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潜水艦はどうやって海中で通信を行っているのか?


海の中を潜って作戦を遂行する潜水艦は、一度潜ってしまうと何時間、何日あるいは何カ月も浮上しないことがよくあります。四方八方が全て海という状況で潜水艦はどうやって他艦や地上とコミュニケーションを取っていたのか、海中での通信の歴史について、技術系ニュースブログのHackadayが解説しています。

The Many Methods Of Communicating With Submarines | Hackaday
https://hackaday.com/2020/07/15/the-many-methods-of-communicating-with-submarines/


潜水艦が本格的に戦場で活躍するようになった第一次世界大戦では、潜水艦は一度海中に潜水してしまうと、再び海面まで浮上しなければ基地局や他艦と通信を行うことができませんでした。しかし、当時の潜水艦は基本的に水上艦艇として活動しており、潜水するのは攻撃時や追跡を回避する時に限られていたため、潜水中に通信が不可能になっても特に問題はなかったそうです。


第二次世界大戦時、ドイツ海軍潜水艦隊司令長官だったカール・デーニッツが、複数の潜水艦で連携を取りながら敵の輸送船団を攻撃する群狼作戦を考案し、潜水艦も積極的に通信することが求められるようになりました。しかし、当時の潜水艦は他艦との連絡を短波無線で行っており、無線機を使うためには水面に浮上する必要がある上に、通信の内容を敵に探知される可能性がありました。

ドイツと同様の作戦を実行していたアメリカ海軍は、潜水艦が水中でも通信できるようにするために、「AN/BQC-1A」、別名「ガートルード」という通信機を導入しました。


ガートルードはバッテリー駆動の水中電話で、アマチュア無線機では一般的なSSB通信方式を採用していました。ガートルードはおよそ4~5kmの範囲にいるソナー配備済みの他艦を24.26kHzの超音波で呼び出すことが可能で、およそ365m以内の距離であれば8.3375kHzから11.0875kHzの周波数で音声通信をすることができました。ただし、塩分を含む海水中は空気中よりも電波吸収率が高いため、信号の減衰や損失が発生しやすかったそうです。

第二次世界大戦が終わり、数カ月にわたって潜水活動を行える原子力潜水艦が登場すると、潜水艦の役割は「連携を取りながら敵輸送船を攻撃するユニット」から「海から核ミサイルを発射できるユニット」に変化。そのため、潜水艦のステルス性はこれまで以上に重視されるようになりました。

しかし、潜水艦から陸上に向けて信号を送信することは自分の居場所をばらすことになる上に、大きな容量のデータを送信できるだけの設備を潜水艦内に整えるのは難しいものがあります。そのため、冷戦時代の潜水艦の通信システムには「陸上の送信局から発信された戦術命令を、ステルス性を損なわずに受信すること」が求められることとなりました。


通信に使われる電波は、周波数によってその性質が大きく変化します。3MHz~30MHzの短波帯(HF)と30kHz~300kHzの長波帯(LF)は、陸上であれば電離層での屈折によって地球全体まで到達することが可能ですが、海水中では急速に減衰してしまうため、海中にいる潜水艦との通信に使うには向いていません。

3kHz~30kHzの超長波帯(VLF)だと、水深20メートルまで通信することは可能ですが、潜水艦のステルス性を確保するには十分な深さではありません。しかし、さらにもっと低い周波数となる3Hz~300Hzの極超長波帯(ELF)だと、水深120メートルという十分な深さまで通信可能になるとのこと。そこで、アメリカ海軍は1968年に「Project Sanguine」と呼ばれるプロジェクトを推進し、ELFでの通信システムの構築を計画しました。


ただし、ELFは電波を送信するためには巨大なアンテナと高出力の送信機が必要となります。そこで、Project Sanguineでは、アメリカ北部・ウィスコンシン州の州土40%近くにアンテナケーブルを埋めて800メガワットの電力で稼働する高出力の巨大送信局を建設しました。

送信機はウィスコンシン州とミシガン州に建設されました。花こう岩の岩盤に打ち込まれた木製の支柱に張られたアンテナの長さはおよそ22~44kmで、通電するとELFを発信する巨大な磁場が生成されました。つまり、巨大な岩盤をまるごと無線通信用のアンテナにしてしまうというわけです。


しかし、ELFによる潜水艦との通信システムは反戦団体や環境団体から「予算の無駄遣いだ」「電磁波が周囲の環境に与える影響を無視している」と猛反対を受けることとなりました。また、アメリカ北部に建設された巨大送信機はアメリカ南部・フロリダ半島沖の水深122メートルにメッセージを送ることができたそうですが、帯域幅が非常に狭かったため、3文字の短縮暗号を送信するのに15分もかかってしまったとのこと。さらに、通信技術の進化によって「空中の巨大輸送機を中継ポイントにしてVLFやHFによる通信を行う」という方法が確立されたため、このELFによる通信システムは2004年で廃止されました。

そして現代になり、水中での通信技術はさらに進化を遂げています。2020年6月に発表された論文では、Raspberry Piを含む既製のコンポーネント、LED、レーザーを使って水中でインターネットの無線接続を可能にするシステム「Aqua-Fi」が発表されています。キングアブドラ科学技術大学の研究チームによる実験では、防水スマートフォンと青~緑色のレーザーを使うことで、2.11Mbpsという速度でSkype通話を行うことに成功したとのこと。


Hackadayは「Aqua-Fiが潜水艦のネットワークとして将来的に応用可能であるとは考えにくいですが、このようなシステムがサポートできるのは海中の戦争だけではありません」とコメント。たとえば太陽電池式のブイによってAqua-Fiのアクセスポイントを作ることで、ダイバーや遠隔操作の海中探査機などがインターネットへの常時接続を利用できる可能性を示唆し、海洋生物学や地質学、自然保護、スポーツやレクリエーションに十分応用できると論じました。

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in ハードウェア,   乗り物, Posted by log1i_yk

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