サイエンス

新型コロナウイルスのゲノム配列から感染の流れを追跡する試みが行われている


世界中で流行している新型コロナウイルス感染症はなかなか終息する気配を見せず、記事作成時点で総感染者数が1434万人を突破し、死亡者数も60万人を超えています。そんな中、流行の中で徐々に変化している新型コロナウイルスのゲノム配列を調査することにより、「新型コロナウイルスの感染の流れ」を追跡する試みが行われています。

'Genomic fingerprinting' helps us trace coronavirus outbreaks. What is it and how does it work?
https://theconversation.com/genomic-fingerprinting-helps-us-trace-coronavirus-outbreaks-what-is-it-and-how-does-it-work-142917


RNAウイルスの一種である新型コロナウイルスのゲノム配列は、2020年1月に完全に解読されました。ただし、新型コロナウイルスのゲノム配列は流行の中で徐々に変化していることがわかっており、「世界中で流行している新型コロナウイルス株は、最初に発見された株よりも感染力が3~6倍強い株である」との研究結果も発表されています。

シドニー大学のウイルス学者であるレベッカ・ロケット氏によると、新型コロナウイルスの感染事例ごとにゲノム配列を調査することで、それぞれの事例において新型コロナウイルスがどのように変異したかを検出することが可能とのこと。また、新型コロナウイルスのゲノム配列の変異を比較することで、「遺伝的な家系図」を作成することが可能となり、これを用いることで感染経路やクラスターを特定することができるようになります。

オーストラリアでは早期から新型コロナウイルスのゲノム配列に着目した流行追跡を行っていたそうで、海外から入ってきたウイルスによる感染なのか、それとも国内で広がったウイルスによる感染なのかといった点の調査に、ゲノム配列決定テストが役立ったとロケット氏は述べています。記事作成時点でオーストラリアを襲っている第2波では、ニューサウスウェールズ州の飲食店で発生したクラスターが、遠く離れたビクトリア州メルボルンにおける感染例とリンクしていることも突き止められたとのこと。


ロケット氏は「オーストラリアの日」という祝日と重なった2020年1月下旬の週末、家族で来たキャンプのテント内でノートPCを使い、新型コロナウイルスのゲノム配列決定テストを設計したと述べています。その後、シドニー大学や公的な医療機関の研究チームがこのテストの機能を調査し、オーストラリアでは早期から新型コロナウイルスのゲノム配列を感染追跡に役立ててきたそうです。

迅速に新型コロナウイルスのゲノム配列決定テストを作成できた背景には、2018年にオーストラリアで問題となった「リステリア菌による食中毒事件」がありました。この事件ではメロンに食中毒を引き起こすリステリア菌が付着しており、結果として7人が死亡する事態となりました。

リステリア菌の発生源を追跡する中で使われたのが、リステリア菌のゲノム配列決定テストでした。長年にわたってゲノム配列決定テストは食中毒や結核の感染追跡に使用されてきたそうで、新型コロナウイルスがオーストラリアに上陸した際、過去に使われてきたテストを新型コロナウイルスのゲノム配列決定テストに適応したとのこと。

オーストラリア国内における感染事例でゲノム配列を調査して、新たな感染例が既知のクラスターに関連付けられるものなのか、それとも未知の感染経路によるものなのかを特定する試みは、オーストラリアにおける都市封鎖などの決定に寄与したそうです。新型コロナウイルスのワクチンが開発されるまで、ゲノム配列の調査に関する研究に引き続き投資する必要があるとロケット氏は述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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