COVID-19のパンデミックは「母親の雇用」を危機にさらしているとの指摘
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い、多くの仕事でリモートワークが導入されました。これにより、「性別に基づく男女の役割分担を解体し、雇用格差が減少するのではないか」との期待を寄せる意見もありましたが、「実際にはパンデミックにより『母親の雇用』が危機にさらされている」と、アメリカやオーストラリアの研究者からなる研究チームが指摘しています。
COVID‐19 and the gender gap in work hours - Collins - - Gender, Work & Organization - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/gwao.12506
COVID-19 is a disaster for mothers' employment. And no, working from home is not the solution
https://theconversation.com/covid-19-is-a-disaster-for-mothers-employment-and-no-working-from-home-is-not-the-solution-142650
研究チームはアメリカの連邦人口動態調査のデータを基に、パンデミックにより都市封鎖などの対策が実施された2020年2月~4月にかけて、子どもを持つアメリカ人の雇用状況がどのように変化したのかを調査しました。データを分析したところ、「全ての年齢層の子どもを持つ母親が、仕事をする時間を短縮した」ことが判明したとのこと。
就学前の子どもを持つ母親は1週間当たり平均1.8時間、小学校に通う年齢の子どもを持つ母親では1週間当たり平均1.9時間ほど、パンデミック中は労働時間が減少したそうです。また、中学生から高校生の子どもを持つ母親でも、1週間当たり平均1.5時間ほど労働時間を減少させていました。
一方、父親の労働時間はパンデミック前と後でほとんど変化しておらず、就学前の子どもや小学校に通う子どもたちを持っている父親でも、1週間当たり30分未満しか労働時間が減っていませんでした。中学生から高校生の子どもを持つ父親では1週間当たり1.2時間ほど労働時間が短縮されており、これは父親の年齢が上がるにつれて役職が上がり、自分の意志で労働時間を短縮する権限が増えたからではないかと研究チームは考えています。
以下のグラフが、母親と父親における労働時間短縮の差を表したもの。左から「1歳~5歳の子どもを持つ母親」「1歳~5歳の子どもを持つ父親」「6歳~12歳の子どもを持つ母親」「6歳~12歳の子どもを持つ父親」「13歳~17歳の子どもを持つ母親」「13歳~17歳の子どもを持つ父親」となっています。同じ年齢の子どもを持つ親でも、母親は父親より4~5倍ほど労働時間を短くしていることがわかります。
今回の研究では、なぜ母親が労働時間を短縮したのかという理由については調査していないものの、COVID-19のパンデミックによって家事や育児の時間が増加したことが、労働時間短縮の主な原因だとみられています。パンデミックにより家の中が学校・保育所・オフィスを兼ねることとなり、多くの母親が育児と家族の間で板挟みになっているとのこと。
パンデミックが母親の労働時間を減らすようにプレッシャーをかけている一方で、在宅勤務を許可することによって子育てをする母親の負担が減るとの期待もあります。そこで研究チームは、両親が共働きであり、どちらもパンデミック中に在宅勤務を選択できた家庭についても調査しました。
調査の結果、共働きで在宅勤務をしていた未就学児を持つ母親は、1週間当たりの労働時間を2.6時間削減していることが判明し、小学生の子どもを持つ母親も1.5時間ほど労働時間を短縮していました。しかし、やはり父親の労働時間短縮は母親よりも大幅に少なかったそうで、未就学児を持つ父親で週0.6時間、小学生の子どもを持つ父親で週0.4時間ほどだったとのこと。
子どもたちの世話をしながら自宅で仕事をすることは困難であり、生産性の低下に悩んだり雇用の危機に直面したりする母親も少なくありません。アメリカだけでなく、カナダやニュージーランドでも働く母親がCOVID-19のパンデミックで厳しい状況に立たされていることがわかっています。
また、オーストラリアでは男性よりも女性の方がパンデミックで失業しやすい傾向も明らかとなっており、2020年2月以降に男性のフルタイム雇用が3.8%減少したのに対し、女性は5.2%減少しているとのこと。パンデミックへのしわ寄せが母親に来ている現状を変えるため、政府や雇用主は子どもを持つ親を保護する必要があると、研究チームは主張しました。
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