Googleが中国などに向けたクラウドサービス計画「Isolated Region」を放棄
by Craig Nagy
Googleは2010年に中国市場から撤退することを表明していましたが、2018年にはGoogleマップの提供を再開したことに加え、中国向けの検閲機能付き検索エンジン「Dragonfly」の開発を始めるなど、近年は中国市場への再参入を目指す動きが活発化していました。ところが2020年7月8日、「Googleは中国向けのクラウド製品開発プロジェクトを放棄した」と報じられています。
Google Scrapped Cloud Initiative in China, Other Markets - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-07-08/google-scrapped-cloud-initiative-in-china-sensitive-markets
Google reportedly abandoned a cloud computing product for the Chinese market - The Verge
https://www.theverge.com/2020/7/8/21317704/google-china-cloud-product-canceled-isolated-region-data-privacy
Googleはクラウド事業に大きな投資を行っており、2019年の第2四半期の決算報告では、Google Cloudが20億ドル(約2189億円)の収益を生み、年間で80億ドル(約8757億円)の売上高を生み出したことが明らかになっています。Googleはさらにクラウド事業を発展させることを目指しており、「2023年までにAmazonとMicrosoftのいずれかをクラウドビジネスで上回る」ことを強いられているとも伝えられています。
匿名を条件にBloombergへ証言した2人のGoogle従業員によると、Googleは中国やその他の政治的に敏感な国に向け、「Isolated Region(孤立した地域)」と内部的に呼ばれるクラウドプロジェクトを進めていたとのこと。このクラウドプロジェクトには世界中に点在する数百人の従業員が関わっていたそうですが、Googleは2020年5月に方針を転換し、Isolated Regionを放棄したそうです。
Isolated Regionは「国の内部におけるデータを自分たちで管理したい」という国の要望に対処するため、政府や現地のサードパーティー企業がユーザーデータを管理できるクラウド製品として開発されていました。Googleは、Isolated Regionを中央のクラウドシステムやネットワークから分離することで、政府や現地企業が他国の企業やユーザーのプライバシーを侵害する危険を冒すことなく、データを管理可能にしようと試みていたとのこと。
by Robert Scoble
「Googleが中国市場向けのクラウド製品を開発している」といううわさは2018年から浮上していました。データを政府の管理下に置きたい国にクラウド製品を提供する方法として、GoogleはIsolated Regionのプロジェクトを開始したとされています。
しかし2019年1月、Googleは中国市場向け製品の開発を一時停止したため、アフリカやヨーロッパ、中東といった中国以外の国にもIsolated Regionを売り込めるようにプロジェクトをシフト。ところが2020年5月には、Isolated Region自体が完全に放棄されてしまったとのこと。
Isolated Regionは中国をはじめとする国民の監視を厳格に行う国にクラウドサービスを提供するだけでなく、強力なプライバシー法が存在するEU諸国へのクラウドサービス提供も視野に入れたものだったそうです。また、アメリカでは「外国のサーバーに保存されているデータであっても、アメリカに拠点を置く企業のサーバーであれば政府機関がアクセスできる」というCLOUD法が成立しており、これに伴うプライバシーの懸念を回避するためにIsolated Regionが有効な可能性もありました。
2人の従業員はBloombergに対し、GoogleがIsolated Regionを放棄したのはCOVID-19のパンデミックなどにより中国などとの緊張が高まり、地政学的リスクが高まったからだと述べています。その一方でGoogleの広報担当者は、Isolated Regionが放棄されたのは地政学的リスクの高まりやCOVID-19のパンデミックによる影響ではないと否定しています。
Googleの広報担当者によると、Isolated Regionを放棄する決定を下したきっかけは、ヨーロッパおよび他の国の利害関係者との会話および意見だったそうです。「私たちはデータの管理、運用慣行、ソフトウェアの存続可能性といった要件に対処する包括的なアプローチを持っています。Isolated Regionは、これらの要件に対処するために検討した1つの選択肢に過ぎません」と広報担当者は述べ、他のアプローチでも厳格なデータ管理の要件を満たせることが判明したため、Isolated Regionが放棄されたと主張しています。
加えて、「Googleは中国国内でクラウドプラットフォームを提供しておらず、中国へのクラウドサービス提供の選択肢を比較検討していません」と、Googleの広報担当者は述べました。
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