報や虚偽の情報が流布され、それを信じた多くの人がパニック状態になり社会に動揺が引き起こされることを指す言葉です。COVID-19による被害の様相について、WHOは2020年2月に発表した(PDF)レポートの中で、「新型コロナウイルス感染症の発生により、大規模な『インフォデミック』が見られるため、信頼できる情報を見つけるのが困難になっています」と報告しました。

こうしたインフォデミックの被害としては、「トイレットペーパーがなくなる」とのデマを信じた一部の人がトイレットペーパーを買い占めてしまい、本当に必要な人にトイレットペーパーが行き渡らなくなってしまった事例が挙げられます。

新型コロナウイルスパニックによるトイレットペーパーや消毒剤の買い占めが海外でも発生、闇市場が形成される可能性も - GIGAZINE


トイレットペーパー不足は世界各国で多くの人を困らせましたが、インフォデミックはさらに人命を奪う事態にまで発展することもあります。例えば、イランでは「COVID-19の治療薬」として多くの人が人体に有害なメタノール入りの密造酒を飲んでしまうという事件が発生し、これにより27人がメタノール中毒で死亡しました。

「飲酒が新型コロナウイルスに効く」と信じて27人がメタノール中毒で死亡 - GIGAZINE


また、アメリカでも子どもがアルコール入りの手指消毒剤を誤飲してしまい、急性アルコール中毒で搬送されるといった事例が急増していると報告されています。

こうしたインフォデミックがもたらす被害を確かめるため、イギリス・バース大学の材料化学教授であるサイフル・イスラム氏らの研究チームは、インターネット上のインフォデミックに関する実態調査を実施。2019年12月31日~2020年4月5日の間にファクトチェック機関のサイト、Facebook、Twitter、ニュースサイトなどで確認されたCOVID-19関連の「流言飛語、社会的スティグマ、陰謀論」に関する情報を収集し、それらが公衆衛生に与えた影響を追跡しました。

その結果、25種類の言語が使われている87カ国の地域で、合計2311件の不正確な情報が特定されました。以下が、調査により明らかになったインフォデミックの状況を国別に表した図で、各国の棒グラフのうち黒色が陰謀論、緑色が流言飛語、黄色が社会的スティグマを表しています(クリックで原寸大に表示されます)。図の中ほどに記載されている日本を見ると、総数は少ないものの社会的スティグマの割合がかなり高いことが分かります。


研究チームがデマの内容を分析したところ、その主張の内訳は「病気・感染・死亡率」に関するものが24%、「抑制策」に関するものが21%、「医療や治療法」に関するものが19%、「COVID-19の起源」に関するものが15%、「暴力」に関するものが1%、その他の「雑多な情報」に関するものが20%と多岐にわたっていました。また、テキスト情報として検証可能な2276件のうち1856件、実に82%もの情報が虚偽だったことも確認されているとのことです。

研究チームは論文の中で、「流言飛語、社会的スティグマ、陰謀論が信頼できる情報を装い、確かな証拠に基づいたガイドラインよりも優位になると、深刻な被害がもたらされる潜在的な危険性が生じます。例えば、『高濃度のアルコールが体内を浄化しウイルスを死滅させる』という俗説により、世界中で約800人が死亡し、5876人が病院に搬送され、60人がメタノール中毒で失明しました」と述べて、インフォデミック対策の重要性を指摘しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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